どきんどきんと心臓が鳴る。
 いつも見ているだけの存在だった藤くんが、今、私の目の前にいるのだ。
 それだけで死んでしまいそうなくらい、綺麗な顔をしている彼は、私がノートを胸に抱きしめて心臓の音を隠していると言うことに気付きもせず、私の顔をじろじろと見ている。
 何の用かは分からないけど、その視線で人を殺せる感じがするから別な方向を向いてほしい…。
 くらくら、と倒れてしまいそうな心臓の高鳴りと視線。嗚呼、どうすればいいの…。と、今にもパンクしそうな頭。それでもここで倒れてしまったら負け、と言う気持ちがでてきて必死に耐えているのだけど…―――なんでわざわざ教室で私の事みているのかな…っ!
 他の人の視線もチクチクと突き刺さるように浴びていて、ほんと、なんか限界かもしれない…。なのに、藤くんは嫌というほど爽やかな顔で私を見ていて、ほんとなんなのよ…。
 きっと、クラスでドッキリとかしていて、私をターゲットにしたんだわ。間違いない。そうよ、そう考えれば藤くんとみんなの視線に耐えられるわ。――――多分。
 心臓が段々と落ち着いてきて、一息つき、また藤くんをちろりとみてみる。相変わらずニコニコしているので、やっぱりドッキリなのね。と再認識して少しガッカリしてみる。ま、まぁ、どうせ藤くんなんてクラスメイトの一人にしか思っていないのよ。知っていたに決まっているじゃない少し悲しいけど…
―――って、落ち着きなさい美玖。悲しんだりしないで、一回何も考えずに無心になるのよ。
 自分に言い聞かせて目を瞑り、更にぎゅうう、とノートを抱きしめる。
 あ、なんか落ち着いてきた…。よおし、と目を開けてみれば藤くんの顔がドアップ。

「ひにゃああああああっ!?」

 反射的に叫び声を出してしまい、静まりかけていたみんなの視線が一斉にこちらを向く。
 藤くんも、目をパチクリと開いていて吃驚しているようだ。うう…恥ずかしい。
 しかし、藤くんは意外にも早く冷静になりふんわりとメレンゲのような笑みをした。

「花巻って、やっぱ可愛いな」

 キザな男、とはこのことなのかも知れない。
 キャラが崩壊しかけている藤くんに異常を感じるけど、か、可愛い……って言われたのはちょっぴり…いや、物凄く嬉しい。
 で、でもどうしよ…。もしかしたらピーちゃんのような、びょ、病魔に罹っているのかな?



2010 08 11
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