ある日森で不思議な種を見つけた。綺麗な桃色をさせたその種は何の花のものなのか、森で暮らしていた中で一度も見た記憶が無い僕には知らないものだった。一体どんな花を咲かせるのだろう、そうだ育てて知ればいいと思って、ポケットに入れっぱなしにしたまま僕達の時は過ぎてしまった。一緒に旅をしている女の子のなまえが綺麗な花が咲いているよ、と平原に咲く一輪の花を見て、その存在を思い出して種を取り出してみせた。

拾ってから七年も過ぎてしまったその種は、きっとボロボロに朽ちてしまっているのだろうと思ったのに。

姿が変わってしまった僕とは違って、種は美しい色を保ったままだった。






「ヒヒヒ、その珍しい種でお前さんにいいものを作ってやろう」

さて、この種をどうしようかと手に持ったまま薬屋へと足を運んだ時。おばばが目ざとくその種を見ては薬を作ってやると言い出した。おばばが言うにはこの種はとても珍しく、とある薬を作るにうってつけの材料らしい。珍しいものから作られる薬とは、一体どのような効力があるものなのだろうと僕はおばばの話を聞いて興味を持った。もしかしたら、青いクスリよりも性能の良い回復が望めるかも、そう考えた僕はおばばにお願いしようと種を手渡そうとした時、おばばが何故かなまえに手招きをした。素直にそれに従うなまえの耳元で、ひそひそ内緒話。何を吹き込まれているのだろうと、僕はそれを黙ったまま見つめているとなまえはあからさまに目を輝かせていた。おい、本当に何を吹き込まれたんだ。

「是非、是非それは作って下さい!出来れば複数!」
「ああ、この種は大きめだからねぇ・・・数回分作ってやろう」
「うわぁぁ願いが叶う!ねぇいつ飲めばいいの?」
「そうだねぇ・・・眠れない夜になんか調度いいんじゃないかのぉ」

ちら。

おばばが僕を見る。その細められた目で見られて僕は何か感じた。


・・・何か仕組まれている気がすると。




『大変、リンク大変ヨ!』
「どうしたんだ?」
『なまえがアノクスリ飲んでから様子がオカシイの!』

その仕組まれている気がしたのは、間違いじゃなかったらしい。夜も遅く、宿屋でくつろいでいる中ナビィが部屋にすっ飛んでやってきた。ナビィはなまえと一緒に寝るネと別れてからさほど時間が経っていなかったように思う。そろそろ寝ようと思った矢先に舞い込んできた慌しい事件。ナビィに急かされなまえの部屋へ急行しようと、ブーツを履き直しているその時。バァァン!と馬鹿デカい音と共に部屋の扉が開け放たれる。何だ何だ魔物でも襲ってきたのかと、咄嗟に剣に手を伸ばしたのだが。部屋に転がり込んできたのはナビィが大変だと言っていたなまえの姿だった。

「なまえ・・・今ちょうど様子を見に行こうとしてたんだけど大丈夫?」
「・・・んん・・・」
「・・・なまえ?」

・・・何やら様子がおかしい。床に転がったまま、動こうともせず蹲ったままなまえは唸り続けている。半端に履いてしまったブーツに足を取られそうになりながらも、僕はなまえの傍へと駆け寄り声をかける。しかし返事をしないまま、んんんと唸り続けたままだった。もしかしたら薬を飲んで、具合が悪くなってしまったのかもしれないと思った僕はなまえをとにかく休ませようと体を持ち上げようとした。

「なまえ、とにかくちょっとベッドで横になりなよ・・・っ!?」
「はぁはぁ、っ・・・ん・・・っ」

なまえを安静に、と考えていた僕の思考など固まった。顔色を伺おうと頬に触れた瞬間になまえが僕を見上げたのだが、その瞳とかち合い息を飲み込んでしまった。その瞳は潤んでまどろんでいるように僕をその瞳に映し込む。なまえの瞳は僕とは違う黒色をさせていて、部屋の淡い光を反射させていてとても妖艶に見えてしまったのだ。高揚させ染まる頬は触れた時にも感じたが熱を帯びていて、唸り続けた唇は僅かに開いたまま苦しむように、いいや。高ぶった感情を押し殺しているように呼吸をしている。その呼吸すら、艶めかしく思えるのはなまえが情熱的に僕を見つめる所為だろう。

って、待て。なまえをいやらしい目で見ている場合じゃないだろう!でもそう考えさせるなまえが悪いと思うんだ・・・って違う違う!こんななまえを見るのは初めてで、混乱して僕の思考も混乱しているんだ。混乱している場合じゃないだろ、早くなまえを助けなければ。

「具合が悪い?ナビィが薬を飲んでからなまえがおかしいって・・・大丈夫?」
「わ、わたしおかしくなったのかな・・・」
「なまえ。落ち着いて、深呼吸して」
「ふぅ・・・んっ、あっ」

深呼吸して気持ちを落ち着いてもらおうとしたのだが、若干息遣いが悪化していると思うのは気のせい?いつもよりも高く、子どものような声色で苦しそうにする声が、とにかく只事じゃないと判断。

でも、何でかな。なまえの顔を見ていると・・・その声を聞いていると、体に湧き上がってくるこの熱の正体は何だろう。暑いかなこの部屋。そんなはずない、窓だって開いているし涼しい風が通っているこの部屋は決して暑くなんかない。

「かっ、体が熱いのっ、熱いだけじゃなっ、」
「だ、大丈夫か!?」
「体が、疼く・・・触れてほしいって、わたしおかしい・・・!」
「触ってって・・・なまえ、本当に」
「や、やめてリンク、わたしの名前言わないで!」

僕がなまえの名を呼ぶ度に、びくんと跳ねる体はとうとう僕の声を拒絶するように両手で耳を塞いだ。俯いた際に隠れたなまえの顔から覗いた唇は、がくがくと小刻みに震え続けている。名前を呼ぶなと言われ、どうしていいかわからなくなった僕はただ、見守るだけしか出来ない。一体おばばは何の効果をもたらす薬を作ったのだろう。なまえがおかしくなってしまって、もしこれが命に関わるようなものだったら。

けれどなまえに是非作れとまで言わせたはずの代物。

これがなまえの望んでいたもの?にしては随分、希望に見合った効力を発揮していないように思える。

・・・だけど、薬を飲んでもいない僕は自分でもなまえのようにおかしくなってきたと実感していた。湧き上がる熱が、体中を巡ってはなまえを見続けていればいるほど、どんどん高ぶっていく。なまえに、感染してしまったのかな。僕も体がとても熱くなってきてしまったよ。なぁナビィ、僕はどうしたらいいんだ。そう問いかけようとしたがナビィは居なくなってしまっていた。

「リンクがっ、声をかけるだけでっ」

見開いた瞳は、何かを求めるように僕をまた映し出す。

「ううんっ、見ているだけでももう・・・わたし・・・」

突き上げる熱は、行き場を無くして顔に集まっていくのがわかる。なまえが僕を呼んだ瞬間、その熱は弾けて衝動的に、なまえを押し倒したくなってしまって・・・

・・・おいおいストップストップ!

「(馬鹿、馬鹿僕!触れてほしいとか言われて浮かれてチャンスとか思って何をしようとしているんだよってわぁぁ何押し倒したくなったって!何考えてるんだよ、こんな緊急事態に下心・・・いやそうじゃない、何でそう思ったんだよ)」

出しかけた左手を、自身の右手で制御する。今の状態で少しでもなまえに触れてしまえば自分が自分じゃなくなってしまう気がして恐れた。だがなまえが望むのなら、触れてあげればいいのではと思う自分も居る訳であって。あと少し、暴走する左手を止める右手を緩めてやれば、なまえに触れ抱き寄せてやれるのに。

僕が好きな君が、僕を望むのなら。そう考えると右手の力なんて、どんどん弱くなっていく。君が僕を、物欲しそうに見つめるもんだから。僕も君が欲しくなってしまって止まらないんだよ。

いや、いくらなまえが好きだからってこの好機にかこつけて何かしてやろうと考えていいものか。なまえの気持ちすら知らないのに、僕の事好きだから求められているって勘違いしていいものか。そもそも!僕はちゃんとなまえに好きと言えてない。なのに先に進もうなんてダメ、ダメだ!

「なまえ、いい子だから寝よう」
「・・・触れてよ」
「・・・なまえがいい子に寝てから、存分に触れてあげるから」

なんて、嘘っぱちの口約束をしてやれば今すぐに望みを叶えてほしいなまえは不満そうな顔をさせていたものの、頭を撫でてやれば何度もあの僕を惑わす声を漏らしながらも大人しくその場で眠った。やっと安堵の時を得た僕は思いっきり肩を上下させながら、ため息を漏らす。とりあえずはなまえをちゃんとベッドで寝かせてあげようと、なまえを抱えてベッドに運んだ。

正直、頭を撫でるだけでも理性などぶっ飛んでしまいそうだった。

なまえが気持ちよさそうに顔を緩ませて、甘い声を漏らすもんだから。あのまま触れ続けてしまえばどうなっていたんだろう。

あのまま。押し倒してしまっていたら今頃僕はどうなっていたんだろうと考えると、また押し寄せてくる熱が僕を寝かせてくれなかった。







「ふぁぁ・・・あれ、隈が凄いけど眠れなかったの?」

ぐっすりお休みになられたなまえが起きて開口一番、僕の目の下に出来た隈を指摘。誰の所為だ誰の、と言いかけた言葉は飲み込んだ。だってなまえを見ると、昨日のやりとりを思い出してしまうんだから。しかしなまえは昨日の事を覚えていないようで、いつもと変わらぬ表情で僕に話しかける。

「・・・ねぇ、あの薬って」
「あっ、そうだあの薬ちゃんと効果あったかな!体重計体重計!」
「?」
「あれね、痩せる薬なんだって!何でも飲めば発汗作用が抜群で一日で3キロ痩せるらしいよ!」
「・・・別に軽かったし無理に痩せなくても」
「知らないくせに!んじゃ計ってくる!」

・・・効果がぜんっぜん違うじゃないか。そう思っているといつの間にやら戻ってきていたナビィがだんまりだった。心なしか、体がほんのりピンク色をさせているけど?熱でもあるのかな。

「ナビィ、大丈夫?」
『リンクはまだまだ子どもだから』
「??え、意味わかんないんだけど」

何でこう除け者にされているんだと考えている僕の耳に、なまえの「ぜんっぜん効果無いじゃないのぉぉぉ変わってなぁぁい!」と叫び声が聞こえる。まぁ、今にも寝てしまいたい睡眠不足の僕にとってはいい目覚ましになったと思うよありがとう。




(押し倒して?その後は?何をしようとしていたかまではわからないのに。何故そう考えてしまったのかは、君が甘える顔を僕に沢山見せ付けた所為)


「ちょっとおばあちゃんあの薬何も効果なかったよ!」
「効果がない?・・・ひひひ、お前さん。ヘタレだったようだねぇ」

旅に出る前にクレームつけてくるとなまえは薬屋へすっ飛んでいく。効果無いから即返品します!おばばにつっかかるなまえよりも、おばばは僕を軽蔑したように見てきた。

何故なまえが痩せられなかった事が僕の所為になるんだか。軽蔑される意味がわからない!!

『(なまえが飲んだのは媚薬だったようネ・・・痩せるって、そういう意味。このおばあちゃん侮れないワ)』
「なぁナビィ何か知っているのか?教えてくれよ全くすっきりしないんだけど」
『リンクにはまだ早すぎるノ!』

早すぎるって何。ああもう意味がわからない。今日もきっと寝不足に悩まされるんだろう癪だけど。


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