今さらだけど花誕(花巻さん誕生日の略)

 少しだけ胸が躍る一日。
 少しだけお洒落してみようと、私は随分前に買ってみた紫色のピン止めを手に取り前髪を右にずらし、留めてみた。
 どうかな。とおそるおそる鏡を見てチェックしようとしたら、一階からお母さんが「学校遅刻するわよー!」と言ってきたので、慌てつつも急いで鞄を持って階段を降りる。
 そして、バタバタと慌しく一階にやってきた私にお兄ちゃんが何か言おうとしたけど、その言葉を聞く暇もないまま私は玄関へ駆け寄り靴を履いて「行ってきます」と言い玄関のドアを開けて飛び出した。

 遅刻ギリギリだった。
 駆け込んだ学校の校舎の中。靴箱が学年、クラスごとに分かれているところの真ん中に時計があるもので、ゼェゼェと息が上手くできない中時計を見てみると。予鈴の一分前だった。
 予鈴の三分後には本鈴も鳴ってしまうので、これは行けない。とあまり動かない足を必死に動かせ、靴を脱いで靴箱に入れて、その中に入っている上靴を履いて走りだす。
 廊下にはまだ人がいたけれど、そろそろ戻らなきゃいけない時間なのでほんのわずかだった。
 急げ。急げ。と脚を動かしてようやく着いたクラス。急いで教室の中にある時計を見てみると、本鈴が鳴る一分と三十秒前だった。
 私の数少ない友達が、おはよーと何気ない挨拶をしてきて、噛みながらもおはようと告げて自分の席へ座る。
 まだ余裕のある。と思っているその友達数人が、私の元へ駆け寄ってきてにこりと微笑んだ。

「誕生日おめでとう。花ちゃん」

 はい、と差し出されるラッピングのされた小さな袋と、私の誕生日を覚えていてくれたんだ。と言う嬉しさと恥ずかしさから、顔全体が熱くなるのを感じつつもありがとう、と言って袋を受け取った。
 意外とずしり、とする袋からしてストラップのようだ。家に帰ってから開けてみよう。とわくわくしつつ本当にありがとう。と微笑むと、次々にもらえるプレゼント。
 あと三十秒ほどで本鈴がなってしまうので、友達は「じゃあまたあとで」と言ってどんどん席へ戻っていく。
 そして、私の後ろの席の友達も席に戻って、丁度本鈴がなった。
 十秒ほどしてやってくる先生にあわせて、クラス委員が起立と言うもので少しわたわたしつつも立ち上がる。礼、と言う声とあわせて礼をして、着席と言う声を聞いて着席をする。
 先生は何か話し始めていて、話を真面目に聞いておかないと。と思ってはりきって耳を傾けていると、後ろの席の友達が小さな声で私に話しかけた。

「そのピン。とっても似合っているよ」

 顔はみえないが、笑っているようだ。
 ありがとう、と小さな声で返事をしてちらりとその子をみていると、やっぱり微笑んでいた。そして、私は何故か視線を感じてその方向をみてみる。と、藤くんがじいと私を見つめていた。
 何か悪いことでもしてしまったのだろうか。なんて考えてみるけれど、最近藤くんと話なんてできてなかったし、一体なに!?と悶々考えてしまい、反射的に目を逸らして先生の方をみた。
 先生の言葉は何一つ私の耳に入ってこなくて、何か重大なことを話していたらどうしよう。だなんて思ったけれど、いつの間にか一時限目が始まる前の五分休みになっていた。

 ふう、と息を吐いて自分自身を落ち着かせる。そして何故藤くんが私を見ていたのか、と言う疑問は脳みその片隅に置こう。と決意して一時限目の授業で使う国語辞典とノートと教科書を鞄から取り出した。
 とんとん、と何気なく教科書とノートの位置をそろえてまとめて机の右に置く。そしてもう一回息を吐いて、何気なくきょろきょろと左右を見た。
 左側に、藤くんとアシタバくんと美作くんがいた。
 ビックリして思わず体が跳ねる。すると、アシタバくんが苦笑して大丈夫?と問いかけてきたもので、恥ずかしくてしょうがない顔を隠すように俯いてコクンと頷いた。
 そう。と返事をしてきたアシタバくんに、会話を続けるべきか否か悩んでいると。美作くんが少し大きめな声で喋りだした。

「花巻。今日、お前の誕生日なんだろう?ってことで誕生日プレゼント持ってきてやったぞ」

 ちなみに俺の誕生日は、と言ったところでゴンッと鈍い音がした。
 一体何事?と見てみれば、藤くんが美作くんの頭を拳骨していて。涙目になりながらも藤くんに何すんだ!と怒り始める美作くんをみて、思わず苦笑する。

「お前はいっつも余計なこと言うんだ。お前の誕生日なんて知りたいの本好ぐらいだろ。まあ…とっくの昔に知っているけどな。まあいい。とりあえず、だ。花巻」

 ぐるり、と体を回転させて私に視線を向けた藤くんにビクリとなりつつもはい、と返事をしてみる。

「誕生日、おめでとさん」

 そう言って渡してきたのは、私が愛用している消しゴムだった。
 美作くんがいつの間にか復活して「なんでそんなもんチョイスしたんだよ」と言っていたが素直に嬉しくて、ぷるぷる震える手で受け取った。
 すると美作くんとアシタバくんも渡してきて、なんて素敵な誕生日なのだろう。と思いつつも受け取る。
 アシタバくんのプレゼントは押し花が入ったしおりで、美作くんのは少しゴージャスなピン止めだった。
 そしてあっという間にチャイムが鳴って、先生が来そうな気配を感じたのか三人は席へ向かい始める。
 だけど、藤くんは一回ピタリと止まった。私の席のちょっと後ろくらい。どうしたのだろうと思いつつ見ていると、藤くんはニコリと微笑んで言った。

「そのピン止め、似合ってるぜ。美作があげたピン止めより俺はそっちのほうが好きだ」



持ち帰る人なんていないと思われますが、永久フリーです
2010 09 14
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