「三蔵、コーヒーどうぞ。」
リビングにいる三蔵は人間の姿でくつろいでいる。 三蔵は1日の大半は人間の姿で過ごす。
なんでもこっちのほうが過ごしやすいとか。
「あのね、ルールを決めたいと思うの。」
「ルール?」
コホン、と咳払いをして切り出した。
三蔵は怪訝な顔で聞き返す。
下から見上げられているのに、なぜか私の方が姿勢を正してしまう。
「昨日みたいなことが起こらないように。」
「……。あぁ、のし掛かったのは悪かった。」
三蔵も、申し訳ないとは思っていたみたいだ。
よく思い返せば、三蔵も紫色の瞳を大きく見開いていた。
あんなことになるとは思っていかったんだろう。
それにしても、昨日は本当に心臓に悪かった。
起き抜けにあのハプニングはつらい。
三蔵は家では人間の姿で過ごすし、ルールを決めておいた方がお互いに住みやすいだろう。
「じゃあ、人間化したいときは私に許可をとること。あと、もうひとつ。」
実は、こっちのほうが本命だったりする。
「私のお気に入りのソファー、使いたいんだけど。」
よっしゃ、言えた!言ったった!
三蔵の鋭い目付きに臆することなく。
最後のほうは声が小さくなったけど。
「……このソファーは俺も気に入ってる。二人で使えばいいだろ。」
三蔵が寝そべって使うから私が使えないんです、とは怖くて言えない。
三蔵みたいな美人の不機嫌な顔は特に怖い。
どうしたものか、と思っていると三蔵がおもむろに上半身を起こした。
私の腕を軽く引っ張り、ソファーの端に座らせる。
そしてまた寝転がった。
いわゆる膝枕の形になり、体を固くする私を尻目に三蔵は
「これでいいだろ。」
とのたまった。
私が反応を返せないでいるうちに、三蔵はちょうどいいポジションを見つけて落ち着いてしまった。
「なあ」
と声をかけられ、驚く。
膝枕の体勢では声で平静を装っても、それは無駄な努力に終わった。
「俺はお前の提案を飲んだんだ、お前も俺の提案を飲むのが筋だろ。」
そうきたか。
まぁ、この猫のお世話を少ししてきて、ただで要求を飲むような子じゃないことは分かっていた。
「俺が人間化してから、よそよそしい。」
止めろ、という三蔵の顔は見えないが、声でどんな表情かは想像できる。
バレていたんだ、というのが正直な感想だ。
1人暮らしが長いせいで他人が家にいる、という感覚にどうしても馴染めず、どこか三蔵に対して気後れしていた。
しかし、三蔵の立場からすれば三蔵はどのような姿であれ三蔵であることは変わりのないことだ。
「そっか、そうだね。ごめん。」
ゆっくり、慣れていこう。
そういった意思をこめて柔らかく、三蔵の髪をひと撫でした。
あまやかしすぎはいけません
back