すきとかきらいとか。そんな軽々しく言わないでよ。きたいしたりおちこんだり。私だって忙しいんだから。
 かっこいい笑顔で私の名前を呼ばないでよ。いつもは名字で呼ぶくせに、何かあったときにだけ名前呼びとか恥ずかしいじゃない。
 伝えたいけれど、中々声に出来ないことはいつも日記に書いている。パソコンは持っているけれど、日記ぐらいはアナログで。と思っているからピンク色でチェック柄な日記帳は手放せない。誰かに見られたらきっと死んでしまうから。死なないけれど、恥ずかしさのあまり学校に行けないかもしれないし。

 嗚呼、今日も学校ではほとんど何も言えなかった。自分を偽っているわけではないのに。何故人前だと恥ずかしくなるのだろうか。言葉がうまくでてこなくて。いつも心の中で泣いてばかり。嘆いてばかり。
 変わりたい。
 今の私じゃなくなってしまいたい。そう、藤くんのような。たくましく勇ましく、格好良く。私の持っていないものを全て持っていて。そんな、人に、なりたい…―――





 目が覚めた。いつもよりも体が重いような気がするけれど、生理でも来たのかな。と予定より全然早い生理を確認する為に、むくりと起き上がってトイレへ行こうとする。
 そこで少しの異変に気がついた。
 ベットで寝ていたはずなのに、何故布団で寝ていたのだろうか。それに、手が男子のようにガシリとしている。ああ、これは夢なのね。確認する為に頬をムニリとつまんでみる。

「い…ったあ…」

 ヒリヒリ赤くなっているだろう頬を押さえて、痛みを堪える。
 そして考えてみる。先ほどの声は、藤くんの声にそっくりだ。藤くんでもいるのだろうか?いや、でも、シーンッと静かなこの空間にいるとは考えられない。人の気配と言うものに敏感な私が言うのだから間違えない。
 と、言うことはどういうことなのだろうか?
 まさかベタな「精神入れ替わり」と言うものであったりしたら…なんて、馬鹿らしい。
 かすれる声で笑ってみるけれど、藤くんそっくりな声が聞こえるだけで、私の声なんて聞こえやしない。

「…………嘘、でしょ…」



2010 08 29
虫喰い
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