「だめ!これ以上は禁止。」
三蔵が私を不満げに睨むが、これだけは譲れない。
マヨネーズのボトルをさっと取り上げる。

三蔵が人間化して以来三蔵は私と同じ食事を摂っているが、どうやらマヨネーズをお気に召してしまったらしい。
とにかく、何にでもマヨネーズをかけたがる。

「たこ焼きにマヨネーズかけるのと同じだ。」
「三蔵の場合は量が多すぎるの。」
というか、今食べてるのはラーメンでしょ。
しかも時間が経って伸びきったやつ。
それにマヨネーズって…。
三蔵はバカ舌なの?

「…何見てやがる。」
「べつにー。」
食育って今からでも間に合うかな?
このまま放置していたら体調を崩してしまうんじゃないか、とこっちは心配してるのに。

「じゃ、これはもう片付けます。」
冷蔵庫の取手に手をかけて宣言する。
そんなに睨んでももう私には効かない。
慣れって怖い。

マヨネーズをしまおうとすると、三蔵が後ろからボトルを取り戻そうとのし掛かってくる。

「いいから返せっ。」
「返せってこれは三蔵のじゃないし。」
こうしてじゃれているうちに、両手を抑えられ後ろから抱きしめられているような体勢になってしまった。

慌てて拘束から逃れようと顔ごと体をひねると、思ったより近くにあった三蔵の紫の瞳と視線がかち合ったと同時に唇に柔らかなものが掠めた。




翌日、三蔵は猫の姿のままソファを一人で占領して額へのキスを強張らない。
「さんぞー。キス、しないの?」
あ、額のほうね、と付け足す私の問いかけに三蔵はふい、と顔を背ける。
どうやらこれが答えらしい。
気まずくなると人間化しないってなんだかずるい。


せをむけてはいけません


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