ああ、わたしは何とも面倒事に巻き込まれたと思った。今現在わたしは、わたしよりも背の低い奴に、手も足も板に縛り付けられながらどこかへと連れ去られようとしているのである。ずるずるとわたしを引くそいつはひぃひぃ言いながら、途中途中休み休みをしながらどうやら広場へとわたしを連行しようとしているらしい。ぼそりと「重い」って聞こえたんだけど全然小声じゃなかったぞ、後で見てろよお前と殺気立った目で睨みつけてやったが、わたしを運ぶのを再開してしまった為届けられなかったようだ。

「わたしを何処へ連れて行くの」
「バドさんの命令で仕方がなく重たいなまえを運んでいるんだ!」
「ラスてめー後でお仕置きね」

こいつまたわたしを重いと言った、と足蹴にしてやりたかったが縛られている為それは叶わず募らせるのは仕返しをする邪心のみ。言葉の攻撃は大した威力を発揮されなかったようで、ラスは黙ってわたしを引きずり続けた。ところでどうしてこんな事になったのか、わたしにもよくわかっていない。今日もわたしはクイナさんのところへ遊びに行こうとして歩いていただけだったのに、そこでわたしを呼び止めたのがこの小男ラスである。地面に転がる板に、どうしてか寝てほしいとよくわからないお願いをされてほいほい乗ってやったわたしが全面的に悪いのだ。素直にそこに寝そべってみれば手足の自由を奪われてこの様。そして引きずられて今に至るこの状況は、とにかくどうしてこうなった。どうしてわたしは気前よくノリに合わせてやったんだかと後悔をしているだけだった。そしてラスの口から言われた言葉、バドの命令によってわたしを拉致していると聞いて思ったのは。また面倒な遊びに巻き込まれるのでは、と嫌な予感がしたのである。

あやつはゼルダと仲のいい奴を敵視する傾向が見られる。それが同性だろうとも自分よりも仲がいいのを見るのが嫌らしく、何度かわたしもその手に乗せられた試しもあったりなかったり。きっと今回もその類に違いない。行き過ぎた嫉妬はいいからどうか巻き込むのはやめていただきたい。



「はぁはぁ、つ、連れてきました」
「おう、遅かったな」
「なまえの奴が重くて」
「あーそれなら仕方が無いな」
「(本気まとめて潰してやろうか!)」

やや時間を消費してわたしを無事広場へ運ぶ任務を果たしたラスはその場に座り込んで大の字になって休み始める(大げさじゃないの)そしてボスであるバドはラスに労いのお言葉もかけずに遅い、と若干苛立っている様子。だがラスのいい訳をすんなりと受け入れたのを見れば機嫌がいいようだ。しかしそのやり取りから感じるなんて何だか屈辱であり、仕方が無いってどういう意味だこらとバドに威勢よくつっかかろうとしたのだけれど。ふと見た方角にわたしと同じような状況に巻き込まれた奴が居た。バドに文句を言う前に「ああ同じように面倒事に巻き込まれたのだな」と哀れみの目を向けてしまう。だが相手はわたしの目を見てきょとんとしている。お前、この異常な状況を飲み込めていないのか。

バドのもう一人の子分であるラストの隣に、わたしと同じように板に縛り付けられているのはわたしと同じゼルダと仲のいいリンクだった。その姿を見てわたしは確信をしたのだ、やはりバドはいつもと変わらないくだらない面倒事にわたし(とリンク)を巻き込もうとしていると。

「ねぇ今日は何をしようとしているの」
「ああ、今日はなぁ。既成事実を作る遊びだ」
「はぁ?」

やはりわたしとリンクをターゲットにおかしな遊びをしようとしているのだろうとわたしはバドに問いかけると、意味もわからない遊びの提案をしてきた。虫が絡むような内容じゃなかっただけに今日は穏便なもので済みそうだと安心をしたのだが、だが引っかかるのはその既成事実の単語である。何、既成事実を作る遊びって全く先が読めないのですけれど?いつもよりも大分頭の弱いお遊びを考えてらっしゃるのだろうか。

「俺様は考えた。ゼルダと仲のいいお前等がゼルダも入れないぐらいに仲がよくなってしまえば一人ぼっち。そしてそこで手を差し伸べす俺に惚れてくれると!」
「・・・下らない」

よくぞ問いかけてくれたと、バドは得意げな顔をさせて事の事情を説明する。説明はやはりゼルダ絡みでわたしはあーやっぱりまた下らないものだったと、正直に口に出してしまった。わたしの言葉に言ってろ、抵抗出来ないくせにと優勢を保っている為に強気なバドを見るわたしの視界に他の奴等の姿が入る。ラスは今も死んだままで、オストはぼーっとしながら無口を貫いている。そして異様にそわそわしているリンクがとても、とっても異常だった。その挙動不審な動きはきっと面倒事に巻き込まれてしまっての焦りか。それともバドにゼルダを取られる焦りなのかもしれない。それもまたわたしにとってはどうでもいいものである。

だって二人はそんな事されたって、誰もが認めるぐらいに仲がいい。わたしが入る隙間も無いぐらい、仲がいいのはわたしがよく知っているのだから。て、どうしてわたしは思ってしまったのだ、もし二人がバドの作戦なんてきかないぐらいに仲がいいのだと思って、寂しいと思ってしまったのか。わたしの体がわなわなと震える。ゼルダと仲のいいのはわたしだって負けたくない、って闘争心が芽生えているのかな。きっとそうに違いない、そしてバドなんぞにゼルダを取られたくないとわたしは燃え上がっているのだろう。こんな縄なんぞ引きちぎって、ゼルダに洗いざらいバドの愚行を密告してやろうとわたしは闘志を燃やしているのだ。

「リンク、わたしに協力して」
「え?」
「ゼルダに密告してやるんだから最低な考えをさせているこんな奴に我等のゼルダを取られてたまるもんかって!」
「よしお前ら持ち場につけ!」

バドの言葉にイエッサー!と反応を見せたラスとオストが足早にわたしの元へと走り出してきた。そしてわたしをくくりつけている板を持った、と思えばそれをラスが支えており、オストはまたも走り出して今度はリンクがくくりつけられている板を持ってわたしの元へと近づいてきた。まさにまな板の上に乗せられたかぼちゃのようなリンクが、わたしの近くへとやってくるのだが一体何を。後ろで重い重いと言うラスの憎まれ口なんて気にもできないぐらいに、近づいてくる物体をわたしはとにかく凝視する。

「え、ちょ、ちょちょちょ近くない!?」
「暴れるんじゃねぇなまえ!そんなんじゃ出来ないだろ!」
「いやいや暴れるよこんなおかしな状況に冷静さを求めないでほしいんだけど!?」

逃げ場の無いわたしはオストによって近づけられるリンクに焦り、慌てたがバドの手によって拘束された。おいおい正気じゃないぞこいつら。

「待ってよこのままじゃぶつかるじゃない!」
「ぶつけようとしてるんだそのままお前等にキスしてもらう為に!」
「はぁぁぁ!!?」

マジで正気じゃない。そしてバドの言葉にわたしは今回の遊びの内容を嫌でも理解出来てしまった。こいつは恋路を邪魔するリンクの相手にわたしを無理矢理宛がおうとしているのだ。キスを無理くりさせて既成事実をでっち上げて、こいつ等は恋人同士になったのだからゼルダは俺がもらったって計算だろう。うわぁぁ浅はかすぎる。そんなのしたってゼルダが信じると思うのか?実際この場に居ないのだからそんな事実を作ったって意味が無いと思わないのかバドの奴めってってええ近い近いこれ本当にキスしちゃう三秒前ぐらいなんですけど!

「そしてどうして君はそんなに冷静なのかな!」
「冷静じゃないよ、焦っているけど」
「どこが焦っているのよ馬鹿自分の顔を鏡で見てみなさいな」

そして自分の唇がわたしによって奪われそうになっているってのに、至って普通のリンクにわたしはつっこみを入れた。焦っているけど、と言う割にはさっきと変わらない表情、と言うよりも凄く笑っているように見えるのだが気のせいだろうか。そうかどうしていいかわからなくて困っているから笑い過ごしているに違いないぞ、と。ここはやはり互いに協力してこの窮地から脱出するのだと、わたしはまた提案をしようとしたのだが何だが雰囲気が?そうじゃない?

「なまえとキス・・・やっと、それが叶う」
「はい?ねぇ大丈夫冷静じゃなくて焦りすぎて自暴自棄になってるんでしょそうでしょうだったらここで諦めるな!目をひん剥いてここから逃げる手立てを一緒に考えよう」
「誰かが見ているってのはあまり嬉しくないけど、この際妥協しようと思って」
「そんな妥協すんなうわぁぁ目を瞑るなこじあけろぉぉ!」

受け入れ準備万端ですと、いやいや現実逃避すんじゃないとわたしが目を覚ませ惑わされるなと喚いても、バドの命令はぜったーい!な如くぐいぐいと押し寄せるはまさにキスを待ちわびている女の子の顔をさせたようなリンク。ああ、これは終わったなと観念をしたわたしは絶対にバドを後から地上へと突き落としてやる、と野心を燃やしつつ。迫る顔にこのまま本当にキスをしてしまうのかと覚悟をしたところで終わるのです。




(これが恋の始まりで、いいんですか神様!)




お話は終わっていない。あと少しで触れてしまうところで救世主ゼルダがやってきてくれバドをしこたまこらしめてくれてわたし達を助けてくれた。わたしは油断をしてほいほいついてきてしまったのだが、リンクはオストにわたしとキスが出来ると乗せられてついてきたらしい。スカイロフト並みにリンクの脳内も平和のようだ。

「あ、大切な事言い忘れてた・・・なまえがずっと、好きだったんだ!」

だからキスしたかったんだよねっておせぇよ馬鹿!大切は事は事前に言うもんだってゼルダにいつも言われてたじゃないのってこれ告白ですか。え、告白されたのわたし。

「やっと言えたわね、よかった!それじゃあわたしは先に帰るね!」
「ありがとうゼルダ!」
「帰るなゼルダ!そして何で続きをしようと近づいてくるのうわぁぁぁ!」

こんなにドキドキするぐらいなら板に貼り付けられていたほうがマシだったと思う。けど迫られるのが嫌じゃないって、思うって事はわたしもきっと好きだったのだろう。

だが仕打ちで三人まとめて下界に突き落としてやる。待っておれバドご一行様め。


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