ハナナ日和B
もはや定番となりつつある、ある朝の事。
あたしはトイレに行こうとトイレの扉の前に立っているわけだが、
ジ ャ ァ ァ ァ ア ア ア
中に人の気配がする。
なぜだ。なぜ中から流す音が聞こえるんだ。
ヒーならさっきバイトに行ったぞ。すなわち今この家にはだれもいないはずだ。
泥棒か?我慢できなくなったのか?……いや我慢しろよ。頑張れよ。
そう思っているうちに扉が開いた。一瞬身構える。
しかし出てきたのは茶色い団子頭。
「あ、華魅ちゃん。」
いや、あじゃねぇよ。
「お前、上がるなら一言…――」
「華魅ちゃん今なにしたい?」
……とりあえず詫びようかナナさん。
これは不法侵入だ。犯罪だぞ。
…まぁ、しょうがないか。ナナだし。
「いきなりどうしたナナさんや。」
「僕ね、レッドになりたいっ!」
聞いたのは自分の夢を語るためだったのか。
聞かなくてもいいんじゃないか、それ。
「レッドつぅと?戦隊もののヒーローのことか?」
「うん!そうっ!レッドになりたい!」
「……ちぃと難しいかもな。」
ほんとにこいつヒーロー好きだな。
お前がなれるのはたとえ頑張ったとしてもヒロインだってのに。
性別の壁は時と場合によっちゃくそ高いのさ。
どうやら本人にあたしの言った言葉は聞こえないらしい。
ナナは完璧ともいえるレッドの決めポーズの真似をしている。…少し恐怖心が芽生えた。
いや、そんなことよりもだ。
「トイレに行きたいんだが。」
本来の目的がまだ成し遂げられていない。
全く、こいつのせいであと1メートルもない距離で時間を食っている。
さすがに今のは耳に入ったのか、ナナがキョトりとこちらを向く。
「あ、そうだ。華魅ちゃんのしたいこと、まだ聞いてないや。」
聞こえてなかった。
しかもにこにこ笑いながらぴょんぴょん跳ねだしてしまった。新種の生命体かお前は。
「ねっねっ!華魅ちゃんはなにしたい?」
「何って、……トイレに行きたい。」
ナナの動きが止まる。
「え?冗談やろ。」
「なんで関西弁なんだよ。そして冗談じゃねぇ。」
ものすごく心外だという顔をされた。
ってかお前を挟んでてもトイレの前にいるんだから当たり前だろ。
「なんで世界平和じゃないの!?」
「お前それやりたいこととは言わないだろ?ってかはやくそこどけ!」
いつまでトイレの前で話す気だ。こちとら限界が近付いてんだよ。
「……まあ、後の話は中でゆっくり話すとしようかジョニセフ君。」
ナナがトイレのドアを開けて中へと促す。…誰だジョニセフって。
「トイレでどうやってゆっくり話すんだよ。」
「中に椅子もあることだし。あれ、一つしかない。しょうがないここは君に譲ろう。」
「それは椅子じゃない便座だ。そしてなぜお前も入ろうとする!?」
あえてジョニセフを無視して中に入ろうとすると、あろうことかこの馬鹿(ナナ)も付いてきた。
「だってまだ華魅ちゃんのしたいこと聞いてないし。」
「わかった!後で言うからお前は居間で待ってろよ!」
「ヤダっ!今がいいっ!」
「なんでだ!?」
畜生。こんな狭い空間で攻防戦を繰り広げるなんて。
くそぅ、限界が近づく!
「わかった!言う!言うから!!」
思わず叫んでしまった。
とりあえずこいつの満足することを言うとしよう。
「あたしは今、世界平和したい。」
なんて文法のおかしい願望なんだ。
しかし目の前の馬鹿は満足したのか、にこにことほほ笑む。
「それ、やりたいこととは言わへんで☆」
「………」
結局は暇つぶしか。そして何故関西弁。
どうやら、今日もこいつの面倒を見るらしい。
まだまだ今日は長いな。
終。
+ あとがき +
華魅の広い心がナナを支えているのです。
ちなみにナナは中国で育っているので関西出身ではありません(笑)
ハナナ日和
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