記憶がある中で何度も同じ出来事を繰り返すのはしんどさがあるとわたしは思った。異世界からこの世界に迷い込んでしまったわたしは、君が何度も時の歌を奏でて時間を戻す度に、わたしまでも記憶を保ったまま、何度も時間を巻き戻していたのだと君は知らないでしょう。この町に居ながらも君と一緒に旅をしているように、何度も何度も君と同じ時間を過ごしているとは思わないでしょうに。ジム君に認めてもらい受け取った団員手帳を持っていると君は今日も、わたしの姿を見つけては駆け寄ってきてくれて、わたしに話かけてくれるのだ。

「君も、団員の子なの?」
「あれ、そういう君もそうなの?」

そして君は、同じようにわたしに話しかける。時間が戻っているのを考慮して、わたしは毎回同じような言葉を返している。一文字も間違えられないと、わたしは自分の団員手帳に対君の為に台詞を綴っているとは知りもしなだろうに。台本通りの会話を、さも初めて出会ったように仮面を被り演じるのだ。君はわたしと会話が出来ても、都合よく日本語が理解されていないようで台本を綴った団員手帳を見せても、人々の写真を見ているだけのようだった。わたしは今日、この人の手助けが出来たんだよって毎度ながら得意げに手帳を見せれば、凄いねと少し困った顔をさせながらわたしを褒めてくれる。

「(今日も、君は聞こうとしないんだね)」

理解出来ない文字を見せられて、疑問に思っているだろうに。わたしが君とは違う、違和感がある人だと思ってるだろうになぁ。

君は、今日まで一度ももわたしが何者かと尋ねようとはしなかった。知らない文字、珍しい顔立ちだと言っていた時に思わず言ってしまった、わたしと君は人種が違うという言葉にも君は何も、わたしに問いかけようとはしなかったね。わたしがこの世界の人間とは違うと、気付いているだろうに問いかけないのは、わたしの憶測ではあるけれど君もまたこの異世界に迷い込んだ人だから。言い辛いのを言わせないようにって配慮してくれているんじゃないのかなって思っているの。

なんて、勝手な解釈をしているわたしに二人はわたしの団員手帳に挟まれているものが気になっている様子だった。わたしがこの世界で、君が何度も時を戻した中でも何度も友達になった病気の子の為に披露してあげた遊びの折り紙。外の世界がどんなのかを知らないその子に、何か表現出来たらと思って作ったものは空を飛んでいる鳥を折ってみたのだけれど。あまりに単純な作りだったから言われなきゃわかってもらえないかな?二人はまじまじと折り紙を見ている。ふふ、わからないなと顔に描いているのに気付いていないのかな。

「これはね、折り紙って言うの」

折り紙の説明をして、物を表現する遊びなのだと説明をして実際に二人の目の前で披露してみせる。目の前に居る相棒を何とか表現してみせようと、わたしなりに妖精の形になるように折って見せれば二人にちゃんと伝わってくれたようだった。チャットの形をさせた折り紙を見て、チャットは照れたように隠れたその反応に、わたしは少しは喜んでもらえたのかなって自己満足。

「(・・・あ、寂しそうな顔)」

だけど君はそうじゃなかったね。折り紙の形を見て、別の誰かの姿を考えているんだろうってわたしにはわかっているよ。

・・・だってわたしも、正直。その別の誰かを考えてその折り紙を折ってみせたんだから。君にはしっかりと、伝わってくれたようで嬉しいような。友達との別れの辛い過去を思い出させてしまったとも思えるけれど。わたしが君に、彼女を思い出してもらうのには、わたしなりの訳があったのよ。

それを、君に伝えたくてわたしはこの世界にやってきたの。貴方とは何もかも違う世界から、どうしても君に伝えたい気持ちがあったのだ。


「君も折り紙してみない?ほら、これ使って!」

今から教える折り紙に、遠まわしのメッセージを織り込もうと思ったんだ。

サービス精神旺盛な神様がもたらしてくれた、君と出会うチャンスを。どうやったら君に沢山の希望をあげられるのか。孤独の世界を生きていると考えてしまっている君に、どうすればそうじゃないと伝えられるのかわたしなりに考えた。直接言葉で伝えるのが一番、楽な方法で確実なものだけれどわたしと君との関係から、そうしてはいけない。そもそも信じてもらえないだろう。だからわたしは、別の方法を考えた。わたしが教えた、その紙ヒコーキにわたしが込めた思いに気付いてもらえないかなって。回りくどい方法だと思うけれど、きっと君には伝わってくれると直感で思ったの。

「うわ、飛んだ!」
「凄いでしょ、こうして飛ばして遊ぶものなのよ」

君の手作り紙ヒコーキをわたしが空に飛ばせば、風に乗って舞った。簡単に飛んでいったそれを見て君はとても嬉しそうにはしゃいで落ちていく紙ヒコーキを見つめている。わたしは急いで地面に転がる紙ヒコーキを拾いに走り、君に向けてまた紙ヒコーキを空へと投げやる。綺麗に風に乗った紙ヒコーキはぐんぐん加速をしていって、君の頭上を越えていってしまった。天を仰いでそれを目で追う君は、そのまま後ろへと倒れそうになっていて思わず、笑ってしまったけれど。

くすくす笑っていれば、君はわたしに向けて紙ヒコーキを飛ばそうとしている。年相応の子どものような笑顔をわたしに向けて、今か今かとうずうずさせていた。


「(・・・ああ、綺麗な笑顔)」

・・・その笑顔を見て、わたしはとても安心したよ。

君も、ちゃんと笑えるのだと。


わたしの中で、君は苦しさを何度も経験をしてきて大人びてしまって、大人のわたしなんかよりもずっと、大人のように見えていたの。生きている中で辛い事を沢山経験してきても、わたしはちゃんと笑っていられる毎日を過ごしてきた。だけど君は、そうじゃなかっただろうに。笑顔で過ごせる日が、この世界じゃ探すのも諦めてしまう程に君には沢山の試練を与えられ続けているんだもの。

いいや。この世界だけじゃなかったでしょう?君は、過去に沢山の運命ばっかり背負わされてきて、誰の記憶には残らなかったのだから。今の君の心を支えているのは、唯一君を知る別れてしまった友達の存在ただそれだけだと思うと、わたしは居てもたってもいられなかった。

貴方には、まだまだ沢山。君を支えたい人達が居るんだって。

「さ、わたしに向けて飛ばして!その笑顔のまま、真っ直ぐに!」

その笑顔を、わたしが受け止めてみせるから。そうしてわたしの記憶に、ずっと残したいと思ってくれればいい。ううん、わたしだけじゃない。君を知る全ての人の記憶に残り続ける君の笑顔を、世界の人を代表してわたしが受け止めるよ。もっと自分を好きになってほしい。君と関わった全ての人が、君が大好きで幸せになってほしいと願っているのだから。


君が空へ向けて飛ばした紙ヒコーキは、ゆるゆるとわたしの元へと届けられる。ちゃんとわたしの元へと届いたその紙ヒコーキを見つめていると何だか胸が熱くなる。わたしの元へと届いた軽い紙ヒコーキに、希望が生まれたのだ。わたしの気持ちは、間違っていないんだと。出会って間もないわたしに、届けてくれたそれが例え小さな紙ヒコーキだとしても、願い続けていいんだよとメッセージを飛ばしてくれたように思えたんだ。


「わたしね、折り紙には特別な想いが込められると思うんだ。苦しみを背負ってくれたり、願いが届くように気持ちが折り紙に表れると思っているの」


さっきの笑顔は、不思議な遊びに夢中になっただけの笑顔だったかもしれない。

ねぇ、君はどんな気持ちでこの紙ヒコーキを飛ばしたのかな?

わたしがさっき、君にこの紙ヒコーキを飛ばした時にどんな気持ちで飛ばしたのか、わたしの言葉から伝わってくれればいいのにな。

・・・君に時間が無いように、わたしにも時間が残されていないの。君がこのタルミナという異世界から戻るように、わたしも自分の世界へと戻らなければいけないのだ。いつまでも君と会い続ける訳にもいかない。

本当、全部伝えられればいいのに。君と同じような異世界からやってきたわたしは、君をよく知っているってのも。君が苦しんだ時も沢山頑張ってきた時も、ちゃんと見つめてきたんだってのも全部を言ってしまえば、君は決して一人なんかじゃない。孤独を感じないでって、伝えられれば。でも、わたしは君に言葉では教えてあげられない立場だから。

だからわたしは、君にこの紙ヒコーキを教えたかった。

不安も苦しみ悲しみも全て紙ヒコーキのように飛ばして、その笑顔を絶やさないで。絶対に友達であるナビィと再会出来るんだと信じ続けてほしかった。

そうすれば、きっと君の大切な友達にもその気持ちが伝わるよって、わたしは紙ヒコーキに気持ちを込めたのよ。

「さっきの、素敵な笑顔だった。その笑顔を絶対に絶やさないで。貴方が幸せになれるって、わたし信じているからね」

どうか、君に伝わりますように。願いを込めた紙ヒコーキを君に押し付け、わたしは君の目の前から消え去った。




世界から戻ってきてしまったわたしの世界の空は、今日も晴れ渡っている。届けられないだろう君に向けたメッセージを記した、紙ヒコーキを空へと放てばどんどん遠くへと飛んでいく。青の色に栄える白の紙ヒコーキは、雲の色と同化して何処かへ飛んで消えてしまったけれど、わたしは追いかけようとしなかった。運よく、君に届いたらいいなって信じたくなったのだ。

君に残していった、紙ヒコーキは今もタルミナの空を自由に飛び回っているのでしょうか。


わたしは信じているよ。

きっと、わたしの遠まわしに込めたメッセージに気付いてくれているって。悲しみを乗り越えて願いへ真っ直ぐと紙ヒコーキと共に歩んでくれているって信じてる!










手のひらにおさまってしまうゲーム機の中の君は今日も笑顔を見せない。その表情を見てはわたしまでも笑えない。今日も難しそうな顔をさせているなと考えていると、窓から何かが入り込んできた。思わずそれを目で追う。最初虫が入り込んだのかと気を張ってしまったが、それはわたしには見慣れたもの。

「・・・これ・・・!」

でも、それを見てわたしは目を見開いてしまったの。それは、君が初めて折った拙い紙ヒコーキだったから。誰かが折ったものじゃない?いいや、わたしには君のものだって思えたのだ。

「・・・わたしに、飛ばしてくれたの?」

画面に映る君に、問いかけるわたしの独り言は部屋に響くだけだったけれど。問いかけずにはいられなかった。どうせ伝わらないだろうと、所詮次元が違うのだとわたしは考えられなくなってしまった。君と過ごした奇跡の時間を、忘れられないよ。それに、わたしが込めた気持ちにどう思ったのか知りたかった欲求もずっと、忘れられなかった。だからこれは、わたしが願っても無い贈り物。わたしの気持ちに気付いてくれたであろう君の答えだと、信じたかったんだよ。


ねぇ、どうなの?わたしに伝えられない存在の君に、視線を送った。


「・・・っ」

ああもう、嬉しさに溢れる気持ちが抑えられないよ。だってわたしの気持ちはちゃんと君に伝わったのだから。


画面の中の君が

わたしと目を合わせて笑ってくれたのだ。

ああ、よかった。あの時と変わらない笑顔のままでいてくれているとわたしは嬉しさに泣き崩れそうになる。だけど君に、涙は見せないようにと強がってみせた。わたしも笑顔で答えなきゃ、君が強く笑い続けているのにわたしが泣き顔を見せてどうするんだと思うと、わたしも強く願い続けようと誓いたくなったのよ。

わたしも、世界中の君を知っている皆も君を応援し続けるよ。わたしはずっと、君が幸せな人生へと歩めるって信じているからね!






(君のメッセージ、ちゃんとわたしに届いたよ!)


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