華雛姉妹の夏祭り




「あ、今日祭じゃん。」


そう華魅が呟いたのは、久しぶりに華魅と雛魅の両方が休日の、夕飯時であった。


「そういえば、そうですねー。」


姉の突然の話題に、思い出した様な声を出したのは妹の雛魅だった。
いやしかし、今現在この家には2人しかいないわけなので、雛魅しか反応しないのは当たり前なのである。


「ヒー。」


「はい?」


「行くか。」


「へっ!?」


愛しの姉からの突然のお誘いに、雛魅はかなり間の抜けた声を上げてしまう。
彼女の二つに分かれた髪が、若干飛び上がったようにも見えた。


「なんだ。嫌?」


「い、いえ!そんなことないですます!」


「どうした!?ヒー、言葉がおかしいぞ。」


あわてふためく妹に、華魅でさえも驚きの声をあげた。


「あ、いえ!あ、あぁあ!メイクしないと!メイク直してきます!」


「?、既にバッチリじゃねーか。」


華魅と違って雛魅はちゃんと女の子らしい少女である。
ほぼ毎日行くバイト先だって、ちょっとした買い物へ行く際でさえ、メイクを欠かした事はない。
今日は既に日も沈みつつある時間であるため、メイクも少々崩れつつあるのだ。
よって彼女は直すために席を立った。


「バッチリじゃないです!直してきます!」


「しっかり者だなぁ、ヒーは。じゃ、とびきり凄いメイクとやらを期待してるよ。」


華魅は笑いながらそう言うと、そっとまだ温かいお茶を啜った。


「(とびきり…!?)は、はははい!特殊メイクしてきます!」


「え?」


女子としてまずい発言をし、駆け出し行ってしまった雛魅を、華魅は固まりながら見送った。


(特殊メイクって…)


華魅はしばらく固まったままであった。







―――15分後……







「……良かった…」


「え、何がです?ハーちゃん。」


「いんや、何でもない。」


普通な顔で戻ってきた雛魅に、華魅はホッと胸を撫で下ろした。





† † †






「う、わ、あ!ひ、人っがっ!いっ、ぱいで!ぉぉぉ驚きででです!」


「あたし的にはヒーの話し方に驚きを隠せないんだが…」


二人は浴衣と仁平を来て、提灯の灯る通りにやってきた。
年に数度の大行事とあって、沢山の屋台と共に、道を埋め尽くす程の人がいる。
華魅ははぐれないようにと雛魅と手を繋いだのだが、どうやら雛魅にとっては大変な事であったようで、もはや何を言っているのか理解するのが困難となってしまった。


「ヒー。」


「な、なんででですか!?」


「(まぁ、通じるからいっか。)何か食べね?」


こんなにも屋台があるのだ。たとえ夕飯をとっていたとしても、何が食べなければ損である。
しかし、華魅は甘いものが苦手な為、できれば甘くないものがよいと思っていた。
それは雛魅も承知の上である。


「そ、そうですねっ。あ、タコ焼きなんてどうです?」


少し落ち着いてきた雛魅が指さしたのは、近くにあったタコ焼き屋であった。
華魅はそれなら大丈夫だと思い頷くと、二人は屋台へと向かった。


「いらっしゃいませー…。って、あ。」


「なにしてんの大将…」


鉄板からでる熱気が満ち足りている屋台で店番をしていたのは、いかついお兄さんでもなく、チャラいお姉さんでもなければ、優しそうなおじさんでもなかった。
そう、二人がよく知る銀髪少女アクアである。


「何って、タコ焼き売ってんだけど。」


「売ってるって…。アクアはまだ15歳じゃないですか…。」


アクアはくるくるとタコ焼きを焼きながら、呆れたように雛魅を見た。


「雛ちゃん。生きる為に商売する子供なんて、珍しくないよ。それに、あたし今年で16になるし。」


「いや、15も16も変わんな…―――」
「黙れ。」
「…コノヤロー…」


華魅は言葉を遮った挙げ句に悪態をついたアクアに悪態をついた。
………ちょっとややこしい…。


「生きる為って、ナユタさんはそんなに家計に困ってるんです?」


「まあね。」


雛魅はオレンジ頭の少年と目の前の少女にちょっと哀れみを感じた。
しかし恐らくナユタの家計を圧迫しているのはアクアの食費である。これはわかりきっている事だ。


((可哀相なナユタ(さん)……。))


アクアへの哀れみは抹消されたのであった。


「まぁとりあえずタコ焼き1パックね。」


華魅は話題を本題へと戻す。
ちなみに1パック6個入りである。


「生クリームとマヨネーズどっちがいい?」


「普通にマヨネーズだから。」


「無理。さっき無くなったもの。」


アクアは華魅の言葉を無視し、問答無用で生クリームをぶっかけた。


「おィィイ!選択肢はァァァア!?」


「ないみたいだね。」


スウィーツとなってしまったタコ焼きを見て華魅は絶望し、アクアはケラケラと笑っている。
その様子を見て、雛魅は「もうっ」と溜息をついた。


「アクア!これじゃハーちゃんが食べれません!どうしてくれるんです?だいたいせっかくのタコ焼きをどうして無駄にするようなことするんです!」


「ぇえ?無駄になんてしてな…―――」
「いいえ!タコ焼きに生クリームはミスマッチです!そのくらい考えて下さい!もう16歳になるのでしょう?でしたら、自分だけでなく他人への迷惑も考えて行動出来なくちゃダメです!大体、アクアは悪戯の限度というものを越えています!何かあったらどうするんです!?人に何かすると自分にも返って来るんですよ!私はアクアの周りの人だけでなく、アクア自身も心配です!いつもいつもバズーカやら爆弾やら!いったい何処で手に入れてるんです!いいえ、そこは問題じゃありません!そんなもの日常に必要ないでしょう!16の女の子が持つものじゃないです!」


「あの、雛ちゃ…―――」
「人の話は黙って聞く!」
「………はい。」


アクアにとって雛魅の説教ほど従ってしまうものはなかった。
それは、流石の華魅でさえ同情してしまうほどの迫力である。


「みんなに頼られているというのに、日常がダラけていては周りからの目も変わってしまいます!アクアが自由奔放に生きたい気持ちはわかりますが、自由というのはただ何にも縛られずに生きるというわけではないのですよ!人を思いやって、初めて自分の自由を見いだせるのです!」


「……ヒー。」


「それに……はい?どうしましたハーちゃん。」


流石に長すぎる説教に、華魅は制止の声をかけた。
既にアクアはぐったりとしている。


「ほら、あたし達夕飯食ったしさ。デザートって事でいいんじゃないか?」


「ハーちゃん…」


姉の心の広さに雛魅は何故か頬を赤らめた。若干目が虚にも見える…


(馬鹿姉妹が…!)


アクアは当たり前となっていたこの光景に呆れるしかなかった。


「で、大将それいくら?」


「500。」


「高くな…―――」
「500。」
「……わかった。」


華魅は半ば強制的に500円払わされると、甘いにおいの漂うタコ焼き1パックを受けとった。


「あ、お二人さん。」


「「?」」


行こうとした瞬間呼び止められ、双子はほぼ同時に振り向いた。


「あたし、4個ほど食べちゃったから。」


「ぼったくりじゃねぇか!」


詐欺に等しいその発言に、華魅が思わず叫んでしまったのは、仕方がないことだ。





† † †






アクアの屋台を後にして、白くて甘いタコ焼き(1つ250円)を食べ終えた頃には、祭も終わりかけ、人もまばらになっていた。


「ひひひ人減ってき、ましたね…」


「もう良い子は寝る時間だしなー…。あたし達も帰るか。」


雛魅は華魅の言葉に頷いた。
それを見た華魅は家の方向へと歩き出そうとした。
が、途中で足を止めた。


「?、どどどどうかしましたたた?」


「なんかお土産買ってくかー?」


そう言った華魅が見ていたのはお面だった。
キャラクターものから古風な狐など、かなり沢山の種類がある。


「(ハーちゃんとの思い出に、お土産!?)そ、そ、そそうですね!も、ももモミアゲ買ってきましょう!」


「(ヒー、モミアゲ好きなのか…?)モミアゲのお面は流石にな…―――」
「ごめんなさぃぃい!間違えましたぁぁぁぁぁあ!」
「……そうなのか。」


結局買ったのはお面ではなく青空の風車。





† † †






人気のない帰り道を歩きながら、雛魅の両手には華魅の手のと風車が握られている。


「あ、ヒー。」


「なんです?ハーちゃん。」


夜の風の心地良さを満喫しながら、華魅は口を開く。


「次どっか行ったら、絶対買おうな!モミア…―――」
「それは忘れて下さいィィィイイイ!!!」


輝く星空の下、雛魅の悲鳴の様な叫び声が響き渡った。





後日、雛魅が買った風車を家宝にしたとかしないとか。






((終わり))




 † † †
あとがき))モミアゲが書きたかっただけだったり(笑)
ちなみにこの日ナユタは着付け教室で稼いでました。





華魅夏祭り


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