「やだ!行かないで!」

手をのばしても届かない。とは知っているが、それでも手をのばしたい。真っ黒なかげを追いかけて追いかけて、少し前、かすかと一緒に見たきおくがあるアニメ映画の主人公のようにおいかける。
かげはそんなおれをみて楽しんでいるかのように、スキップしつつどんどん先へ行く。ここは真っ白でいみふめいで居心地が悪くて吐き気がする。そんなところに置いて行かれるのはいやだ。
かげとおれしかいない感じがするこの世界で、かげがどこかへ行ってしまえばおれは一人きりになってしまうかもしれない。誰かがここにいるかもしれないが、それはかくじつにいるわけではない。
おれは一人がきらいだ。学校では人間以上の力を九才のおれが持っているのがおそろしいのか、先生や仲の良かった友達がおれをさけ、初めて恋を知ったときも、力のせいで…。おれはこの力がきらいだ。力よりも一人ぼっちのほうがきらいだ。
一体どれくらい走ったのかはおぼえていないが、だんだん足が痛くなってきた。かげはのんきにスキップをしている。かげは二十才以上の大人に見えるから、おれの足がひめいをあげてもかげはそれ以上歩けるのだろう。ああなんてうらやましい。

大人になりたい はやく はやく 大人になりたい

目が覚めた。どうやら夢を見ていたようだ。夢の中での俺は一番不安を抱えていた頃の姿で、ノミ蟲みたいな影を追いかけていた。夢の中でもでてくるのか、とイラつくが別にそんな嫌ではなかった。
ボサボサになっているであろう俺の髪の毛を掻き毟って起き上がる。と、隣に何かある気配がして急いで横を見てみる。

「…おはよ、シズちゃん」

寝惚けているのか、声の持ち主である俺の大大大大大大大大大大大大大大大大(以下省略)嫌いな折原臨也の目はショボショボとしていた。

「なんで手前が俺の隣にいるんだよ」

苛立ちを見せるように言ってみせれば臨也は目がきちんと覚めたのか、にへと怪しげに微笑んだ。

「昨日、シズちゃんは一人で美味しいお店屋さんに行きました。お酒を呑みすぎました。いや、そんなに呑んではいないのだけれど、シズちゃんはお酒に弱いからせいぜい二杯半くらいかな?そんで酔っ払って眠ってしまったシズちゃんを、偶然そのお店に来た俺に連れられシズちゃんのお家まで着ました。OK?」
「……おーけー…」
「ん、いい返事」

そう言ってむくりと起き上がり、俺の頭を撫で始めた臨也にイラッとする。臨也は微笑んだまま

「んで、見た目とは違って結構軽かったシズちゃんをベットに放り投げてみたらシズちゃんその衝動で寝惚けつつも起きちゃって、俺を何と間違えたのかは知らないけれどわざわざ立ち上がって俺のところに来てメリメリと抱きついてきて、軽く死にそうになりながらも一緒にベットにはいったの。抱きしめられたままね」

あーそういえば体がいたぁい。シズちゃんのせいだー
棒読みで言う臨也に殺意がメラメラと沸いてくるが、臨也の言うとおりならば酔っ払ってしまった俺がいけない。素直に謝罪してみれば臨也は目を丸くして吃驚したように俺をジロジロ見始める。

「…何か変なの食べちゃった?」
「んなわけねぇだろ」
「えー怪しい…。まあいいや、じゃあ俺シズちゃんが大人しい間に帰るねーバイバイ」

ぎしりと音を立ててベットから降りて寝室のドアを開けた臨也が、夢に見た影と一致した。



2010 09 25 何気に続きますよう

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