寝顔
「ねぇ、はっか…」
昼下がり、新聞から顔をあげて八戒の名前を呼びかけたが、慌てて口を閉じた。
八戒が寝ていたから。
夜は寝るのが私より遅く、朝は誰よりも早く起きている八戒の寝顔を見る機会はあまりないので、思わずじっと見つめてしまう。
「わ、まつげ長い…」
寝顔もかっこいいな…。
そっと頬を撫でてみる。大丈夫、起きてない。
肌、つるつるだ。
化粧水とかつけてるところ見たことないし、なにもしてなくてこれか。
羨ましい。
流れで唇を指先でなぞる。
いつもは恥ずかしくて、なかなか自分からキスはできないけど、今ならできるかも。
……。
やっぱり想像するだけで無理だ。
代わりに頬にそっとキスをおとす。
「…no name」
「?!」
お、起きてた?!
八戒の綺麗な深緑の目がこちらを見つめている。
「僕は唇にキス、期待してたんですけど。」
頬に手を添えるまではよかったですよ、と意地悪な顔で八戒が囁く。
「い、いつから起きてた?」
「んー、『わ、まつげ長い』辺りからです。」
結構序盤のほうじゃん。
きっとキスするのを迷ってた様子も見られていたに違いない。
恥ずかしくなってうつむいてると、頬に手をあてられて顔を上げられる。
軽いキスが唇にふってきて、目を閉じた。
最初は啄むようなキスで、だんだんと深くなってくる。
酸欠寸前で唇がやっと解放されて、息が乱れてしまう。
そんな私をくすり、と笑うと
「次は唇にお願いしますね?」
と耳元で囁くと、夕飯の支度しなくちゃ、と部屋を出ていった。
私は顔が真っ赤でまだ部屋を出れそうにはない。
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