知多、と話しかければ水槽越しになに、と返事がきた。手を水槽にぴたりと当ててみれば、知多も同じことをした。あたしは、ここからでたいのに、でたら死んじゃうから、と言う恐怖に勝てなくて、大好きな知多と直接触れることができない。なのに、知多は毎日のようにあたしのところにくる。それが嬉しくて、でも知多が可哀想で。

「無理しないでね」
「どういうこと?」
「なんか、無茶してるでしょう。あたしには解るんだからね。身体を大切にしてね」

なんか沢山喋りすぎて、止まりすぎて息ができなくなってきた。そんな中、知多をみると焦っているような、悲しそうな顔をしていた。

「知多?」
「なあ、鉄火マキ。こっちに、外の世界にこないか?」

なにを、急に言い出すんだろうか。思わずはあ?と聞き返すと、知多はごくりと唾を飲んだ。

「一瞬でもいいから、俺と、直接手を握りあって、抱き締めあって………」

躊躇うかのように口からだされた言葉は、魔法の呪文のようにあたしの身体を包み込んだ。そして、あたしは機械のように水槽の中を走り回る。地上では息ができないから、ここで溜めておかないといかない。一周したときに、そこにまだ知多がいて、ぽかんと間抜けな顔をしていた。

「ほら、あたしを外に出すんでしょう?準備とかないの?」
「え、あっ!マキ、水槽の終わりに亀裂が入ってるんだ」
「そんなのがあるの?」
「俺が深夜、作った」
「な……っ」

全然気がつかなかった。唖然としていると、知多がにこりと笑った。

「マキのためなら、なんでもするし」



20110405


- ナノ -