まとまった連休など取る事も難しい仕事に追われる毎日を過ごしてきたけれど、リンクがやってきてからやっと二度目の休みを得る事が出来た為、今日の目覚めは大層至福に包まれている気分だった。やっと休み、待ちに待った休み!連日の疲れなど何処へやらいやっほーい!とはリンクが居る目の前でははしゃげないけれど、その分心の中で大いにはしゃいでやった。

「おはようございます」
「ああリンク、おはよう」

もそもそとソファーから起き上がり、今日も恒例の寝癖を携えわたしに朝から爽やかスマイルを振りまく彼はとても眩しく見えた。うん後光が見えた気がした。君は何者、きっと社会に疲れたこのご時世の人間の癒しを与える為にやってきたんだって今だと信じられるわ。癒し効果にわたしは導かれるようにつられて笑顔になってしまう。

わたしが仕事をしている時に、リンクは日本語(というよりひらがなオンリー)をこの数日間で完璧に覚えてしまった。独特の漢字は読めないにしろ、その成長振りには感服してしまう。更に異世界オプションなのかひらがなを読めてしまえば自分の世界の言葉に変換出来るようで(こうして異世界の人間のわたしと話をする感覚で)言葉の意味までちゃんと理解してくれていた。素晴らしい。そしてわたしが仕事をしている間には家での生活を満喫していらっしゃったようで、この短期間で少しずつこの世界の生活スタイルを吸収しつつあるようだ。炊事、洗濯、掃除とまさに主婦さながらの作業を少しずつ身につけており、何とわたしが仕事で留守にしている際その知識を発揮されてきた為にわたしは最近料理だけしか彼に振舞ってあげられていない。

「今日はシリアルでもいいかな?」
「それ、美味しいですよね」

一度寝坊をしてシリアルを提供した時、リンクはシリアルを気に入ったようだった。今日は時間があるけれど朝食を軽く済ましてしまおうという魂胆の片隅に、わたしの今日の予定の企みが見え隠れしている事には気付くまい。おーおーシリアルを見て嬉しそうにしていて現金な奴め。

とろこでここで余談だが、わたしが悩みに悩んでいた「リンクが寝る場所」だが。わたしがソファーに寝てリンクがベッドに寝てくれと何度も抗議をしたけれど、リンクは頑なにそれを拒否してしまった。居候だからって言う理由は認めないとわたしも負けじと反論をするものの、彼の理由は「女性をそんな狭いところで眠らせて自分が広いベッドになんて考えられない」だそうだ。何ともフェミニストかつイケメンな発言にわたしは彼の性格が出来すぎていて恐怖を抱いてしまう程だったけれど。

「なまえさん、朝はそれだけで足りるんですか?」

牛乳をたっぷりと染みこませ、サクサクシリアルの食感を楽しんでいるリンクとは違ってわたしの朝食は一杯のコーヒーのみ。わたしはリンクの言葉ににやりと笑うと、リンクはわたしの笑みの意味がわからず首をかしげていた。

「ふふふ、今日はリンクを外の世界に連れていこうと思ってね」
「!え、いいんですか!?」
「外に行ってお買い物とかして、そんでもって美味しいものでも食べよう!」

シリアルから興味は一気に外の世界へと意識が持ってかれてしまい、スプーンをからんと皿に落としてキラキラした目をさせてわたしを見る。まぁね、給料日前の為にそんなに贅沢は出来ないんだけど・・・ここ最近わたしの為を思って家の事をしてくれているリンクへのお礼も兼ねて、外に行こうと提案した事に喜んでくれてわたしも提案してみてよかったなと安堵してしまった。













「とにかくわたしの傍からは離れない事!」
「なまえさん、あれは何ですか!?」
「あああもう言っている傍から・・・」

可笑しい、離れるなと言ったのにものの数秒でわたしの傍から離れるリンクを見てどこをどう突っ込んでいいのやら。しかも目的地であるデパートにはまだ辿り着いていないというのに、外の世界には沢山リンクを誘惑するものが溢れかえっていたのだろう。

家の近くにあるデパートに行って買い物でもしようと目論んでいたわたしは、家の近くにある公園をつっきぬけてしまおうと試みたのが悪かったようだ。何でも今日は縁日が開いてあって、近所の子ども達で溢れかえっている公園の傍には沢山の屋台が所狭しと並んでいる。更に食べ物のいい匂いまで漂っている為に、リンクの進む方角はデパートとは逆の公園へとほいほい促されてしまったのだ。今日縁日が開いているなんて想定外、いや知らなかった・・・リンクにとっては縁日が珍しくて、今日わたしの提案をした時以上に目の輝きが素晴らしい。目の中に星が埋め込まれているみたいだった、きっとそれは錯覚。

そうそう、更に余談。リンクの服装はこの世界では無難な服装だけどその特徴的な長い耳を隠す為に帽子は必須アイテムだ。耳をすっぽりとおさめて若干嫌がる顔をさせたけれどそうでもしないと外へは行けないと一言言ってみれば、素直に帽子を身につけて準備万端な状態にさせた様はもう・・・自分の貪欲に馬鹿正直だと思った。プライドなんてかなぐり捨てた!って感じで男らしい顔をさせたって、その理由が外に出たいから。子どもみたいな思考と行動にふふふと笑ってしまって少し拗ねていたけれど、縁日という未知のもののおかげか機嫌は一気に上昇してくれたようだ。縁日万歳。

「あれは何て言う食べ物なんだろう・・・あれは?子ども達が楽しそうに遊んでる!」

目立つ容姿をしているのにはしゃいでいる為に人から注目されている事にちょっとは気付いてほしいと思いながらも(しかもほとんどが女の人からの黄色い声までプラスされ)楽しそうにしている笑顔を見てわたしは目的を変更する事を決めた。

「これは縁日って言ってお祭り。リンク、お祭りって言ったらわかる?」
「お祭り・・・ああ、それなら!」
「じゃあこの世界のお祭りを楽しんでみよっか?」

そんな顔をされてデパートに行くなんてさすがに言えないじゃない。ズルいなぁと思いながらも、わたし自身も久しぶりのお祭りにテンションが上がる。たこ焼き食べたい、焼きそばだって食べたいしくじも引きたい。折角デパートに行くからとお洒落をしたけれど、どうも今は心に決めていた物欲よりも食欲には勝てそうにない。

「なまえさん、案内してくれますか?」
「いいよ、じゃあどこから行こっかなぁ」

うきうきした足取りで屋台に近づいていくリンクは、この時ばかりはわたしの言いつけ通り傍を離れる事はしなかった。わたしの歩調にしっかりと合わせて歩いていく様は、何だかエスコートしているはずなのにされているような気分になり、更にリンクに対して黄色い声を上げられている事に高揚感を得てしまう。今彼の傍に居るのはわたしなんだぞってそんな考え。まぁ、女の子達の追いはぎにあわなければいいけれどと余計な心配までしてしまったが。



シリアルだけを食べていたリンクは時間が進むにつれてお腹を空かせ、わたしも食べたかったたこ焼きから焼きそばを筆頭にチョコバナナやわたがし等甘いものを次々と網羅していく。底無しの胃袋に底があるわたしの財布の中のお金はどんどん消えていく。わたし、絶対男が出来たら貢ぐタイプなんだろうなぁと消えていくお金を見ながらそんな考えがよぎったけれど、そんなに喜ばれちゃあ財布の紐が緩む緩む。うん、わたしは貢ぐタイプにどうやら決定らしい。何より驚いたのが射的だ。リンクは射的にいたく興味を示してすぐにこれはどんな遊びなんだとわたしに説明を求めた。コルクがはめられている鉄砲で、遠くにある商品を狙い打てばその商品をもらえるんだと説明をするとああ、ここでは当てたものをもらえるんですねとわたしには不可解な答えが返ってきた。射的ってそういう遊びだと思っていたわたしにとってリンクの言葉は一体どういう意味なんだろうと思ったけれど、リンクはやってみたいとわたしにお願いされた為、リンクが射的を遊ぶのを見守る事に専念する事にした。暴発しなきゃいいけれど・・・大丈夫かな。









「お兄ちゃんこれ以上やると景品が無くなってしまうよ!」
「すすすいませんでした!」

奴は生粋のハンターだった。屋台のおじさんに懇願されてもまだまだプレイしたいとヤル気満々の顔をして鉄砲を構えていたけれど、わたしは打ち落とした景品を手にリンクの首根っこを掴んで拉致る事にした。去っていくわたし達にはいつの間にか集まっていたギャラリーから惜しげも無い拍手と歓声で溢れ返っていたけれど、わたしは目立っている事に顔が真っ赤になってしまった。別に自分が称えられている訳じゃないのに。そして謝罪をしたのはおじさんを泣かせた張本人ではなくわたしである。

一度のプレイに五発だけのコルク。しかし景品の中には「もういっかい」という紙が張られたダンボールまでご丁寧に用意されていたのが屋台のおじさんの悲劇を生む結果になってしまった。リンクは四発のコルクで的確に景品を打ち落とし、最後のコルクでそのもういっかいと書いている紙を打ち落とし、延々と射的をし続けた。段々と景品が無くなっていくのを見てどんどん焦り顔のおじさんの顔を見てわたしは強い罪悪感に見舞われてしまった・・・子どもにもわかりやすいようにとひらがなで表記されたそれは、ひらがなをマスターしてしまったリンクにとっても理解できてしまった魅惑の景品。こんな場面で勉強の成果が発揮されるとは思いもせず。しかし何とも鬼畜なプレイを見せ付けられてしまってわたしとて驚きだ。お遊びでプレイさせていただけなのに、何だか射的に手馴れているような感じで・・・しかも一発も外していないという。この大量の景品はどうしたらいいんだろう。









「楽しかったですね、射的はもっとしたかったけど」

結局朝からずっと屋台に入り浸っていたわたし達の頭上を照らしていた太陽はすっかり橙色に染まり、西へと沈んでいく。黄昏時にいつもよりも綺麗に染まる髪を揺らして、リンクはとても満足げな顔をしてわたしに話しかけてきた。やはり射的には若干悔いが残っているようだったが、あれ以上プレイされれば出入り禁止になるだろうとわたしは苦笑いをして誤魔化す。

来年までは、君はわたしの傍には居ないかもしれないから。わたしが来年この縁日に赴いて、今日の事を忘れていないあのおじさんがまた射的を開いていたらわたしが出入り禁止になるんだって(要注意人物として)

とは言えずに、本日二つ目のわたがしを頬張りながら前を向きなおす。今日は思いのほか食べ過ぎてしまったようだ、明日から少し食事を制限しようと思う。

「帰ったら夕ご飯もあるけどどうする?わたしは屋台のもので十分お腹が・・・あれ」

わたがしを頬張りながら歩き続けていると、わたしの隣からリンクの気配がふと消えてしまった。一体何処へ消えた?ときょろきょろ見回してみると、公園の中にある小さな森を見つめてたそがれているリンクの姿を発見した。何を思いその小さな雑木林を見つめているのかわからないけれど、その横顔から見えた蒼い瞳は寂しげに揺れている。

「大きな建物ばかりの世界だと思っていたけれど、小さくても緑はあるんですね」
「そうね、と言ってもとても少ないけど」

都会にはさほど緑という大自然はあまり無いけれど、人間は自然にとても飢えているし癒しの為にと、ビルが立ち並ぶ街の中にはこうして憩いの場である公園を設けている。便利になりつつある世の中、外で遊ぶ楽しさを忘れないように、生まれていく子どもに教える為にたとえ小さくても都会でも公園は沢山作られていた。

リンクは遊具には何も興味を示そうとはせずに、公園の脇にある小さな森に吸い寄せられるように近づいていく。一本の木に触れ、慈しむように触れる手はまるで木に話しかけているようで。


「緑を見ると、安心します」

きっと生まれた場所はこんなコンクリートに溢れているんじゃない、自然が沢山溢れた中に彼は生きてきたんだろう。確かに村に住んでいたと言っていたんだから、自然に触れると安心するという言葉に酷く納得してしまうのはそれだけじゃなかった。

優しい目をさせて見つめる木の中に、故郷の緑と重ねて見つめている・・・都会に生きる緑を見て、自分の世界を思い出しているような姿を見てわたしは「早く帰れるといいね」としか言えなかったけれど、リンクはわたしの言葉にそうですねと短くも、だけど力強い言葉でそう言った。





神様ってのは本当に意地悪だと思う。

世界を旅する事になったのも、きっと彼に運命を与えたんだと思うのに。世界から追放までしてしまうなんてね。

こんな優しい目をさせる彼を苛めてどうしたいと言うんだろう。




今日の日記は神様に対しての愚痴になりそうだ。

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