「青、ちゃん…」

 声は聞こえているのだろうか。青ちゃん。あたしはここだよ。ここにいるんだよ。抱きしめてほしいよ。青ちゃん。どこへ行ってしまったの?遭いたいよ。
 涙がでてしまいそうだったけれど、必死に我慢して下唇を噛み締める。もう二度と遭えないだなんて、認めたくなかった。先輩が慰めてくれたけど、それじゃ足りなかった。青ちゃんの声で、あたしの名前を呼んでほしい。青ちゃんの手で、あたしの頭を撫でてほしい。
 昔はそんな些細なこと、と言って撫でたりあたしの名前を呼んでくれた青ちゃんはもういなくて。堪えきれなくなった涙があたしの頬につぅと零れ落ちてきた。





「そんな夢みたいんだあ」

 けらけらと笑って青ちゃんに言ってみれば、不機嫌そうにあたしの顔を見る青ちゃん。
 夢でよかった。と付け足せば切なそうな顔をする青ちゃん。
 こんなにも青ちゃんに埋め尽くされているあたしは、ぽふんと力なく青ちゃんの胸に飛び込む。飛び込む、と言うより寄りかかると言うほうがあっているような気がするが、それでもいいのだ。飛び込みたい気分なのだ。
 この世にカミサマなんていないと思う。青ちゃんで埋め尽くされているあたしに、あんな悪夢をみせるだなんて。それも、とてもリアルで悲しくて朝起きたときも涙の跡があって弟に笑われたぐらいだ。

「中島」

 名前を呼ばれた。相変わらず名字呼びだけれど、それでもよかった。
 なあに、と返事をして顔を上げればちゅっと言うリップ音が聞こえそうな、触れるだけのキス。それがまた切なくさせる。

「青ちゃん、だぁいすき…。ずっと一緒にいようね。あたしが青ちゃんの一部になれたらいいのに。そうしたら何もかも、ずうっと、ずうっと一緒なのに。死ぬまで一緒なのに…。ううん、死んでも一緒だね。そんな存在になりたいなあ…」

 あたしの言葉に青ちゃんは返事をせずに、ぎゅうと強めに抱きしめてきた。
 青ちゃんの心臓の音がリアルに聞こえる。どくんどくん、力強く鳴いている心臓がとても恋しい。嗚呼、青ちゃんの心臓になりたいなあ…



2010 08 28
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