ぎゅっとされるのも好きだけど、こっちからぎゅっとするのが好きかな。必死に背中に腕を回されるのも捨てがたいけれど、君の小さな背中を全部包み込むように抱きしめるほうが安心する。すがりつくようにされるのも、頼られていたり求められていたりしていて、君はそんなに俺を求めているのかな。なんて感じられて嬉しいんだけれど。俺のがよっぽど君を求めているからだろうなぁ。君の背中に腕を回しても余ってしまう手でしっかりと君の両肩を抱えて、思いっきり抱き寄せてしまうのは。だって、ちょっと目を離すと何処かに走り出してしまいそうな活発さを時折見せる君は、俺の目を盗んで逃げてしまいそう。

だから常にこちらに引き寄せておかなきゃ、おちおち安心出来ないんだと思う。



「・・・ねぇ、今日は天気が良いんだから外に行こうよ」

外が見える窓に頬杖をついて広がる青空を見て出かけたい、そう言うなまえは多分笑っていない。天気が良いと家に閉じ篭りっぱなしが勿体無い性分の君は、流れる雲を見ては飛び出したくてうずうずとさせている。しかしそうも飛び出そうとはしないのは俺が君を背後からがっちりと抱きしめているからであって。窓から眺めるだけなんて生殺しだ、と外に行きたい外に行きたいと言い続けている。

「今日は折角の休みなんだから。家で過ごそうよ」
「そう言って昨日は雨だったからずーっと家に居たし。休みだからこそ外に出かける有意義な過ごし方ってのを考えられない?今日こそ外に出たい出させろ」

昨日に引き続き誰の目にも触れないよう、家で二人で過ごしたいなと提案を持ちかけたがなまえは今日一日外で過ごす以外考えていないらしい。ほら、昨日の雨で出来た水溜りが太陽に反射していてキラキラしているよ。木々もいつも以上にみずみずしくて綺麗だよほらほら外に行きたくなったでしょ?指を指してなまえは言うけれど、俺は全くそんな気にはなれなかった。勿論なまえの肩から覗いた外の世界は言うようにとても綺麗に見えたけれど、だからと言って外に出たい気にはならない。

そもそも?俺と家で過ごす選択肢を見せないのが許せなかったからだ。

そんなに外に出たいのかよ。家でこうしているほうがよっぽど有意義な過ごし方だと思っているのは俺だけか?

「外に出ないよななまえ」
「いや出ます。離してよ外に出るから」
「このまま家で二人で居る時間を堪能出来るなら明日の仕事も頑張れる」
「頑張らなくていいよ代わりにわたしが仕事頑張ればいいだけだから。いいから離せこのひっつき虫!」
「いって!」

ひっつき虫とは何だよ!と言うよりも先にぎゅぎゅぎゅと手を思いっきりつままれた。痛みに悶絶し俺が腕の力を緩ませてしまったのを見計らってなまえは腕からするりと抜け出し、下へと降りるハシゴへと逃げようとする・・・だろうと見越した俺は通さないと先手を打ってやろうとした。赤く腫れた手を擦りながら、ハシゴの前を陣とって通せんぼをした俺だったのだが、なまえは目の前からぱっと消えてしまった。ん?消えた?

「後ろを取られているのにわざわざ後ろに回るかっ!アハハ」
「はぁぁ!?」

外から愉快だと笑う声が聞こえて、まさかと思い窓から外を見ればなまえの姿。若干服が汚れているのを見て俺は今の状況を飲み込めた。なまえは消えたのではなくこの窓から飛び出したのだ。とんだおてんば・・・いやいやそんな事よりもいくら外に出たいからってここまでするとは思わないだろ。窓から飛び出すって結構な高さがあると思うんだけど何故なまえはそんなあっけらかんとしているんだ。じゃなくて危ないだろちょっとは危険感覚を養えこのじゃじゃ馬娘。

「飛び降りるとか危ないってわからないのかよ!」
「じゃーねー村に行ってくるからー」
「なまえ!ああもう・・・」

人が怪我してないか心配しているってのになまえは我関せず状態で村へと続く道を走り出していた。これだからなまえは目を盗んで逃げ出すんだから目を離せないんだって。いっつもいっつも思うんだが、どうしてじっとしていられないんだあいつは。外の世界が好きなのは結構。だけど人を痛めつけてまで逃げ出すなんて、今回ばっかりは俺、結構傷ついたんですけど。あいつはきっと微塵も感じちゃいないんだろう。あの愉快そうに笑った顔といい、二言目には外!外!と喚いていたのといい、そして一度も今日は俺と居たいて言ってもくれなかった。許さん。外に出るのはもういいとして、人をつねり痛めつけたのだけはきちんと謝ってもらわないと俺の気が済まない!

「もう今日ばかりは叱り倒す!」

なまえを追いかけようとハシゴを飛び降りて、外に飛び出しなまえの走っていった村へと俺もまた走り出した。村の中心へと続く道の曲がり角を走っていく。走りながら、今日のなまえだったら何処へ行くのだろうと模索もしっかりと忘れずに。この前は川辺で魚を眺めていた。その前はイリアと牧場に行ってヤギに戦いを申し込んでいた(戦う女は美しいのよ!とかアホな事を言いながら)イリアは全力でなまえを止めにかかっていたけれど、対戦相手であるヤギには完全無視をされていたあの時の空回りっぷりを俺は忘れない。

さて、今日は何処へ行ったのやら・・・コリンの所当たりが打倒だろうと、まずはモイさんの家へと向かおうと決めたのだがなまえは思いの他あっさりと見つかった。放し飼いされているニワトリの傍にしゃがみ込んで、じっとニワトリを見ているようだ。若干ニワトリに威嚇されているように見えるのだがなまえは何も感じていないようで、コケコケ騒ぐニワトリをじっと見つめている。

「何してるんだ?」
「うん?・・・うわ、わたし逃げていたのに!」

威嚇され続けてもなおじっとニワトリを見つめる謎行動をしているなまえに話しかければ、大げさに驚いてみせるなまえ。俺が追いかけてきたのに気付けば、きっとまた逃げ出すだろうと思ってちゃんと腕を掴んで捕獲するのも忘れない。俺を見て逃げようとするなまえだったが、少したじろいだだけですぐに諦めたように大人しくその場に座り込んだままの体制を保っている。いつもこう、大人しく隣に居ればいいものの・・・

「ったく。ん?」

なんて考えながらなまえを見れば、コケコケ威嚇するニワトリに混じってピィピィ鳴く声。ニワトリの影からひょっこり顔を覗かせたのは、ふわっふわの羽毛に包まれた雛だった。

「ほら見てヒヨコが生まれていたんだよ、すっごい可愛いよね!」

一羽のヒヨコが出てきたと同時に、次々とヒヨコが飛び出してそこらをちょこちょこと駆け回っている。ある一羽のヒヨコは好奇心を見せるかのように俺の元にやってきてはピヨピヨと何かを訴えるように鳴いていた。じっと俺を見るヒヨコは、なまえの言うように確かに愛らしい。

ヒヨコが何かを訴えようとしている姿は、まるで挨拶をしてくれているよう。

「ヒヨコがリンクに、初めましてって言っているみたい」
「あ・・・俺もそれ今思った」
「ふふ、ここに卵があったの知ってた?」
「いや全然知らなかった。いつもこの道を通っていたのになぁ」
「でしょ。外に出るのって、こういうのを見られるからわたし好きなんだよ」

仕事をするだけで通るのは勿体無いぐらいに、村には変わった事がいっぱいあるんだよと言うなまえはヒヨコを見て微笑んだ。

なまえは誰よりも楽しい事を見つけるのが上手。誰も気に留めておかなければ気付けないだろう小さな出来事を、探そうとしないでぱっと目に留めてしまう。そしてそれを、得意げに俺に教えてくれるのを見て思うのは・・・他を気にしているんだったら少しは俺と一緒に居る時を大切にしてほしいんだけど。とか、俺限定で得意げにその目で追いかけて。とか思ったりもするんだけど。

ヒヨコを見て微笑む横顔を見ていると、こっちまでつられて笑ってしまうのは自分をないがしろにして外に!とせがむ毎日を過ごしている内になまえが教えてくれる発見を、僅かながら楽しみにしている自分も居たんだなと今になって感じた。誰よりも先に、俺に教えてくれるなまえはいつも楽しそうにしていて、幸せそうに笑う笑顔を誰よりも先に俺が見れる。

「・・・たまには外で過ごすのも悪くないな」

なまえが外で新しいものを発見する度に、俺は君の魅力を再確認出来る。たまの休みはこうしてなまえに付き合って出歩くのもいいかもしれないなと思った。今日は、追いかけてきてのついでみたいになってしまったけれど。もしかしたら次は俺から外に出ようか。って誘えば。

今までよりもとびきりの笑顔を、俺に見せてくれるかもしれないじゃないか?

「本当!?じゃあ今度からいつも外に出てくれるって事でいいのね?」
「えっ毎回?何故そうなるんだよ。いやそうじゃなくて勿論家でまったりするのも」
「やったねありがとうリンク大好き!」

あれれ語弊が生まれた。誰が毎回外に出ると言ったんだ。たまにはって最初に言ったじゃないか聞いてる?毎回だったらいちゃつく暇も与えられなきゃ俺飢える!と言うよりも先になまえは勘違いをしたまま大喜びをして、表現しきれなくなった喜びを俺に全面にぶつけてきた。はしゃぐようにバタバタしたと思えば、立ち上がって俺の首に腕を巻きつけ圧し掛かってくる。

「(首だけじゃなくてさぁなまえ・・・まぁ、これもこれで嬉しいけど)」

・・・するのが好きだって言ったけれど、されるのも捨てがたいと思い直すのは極度のワガママなのかなぁ。もっとしてくれていいのに、って思っちゃうんだよ。この瞬間でも。やっぱり、君にぎゅっとされるのがたまらなく嬉しくて幸せだと感じられるのだ。それが愛の囁きじゃなくてお出かけの許しを貰っての喜びの言葉だとしても、大好き!って言われながらぎゅっとされちゃあコロっと寝返る。ああ俺って単純。ああもう大好き。でもなぁ、やっぱり大好きって言われるのは俺が抱きしめてなまえも抱きしめてくれてのシチュエーションが一番、ぐっとくるのに。

「今日はとても気分が良いから夜はお楽しみにしてていいよ」

さっき、家の中でやってくれればいい雰囲気になるのになと考えていた俺の耳に甘いお誘い。これは、うん。そういう意味だよな。夜こそは二人っきりの、甘い時間を過ごさせてくれるって事でいいんだよなよし今日は寝かさない。

黄昏時の今の時間が、俺は大好きなのだけれど。今日ばかりはさっさと夜になっちまえと沈む太陽を急かすように見つめながら期待してるよ、となまえに頬をすり寄せた。





(ここぞというタイミングで使う、君の大好きの言葉に叱る概念なんて何処へやら)


「でね、この前魚を見に行ってたでしょ?その時に見た事無い魚を見つけたの!その魚はドコからやってきたのかなぁ。違う場所から泳いで迷い込んだのかな。世界には色々な生き物が居るんだね。とても広いんだなー・・・わたしも旅をしてみたいなって思ったんだけど」
「・・・なまえもう寝ようよ」
「いやまだまだここからだって。その魚を見ていたらセーラさんとこのネコがね」

誰だよ甘い時間を過ごせるって思ったのは。俺だよ馬鹿。

俺が愛しまくって寝かさないつもりが期待外れの展開となまえの散歩の体験談を延々語られ眠らせてくれない地獄が待っていたなんて。事に及びたくてもそんなに楽しそうに話をされちゃあ止めれないだろこの可愛い生き物を。

昼間散々浮かれていた俺を殴ってやりたくなった。いや期待させておいてこれはないだろなまえめ明日こそ見てろよ仕返ししてやるからな。

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