「小林先生!!」 「げっ!小桜!!」 「え?何ですかその顔。その反応。酷い。私まだ何も言ってないのに。」
与 え ら れ る 示 唆
だるそうに歩くその背中に声をかけると、振り返った先生の顔はあからさまに嫌そうな顔だった。
「ま…まぁそうだな。ゴホン。で、なんの用だ?」 「いや、先生の知ってること洗いざらい吐いてもらおうと思って。」 「あ゙ー…ホラ予想通りだ…。」
ニッコリと自分なりの満面の笑みで言うと小林先生は顔を更に歪ませて大きなため息を吐いた。
「教えてくれると言ったのは貴方ですよ、先生。」 「ああ言ったな。しかし、時期が来ればとも言ったはずだが?」 「はい。…でも…私…もう待てないですよ……。」 「………小桜…。」 「この6年間ずっと探し歩いたの!!やっと見つけた手がかり…簡単に逃がしませんよ。」
ずっと知りたかった私自身の過去。6歳の頃に記憶喪失にあってしまい何も思い出せずにいた。どうしても教えて欲しくて自分の胸の内を話して縋るように小林先生の胸の辺りのシャツを掴んだ。
「………オ、オイ。」 「ねぇ。教えて先生…私の知らない事。」 「だぁああ!!そんな言い回しするな!!何か俺生徒相手にイケない事してるみたいだろ!!」 「へ?」 「(…無意識かよ…なんて女だ。)ゴホン!とにかくだ…こっちにも色々あってな…まだ話せない…ただし一つだけ教えてやる…お前の過去を知っている奴…俺なんかよりもっとお前の近くにいるかもな…。」
それだけ言うと私の手を振り払って、じゃーそう言う事で…とまた歩き出す先生。それを逃がすまいと後ろからガッチリと先生の腰にしがみついた。
「あぁーもうっ…な、何だよ!!」 「ちょっと待って!!もう一つ聞きたい事があります!」 「分かったから離せ!!一応聞いてやるから離せ!!何か殺気が……」 「え?あ、それで、聞きたい事って言うのは…」 「なんて切り替えの早い奴だ…」
何故か青ざめた顔の小林先生に疑問符を浮かべるが特に気に留めず話を聞くという条件の元一時解放してやり、先生の気が変わらないうちにさっさと本題に入った。
「小林先生…何者ですか?私の事を知ってる上さっきの絡んで来た男達に使ったアレ…もしかして人間じゃ……。」 「あーやっぱ気付いたか…。上手く誤魔化したと思ったんだけどな。」 「全然誤魔化せてないです!!あいちゃんも絶対不可解に思ってましたよ。」 「えー嘘。まじで。」
駄目だ…。意識があってかはたまた天性のものなのか何を話しても全てこの人のペースに流されてしまう。こうなったらこんな婉曲な聞き方はやめだ。
「ズバリ聞きます!!あくまで私の推測ですが…植木くんにあの能力を与えたのはあなたですか?小林先生。」 「フン…やはりか……。お前も能力者だな…美柑。」
え…やはりって…?ってか今名前で…。私が錯乱状態に陥っている中、小林先生は何かを感じ取ったのか「あーあ…アイツやっちまったなぁ」と呟いて一瞬で私の前から姿をくらました。しまった。油断した…と後悔したがもう遅く、仕方なくかろうじで認識できた彼の向かった方向へ私も小走りで歩を進めた。暫く走ると植木くんとあいちゃん、そして木の上に腰かける小林先生の姿が見えた。
「ん?小桜?」 「美柑ちゃん!」 「おぉ、小桜。早かったな。」 「先生…上手い事逃げましたね…。」 「んな怖い顔すんな。それより本題だ。その能力で他人を傷つけるのはルール違反…だったよな、植木。」
私は驚いて植木くんの方を見たが、彼は特に気にしていないような…すました顔をしていた。
「小桜…お前の推測通り。植木に能力やったのはオレだよ!」 「…え?」 「植木ってさあ、何かいつも…ボーっとしてるだろ?なんとなく気に入っちまってなぁ。能力を一つくれてやったのよ!自分で『ゴミ』と認識した物を『木』に変える能力!まあ、大事おこさねーように『手で覆える物』だけに限定してるケドな…だが植木は能力で他人をキズつけた!こいつはルール違反だ!!"罰"を与える!!!」
小林先生は植木くんの能力を実演し掌に生やした木を握りつぶして、もの凄い見幕でそう言った。その後私達はいたたまれない気持ちでそれぞれ帰路についた。
―――……
「おはよう、美柑ちゃん。」 「おはよー、あいちゃん!」
翌日。いつものように待ち合わせ場所であいちゃんと落ち合うと横に並んで学校へ歩き出す。昨日の事を聞くとどうやらあいちゃんを助ける為に植木くんは一般人に能力を使ったらしい…。にしても植木くんが能力者だったなんてね…最初に感じた違和感もそのせいだろうか…。あいちゃんも何か思い込んでいるようでお互い考え事をしながら歩いていると前方にあの緑色の髪が見えた。私達は顔を見合すと笑いあってその後ろ姿に向かって走り出した。
「おはよう!植木くん!」 「おはよう植木耕助!!!こーのモテモテ男!!!」
恐らく植木くんを元気づける為にだろう、あいちゃんは暴力に近いスキンシップ(ビンタ)を取り挨拶する。一瞬植木くんは顔を歪ませるがきっと彼女に悪気はない。その後もあいちゃんのマシンガントークが炸裂する。
「いつまでも落ちこんでんじゃないわよっ!能力が使えなくなったくらいでさ!!!あ!そうだ京都!京都に行こう!!」 「…あいちゃん…ハハ。」 「…べつに、落ちこんでねぇよ。…能力無くなってねーもん。」
そう言って道に落ちていたゴミを拾い上げ手で握り締めた植木くん。その掌には確かに木が生えていた。そう…罰とは能力を取り上げられる事ではない…。
「あいた!!ご、ごめんなさ…」
その時突然一人の女生徒が植木くんにぶつかった。すぐに謝ろうとしたその子は植木くんの顔を見てハッとする。もしかして…またラブコメ的展開…。なんて思っていると…
「寄るなボケェ!!!」 「!!?」 「な…?」 「え…!?」
ドガッと鈍い音が響いたかと思うとあろう事かその女生徒は突然鬼の形相で植木くんの顔を殴りつけた。あまりに突然の事でポカンとなる私達。植木くんが辺りを見渡すと女子達は皆「きゃぁあー!」「いやぁあー!」と悲鳴をあげて走り去ってしまった…。
「なんか…これが"罰"らしいぞ?」 「「………プッ」」
あまりにも滑稽な罰で私とあいちゃんは同時に噴出した。恐らく他人を傷つけた"罰"で女の子に好かれる才…の様なものを失ったんだろうけど…。アレ?…じゃあ何で私やあいちゃんには効果がないんだろう…。うーん…まぁいっか!私は余り深く考えず笑顔で二人の横に並び歩きだした。
―――……
「おい、小林」
その様子を電柱の上から黙って見ていた小林。その下方から突然声がかかった。小林が少し視点をずらすと近くの屋根の上に、白と黒の髪にあどけない顔をした青年が立っているのが見えた。
「あ?なんだ坊ちゃんかよ。」 「坊ちゃん言うな。柑葉だ!!いや…今はそんな事どうでもいい!!昨日の事全て見ていたぞ!!…一体彼女に何をした!!」 「あ?なんのこ…」 「なんの事だとは言わせないぞ。何で彼女が君に抱きつくんだ!!!道理がわからん!!説明しろ!!今すぐ!!詳しく!!明確に!!!」 「(やっぱりあの殺気はコイツだったか)…ったく。ウルセー奴だな。あー…何か"先生…私の知らない事教えて…"とか言われてそんで…。」 「なっ!?貴様ァ…なんて不届千万…許さんぞ!!!」 「キャラ変わってんぞ。柑葉。」
一人興奮する柑葉をよそに小林は落ち着いた様子でまた地上に視線を落とす。暫くしてやっと心を落ち着かせた柑葉も下に目を向けた。
「次、彼女に不埒なマネをしたら地獄に落としてやる…。…で。彼が君のエントリー候補か?」 「あぁ…一応な…。にしても…なんでアイツ等は植木と仲良くできるんだ…。他人を傷つける度そいつの持っている才は一つずつ消えていき、植木の"女子に好かれる才"も消えたはず…。」 「君が人間に手を出すからだ…。恐らくそれで罰が歪んだんだろう…。」 「あ?手なんか…出してんじゃん。」
昨日、森と美柑を助ける為に人間に手を出した事を思い出し納得する小林に柑葉はため息をついた。
「耳を疑うよ。君が百いる神候補の一人だなんてね…。」 「お前もだろ?最年少神候補様。」 「次の神様を決める為僕ら神候補が参加させられたこのゲーム。百人の神候補が各々選び抜いた一人の中学生に能力を与え、戦わせ、その人間を頂点に導く事を競い合うゲーム…。あいにく僕はこのゲームに乗り気じゃないけどね。」 「じゃあ何でわざわざアイツを参加させた?かなり危険な目に合う可能性もあるんだぞ…。」
小林がそう問うと柑葉は少し顔を歪ませて遠い目で答えた。
「チャンスを与えたかったのさ…。彼女は空白の才に望みをかけている…。最も僕は彼女の優勝を望んでいないけどな…。ところで、何も話していないな?」 「まぁな…。少し感づいてきているようだが…。」 「そうか…くれぐれも内密にしておいてくれよ…。少しお喋りが過ぎたか…僕も暇じゃないからな。」 「あ?お前仕事なんかしてねーだろ?」 「今日はスーパーの特売日なんだ!!逃したら僕の信頼を落とすハメになる!!!」 「はいはい…。」 「それでは失礼する。」
散々話すと柑葉は屋根の上を渡ってスーパーへと向かっていった。小林は見えなくなるまでその背中を目で追いかけ、また地上の3人に目をやると、楽しそうに笑う美柑の姿に目を細めた。
「…手にした者がひとつだけ好きな才能を書き込める…"空白の才"か…。なんで、んな物人間なんかにやらにゃならんのだ!今の人間は好きくねえ!なにせ本当の"正義"ってモンをわかってねえ!…だが…。」
"半信半疑だが…。ためす価値はある。植木、お前に…己が才すら0にする…正義があるか!!?"
07話 end...
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