この事態はわたしの両親の興味津々な発言が事の発端だった。わたしが会社に勤めていた当時、リンクがわたしの部署に異動してきてすぐにその新人が凄いの何の、いや新人って言っても新卒で入ったんじゃないんだけどもう仕事の手が早いのなんのとまるで自慢をしているように言っていたその噂の人が、まさか娘の旦那になろうとも思わなかった両親、と思いきやすんなりと承諾した辺りわたしが日頃彼の高評価を言い続けていたからか、この人なら信頼してもいいだろうと快諾したあの日が懐かしい。そして今の状況になっているこの日は、わたしの両親にご挨拶以来二人で実家に遊びにやってきたんだけれど。わたしは父と母とリンクの会話に入りきれていなかった。

「なまえとは初めて出会ってすぐに恋に落ちまして。それはもう燃え上がるようにもう一緒に結ばれたいって思うには時間の問題だってぐらいに発展しては」
「両親に嘘教えないで」
「何、照れてる?」
「照れてねーよ!」
「ふふふ、面白いわねリンクさんってば!」

ふふふじゃないよお母さん。それにわたしの言葉を完全スルーしてるでしょ。リンクだけじゃなくてお父さんもお母さんも酷い。普通ご挨拶が先でしょって人生の先輩である貴女が注意しなくてどうするの、何で和んでるの。てか何でわたしこの輪に入りきれていないのもう辛い。

婚姻してからわたしの両親にご挨拶をした時から、わたしの両親はリンクをとても気に入ったようでさっさと婚姻した事に対してお咎めは一切無かった辺り、最初から両親はリンクにもう甘かったのは痛いぐらいに身に染みていた。だけどこれは、ちょっと親しいどころの騒ぎじゃないぐらいに両親とリンクの関係は急発展しすぎているとわたしは思う。そんな仲良しこよしのリンクと両親は、実の娘そっちのけで楽しい座談会を繰り広げる。

わたしとしては目的があってここにやってきたのに、全然話に終わりが見えない今の状況にわたしは困り果てていた。その内容は二人はどこでどうやって出会って結婚まで話になったの?と本来最初に顔を合わせた時にやるべき談話であり、今になってからお母さんはそれが気になったようでリンクに話を持ちかけたのである。娘の恋愛事情が知りたかったようで、問いただす際のお母さんの楽しそうな顔ったら・・・今までお母さんの娘を何年もやってきたのに初めて女子らしい姿を見た気がした。

対するお父さんはと言えば・・・お母さん同様とても楽しそうである。しかもそれだけではなく「父さんも母さんとはなぁ・・・」と過去の両親の出会いの話をリンクに話し始めてしまっていた。いやそこは普通さ、娘に男が出来た時って大抵「何処の馬の骨かわからん輩に娘は渡せん!」とか「娘が欲しいのならそれ相応の態度を見せろ」とか、父親の威厳とかそういうのを思わせるような発言をすべきだと思うんですよね父親って存在は。残念ながらわたしのお父さんはリンクと出会ってからも一度たりともそんな発言をした試しはなかった。逆にリンクに手篭めにされているって言ったら何だか背徳的だが、まぁ。いきなり婚儀になっても疑問も無くあっはっは娘をよろしく頼むよって軽快な承諾をしたんだけど。もう結婚を許したのはいいとして、義理の父のはずなのに何だこの友達感覚のこの二人の関係は。人付き合いのよすぎるこの人間共をわたしはよく理解出来ない。

普通相手の両親に会うのって、緊張感ってのがあると思うんだ。しかしわたしは実際目の前にしているのは、緊張感の欠片もない実態だけだった。現実とドラマは違うものだってはっきりしたような、ただウチが特殊なだけなのかもしれないけれど。

ところでわたしはリンクの両親に挨拶をした時はそれはもう、緊張をしたものだった。


しかしその挨拶というのは。

相手は生身の人間では無かったのだけれど・・・





少し、話は暗くなりますが。

婚姻してから数日後、ふと家族の話を振ってみた。その時にわたしは家族は何人でとか、実家には犬が居たんだけれどこの前亡くなってしまったんだけれど・・・と話をしている時に、リンクが楽しそうにわたしの話を聞いているその表情は暗くなってしまった。普段あまり見せないその表情に、振ってはいけない話題だったのかもって思い直しても、リンクの口からはもっともっと聞いちゃまずい話だって思わされるような言葉だった。

「両親は亡くなっているんだ」

その言葉に、わたしはそうなんだとも言えずにただ黙ってしまった。それから暫くしてから「辛い事を言わせてごめんね」と小さく謝るだけしか出来なくて、なまえが謝るような事じゃないだろう?といつもと同じようにわたしを甘やかしてくれていた。あの時その話をした場所はお洒落なレストランで食事をしていた時で、わたしは汚い泣きっ面を見せながらも料理を食べたがその後の料理ははっきり言って味なんて感じられなかった。

わたしの両親に挨拶をする前に、わたしはリンクと一緒にリンクの両親が眠る墓石の前で結婚します、と報告をした。その日の天気はとても綺麗に澄み切った青空で、墓守さんが綺麗にしてくれているであろうその墓石はキラキラしていたのを今でもよく覚えている。リンクは両親の目の前に座り、綺麗にされている墓石に手を当てて「なまえを一生大切にするから、空で見守っていてほしい」と本来わたしに誓うようなその言葉を天に居る両親に誓いをたてて、わたしはその場で号泣をしたのも。ドラマで見るようなそんな素振りは実際見たらどう思うんだろう、臭いもんなのかって思っていたのに実際その立場になったらもう、感動しか出来なかった。

「わたしも、リンクを一生大切にします!」

ぐっちゃぐちゃになったままの顔で、永遠眠り続けるリンクのご両親に聞こえますようにと、わたしは永遠の誓いを捧げる。まだ、挙式を上げてもいないのにわたしは本人に伝えるよりも先に、ご両親に向けて鼻声に関わらず大声を発して誓いを立てる。お墓参りに来ていた人達が何だ何だとチラチラと見ていたけれど、わたしも気にも留めていなかったし傍に居たリンクも全然気にしている様子は無かった。気にしている、よりもわたしが泣きながらの言葉に一緒になって泣いていた。ただ一人の墓守の人だけが、わたし達を温かい目で見つめてくれていた。

「幸せになって下さい。貴方達ならきっと大丈夫。ご両親も、そう思っていますよ」

墓守の人が、わたしが言うのだから間違いありませんと自信満々にそう言った。わたしにとっては、どんな神様よりも説得力のある言葉に聞こえて初対面である墓守の人を気にせずに、わんわん泣いた。声が、枯れるまで泣き続けた。









「すっかり遅くなっちゃったね」
「大層話が盛り上がっていた所為でもあると思うけどね!」

当初予定していた時刻よりもずっと遅くになってしまってから、わたしとリンクは実家を後にして帰路へ着く。本当だったらもっと早くに実家から帰宅をして、入り用で買い物をしようと思っていたけれどそんな余裕は無くなってしまった。わたしとしては今日はとっても餃子の気分であったが、残念ながら食材があまり残っていないはずだった。こんな事なら作り置きして冷凍でもしておけばよかったと思っていると、そう言えば冷凍食品で餃子が残っていたはず。手作りでは無くてごめんなさいな状態だけれど、今日は冷凍食品消化ディナーにさせてもらう。

「今日、買い物に行く予定だったから食材全然無いの。だから冷凍食品の餃子でいい?」
「そうだったんだ、早くそう言ってくれればよかったのに」
「・・・」

ええ、確かにわたしは入り用の為に買い物に行きたいってだけを言いました。食材を切らしてしまっているんだってそこまでちゃんと言わなかったのは悪かったと思うの。だけどそもそも、買い物の時間が無くなったのは誰が世間話で盛り上がった所為なんですか、と訴えるような視線を送ってみたが、進路を真っ直ぐと見ているリンクにはその訴えはこれっぽっちも伝わらなかったようだった。そのハンドルに悪戯してやろうかとも思ったが、さすがに自分の命を預けている手前運転の邪魔はしないようにしなきゃと、落ち着けと自分に言い聞かせておく。

結局、あの後もわたしは実の娘のくせして両親との会話に入りきれずに一日が終わってしまった。両親からはご飯を食べていけばいいと言われたけれど、帰宅して持ち帰った仕事をしなければいけないとわたしとて初耳な話をついさっきリンクから聞いた。長々と入り浸っている暇は無かったんじゃ・・・と思ってもまぁ、仕事の時間配分に関してはリンクはきちんとしているのは、同じ仕事をしていた時にみっちりと刷り込まれている為時間は大丈夫なの?という言葉は無駄なものだ。今から帰宅をしてもきっと、仕事はきちんと終わらせるんだろうなと思っていれば車はぴたりと止まった。ふと顔を上げればちょうど、わたし達の家の前の信号が赤になっていた為だった。目の前の横断歩道にまばらに歩いていく人々を見ていれば、リンクは「ああそうだ」と何かを思い出したようにわたしの目の前に手を伸ばす。

「これ、この前現像したんだ」

助手席にあるグローブボックスを開いて、素早くそれを引き出してはわたしに手渡しをする。手渡されたのは封筒で、その封筒にはとある写真メーカーの名前が記載されている。言わずもがな、その封筒には写真が入っていて、そう言えばこの前現像に出しておいてほしいってお願いしたんだったなぁと、思い出す。

「なまえのご両親にも、見せようと思ったんだけどすっかり忘れてた」

わたしが封筒から写真を取り出したのをちらりと見て確認をして、信号が青へ変わった為リンクはゆっくりと車を動かす。ゆらりと動く車内の中で、わたしは封筒の中から一つ一つ写真をめくって眺めていた。その写真は家で撮影したものや一緒に出かけた場所で撮影したもの、そして結婚式で撮影したものなど様々まもので、写真を見ているとその時の事を思い出しては自然と笑みが零れる。さっきまで、冷凍食品が晩御飯だと言ったリンクの反応においコラ待てって気持ちになったのなんて、すっかり忘れてしまう程に心はポカポカ温かくなった。

家族に見せたい、そう言うリンクの言葉から本当にわたしの家族をも大切にしてくれている気持ちが伝わって、わたしは嬉しくなってリンクに小さく笑いかける。

「今度実家に行った時までには、ちゃんとフォトブックにまとめておくね」
「ん、そうしてくれると嬉しい」

じゃあ今度こそ買い物に出かけた時には、フォトブックも新調しておこうかなぁと考えていながら写真をめくっていくと、一つの写真が目に留まる。その写真はさっき思い出した時のもので、わたしとリンクがリンクのご両親の墓前で、墓守の方が撮影してくれたものだった。お墓の前で写真を撮影するものは果たしていいものなのかは、一般常識に欠けているわたしにはわからないものだったけれど墓守の方は一緒に思い出に残れる事は、ご両親も喜ぶでしょうと言ってくれて一緒に撮影したんだったと思ってその写真を眺める。

綺麗にされたお墓は、その日は綺麗な快晴だった為にとても綺麗に輝いていて。ぐちゃぐちゃになって泣いたわたしと、わたしよりもずっと静かに泣いていたリンクは互いに涙目になりながらも笑っていた。微妙な表情をさせていて、まだちょっと夫婦関係に馴れていないようなその距離の間にあるご両親のお墓から、柔らかいオーラみたいなものが見えた気がした。決してわたしが第六感がある訳じゃないんだけれど、何だかおめでとうって言ってくれている気がしてまたじわりと涙が誘われてしまう。

「・・・わたしの両親に見せた後に、リンクのご両親にもこの写真を見せてあげたい」

わたしだって、リンクと同じようにリンクのご両親も家族だって思っているんだよ。だから今わたし達が、こんなにも大切な人が周りに居てくれて幸せな毎日を過ごしているんだよって、ご両親に伝えたい。わたしの言葉がリンクにちゃんと届いたようで、器用に右手でハンドルを握りながらも左手でわたしの右手をぎゅっと、握ってきた。

「ありがとう」

きっとこの瞬間も、ご両親には丸見えなのかもしれないって考えるとちょっと恥ずかしいけれど。見せ付けちゃいたくなるぐらいに、わたし達は今とても幸福なのだとわかってもらいたいし、自分達もそう感じたいのだ。


程なくして、わたし達の家に着いて二人並んで家の中へと入っていく。またこの日のように実家に訪れた時は今日みたいに、リンクはわたしの両親と楽しく話をするんだろうなと未来の事を考えると、自分だけ輪の中に入れないかもなぁって少し寂しい気にもなっちゃうかもしれない。グイグイ入っていけばいいんだけれど、自分の親に自分の恋愛事情をペラペラと話せる程の度胸はシャイガールなわたしには難しい。

そんな時は、きっとわたしもリンクと同じ立場になってリンクのご両親に同じような話をするんだろうなって、考えてみる事にしようと思う。そう思うと、まるでわたしの両親とリンクのご両親と、わたしとリンクとで楽しくお喋りをしているって気持ちになれるでしょ?


ほら、こうしてお話している瞬間も。

二人だけで囲っているのは、勿体無い。


空を見上げれば雲一つ無い夜空に、美しい星がちりばめられていた。


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