もしも私が死んだら、恋人である藤くんは悲しんでくれるのだろうか。嘆いてくれるのだろうか?それが気になって気になって、きっと私は死ねないだろう。どうせなら藤くんの後に死にたい。藤くんの死に顔を思い出しつつ死にたい。それならば安らかに眠ることができそうだ。
 むくり、と何時ものように早起きするのは私。藤くんは呑気に私の隣で眠っている。幸せそうではないが、その寝顔が羨ましくてちょっとした意地悪のつもりで藤くんの顔にバッサーと私がと藤くんが眠っていたベットの、布団をかける。それでも彼は起きなかった。
 窒息死でもしてしまうんではないか、と急いで布団をどかしたけれど苦しそうな様子も見せない藤くんにちょぴっとだけの飽きれと殺意。ああ、今日も寝坊してしまうのか彼は。

「藤くん、起きて…」

 ゆさゆさと軽く体をゆすってみるけれど、眠ったまま不愉快そうな「んー」と言う声を発して体を丸くしてまた寝始める。いつものことだけれどいつものことだからこそ、起きてほしいのに。いつも私が控えめに「次はちゃんと起きてください」と言ってきちんと了解と言うのに。起きないではないか。からかっているのかな、私のこと。
 藤くんのお兄さんである山蔵さんに教えてもらった通りな脅しでもしようとふと考えてみるが、それは勇気が必要だ。正直フライパンとおたまが奏でる音は苦手でしょうがない。藤くんも苦手らしいけれど、それじゃあ共倒れよ。
 しょうがない、と諦めてベットから降りる。ぎしりと言う音が耳に届いて藤くんはこの音で起きたんじゃないか?と言うわずかな期待を持って振り返ってみるけれど、藤くんは眠っているままでため息を一回ついて私はゆっくり寝室から出て行った。

 まだ少し苦手だけれど、朝食は作らなくてはいけないから。そう意気込んでキッチンに行くために階段を下りる。滑らかな坂となっているのだから階段ではなく普通に坂としてほしいのに、と階段が少しだけ苦手な私は思わず考えて笑ってしまう。
 とんとん、とリズミカルに階段を下りて一階にたどり着く。一軒家、それも二人だけで暮らしているこの家が広く感じてしょうがない。一生モノの家だとしても、火事とか考えると恐ろしく感じてしまう。火災保険には入っているけれど。
 余計なことを考えつつも私はリビングに向かい、やたらとでかい冷蔵庫を開けて卵とハムを取り出す。今日はウインナーも焼こうと思ったけれど野菜で補おうと考え、冷蔵庫についている野菜室を開けてレタスときゅうりと林檎を取り出した。
 藤くんと私はサラダに青じそドレッシング派だし、野菜と林檎が一緒にはいっているのが好きな私の完全なる趣味だ。
 手を洗ってからレタスは適当に手でちぎってボールの中に入れて水につける。包丁とまな板を取り出してきゅうりとハムを切って、ガスコンロにフライパンを乗せて火をつけ、卵を割って目玉焼きを作る。ハムもその数秒後にいれた。

 ドタドタという音が聞こえて少し吃驚した。藤くんが自力で起きたのだ。いつもは私が一生懸命起こさないと起きないのに。吃驚しつつも盛り終わったサラダと目玉焼きハム付きを持ってリビングに向かう。オボンと言う便利なものがあってよかった。なんてしみじみ思って、藤くんにおはよう。と言えばおはようと返してきた。ことん、とテーブルの上にサラダたちを乗せる。

「今日は、は、早起きですね…」
「昨日、お前言っただろ。明日は早起きしてくださいねー。って」
「お、覚えていてくれた、の…?」

 当たり前だろう、とテレビのリモコンを持ちながら言う藤くんに嬉しさがこみ上げてきた。藤くんは視線を逸らしつつポツリと小さな声で言った。その言葉を聞いて私は嬉しさのあまりガタガタ震えて折角盛り付けたサラダがテーブルにて無残な姿になってしまったけれど、そんな小さなこと気にしないほど嬉しかった。


2010 09 22
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