「…嶺二先輩?」
「んー。」
嶺二先輩が仕事から帰ってきてからこんなやりとりが10分は続いている。
後ろから覆い被さるように抱きつかれているから、首筋に先輩の髪が当たってくすぐったい。
先輩からはアルコールの匂いがするし、体も火照っている。
どこからどうみても酔っぱらっていた。
珍しい。
仕事の打ち上げで飲むことはあっても、ここまで酔って帰ってくることなんてなかった。
だいたい嶺二先輩はいい大人(アラサー、って言うとむくれる)だから、自分の限界は分かっているはずだ。
私は先輩の顔を見たくて体の向きを変えようとすると、逃げると勘違いしたのか、腕の拘束を強めた。
ちょっと苦しい。
とりあえず腕の拘束を解いてもらおうと私が何かいう前に、先輩が唐突に口をひらいた。
「ねぇ、no nameちゃん。…寿ってどう思う?」
「寿、ですか。…めでたいイメージがあります。」
それがどうしたのだろうか。いまいち先輩の質問の意図が掴めない。
「…家に帰ってきてno nameちゃんにただいまって毎日言いたい。」
「同居しますか。」
まぁ、今も先輩の合鍵を頂いてて休みの日は先輩にご飯を作ったりってしてるからほぼ同居状態なんだけど。
「…毎朝僕のためにお味噌汁作ってほしい。」
「あれ、先輩朝はコーヒー派ではなかったですか?」
「………。」
脈絡のない会話が続くが、どうやら私は先輩が喜ぶ答えを言えてないらしく、黙りこんでしまった。
先輩は質問を重ねるごとに私にどんどん体重をかけていく。
もうそろそろ支えきれない。
私の足が限界に達しそうになったとき、急に先輩が私と向かい合うようにシャキッと立ち、両肩に手を置いた。
瞳はアルコールのせいで潤んでいるものの、私をまっすぐ見つめている。
「指輪、買おう。結婚指輪。そんで籍いれたい。」
「………。」
今度は私が黙りこむ番だった。
本当はわかっていた。先輩の言いたいこと。
ただいまのくだりくらいから。
「…ありがとうございます。けど、こうゆう大事な言葉はシラフの先輩から聞きたいです。」
「no nameちゃん…。」
先輩は私を抱きしめて、ごめん、プロポーズに緊張して飲み過ぎちゃった、というと体を離した。
「明日の朝一番にもう一度伝えるよ、僕の気持ち。」
「はい、まってますね。」
私の返事に対して、お酒のせいかふにゃりとはにかむ先輩を見て私は、明日がとても楽しみになった。
肝心なところでヘタレ
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