ちょっと相談したい事があるんだけどいいかな。珍しくわたしにそんな話を持ちかけたのはこの世間の狭いはずのスカイロフトであまり会話をしないリンクからであった。わたしは基本クイナちゃんとお喋りをしたり、クーコちゃんと一緒に遊んだり(最近遊び友達が増えたのかあまり遊んでいないが)ゼルダと一緒にお空の散歩をしたりと基本女の子相手に遊ぶのが主である。時たまバドとふざけてみたりもしたが、わたしはさほど男の子と遊んでいるイメージが自分自身でも持っていない。そしてわたしが思っていないという事は他の人ももちろん持っていない訳でありまして、キコア先輩が「珍しい組み合わせだね」っていつも通りの爽やかな笑みで通り過ぎざまにそんな言葉を投げかける。

「本当に珍しいね、何?」
「なまえにちょっと聞いて欲しい話があるんだ」

珍しい展開にさて、一体何を話されるのだろうと思ってとりあえずどんな内容なのだろうと問いかける。そして返ってきたのは益々内容が気になってしまうようなお返事だ。更にわたしが問いかけようとしたのだが、わたしは思った。今わたし達が立っているのはショッピングモールの入り口付近であり、人の出入りが激しい場所である。リンクはわたしに何か話をしたいというのはわかっているが、そのわりには随分と辺りを気にしている。そわそわ、きょろきょろとせわしなく動く体と目。よっぽど人に聞いてほしくない内容だと伺える態度にわたしも何だか挙動不審になってしまいそうになる。

「場所変えていい?」
「いいけど・・・そんなに深刻な話?」
「ああ、もの凄く深刻な話」

そんな深刻な話をされるような親しい仲でも無いのに、一体わたしは彼に何を相談されるのだろうとわたしは身構える。深刻だと言われてしまった以上この場でそれを追求する訳にもいかずに、じゃあリンクの言うとおり場所を変えましょうかと提案に乗ると、お部屋に招待される事となる。招待というよりも拉致だ。



「・・・お邪魔します」

扉を開いて初めて見るリンクの部屋にわたしは男の子の部屋ってこんなのもなのかと思ってしまった。男の子の部屋にしては随分とシンプルなもので、家具らしい家具は学校で支給されているようなもので統一されていて、わたしや他の女の子達のようにカラフルなインテリアでちりばめられたようなものではないお部屋。らしいと言っちゃえばリンクらしいようなお部屋、しかし少し物足りないなとも考えてしまった。とりあえず座って、とリンクに促されてわたしは机に配置されている椅子に腰をかける。

「で?」
「ん?」
「ん?じゃない、話があるんでしょ」
「ああ・・・何から話せばいいかな」

まさか考えてなかったとか言い出さないだろうな、と思ったわたしはそのままリンクの言葉を待つ。よほど深刻な話のようでうーん、えーとと言葉が詰まっている。そもそもその話の重要な部分だけでも言ってくれれば話が続くだろうにと思いながらも、あまりの真剣な顔にわたしは何も言えずに言葉を待ち続けた。

「なまえは、今まで無意識に泣きたくなった時って、ある?」
「?」
「わかんないかな・・・別に悲しい事があったんじゃないのに、ふとした時にああ泣きたいなってぐっと感情が沸いてくる時って、ある?」

余計に意味がわからなくなってわたしは黙ったまま首をかしげた。わたしの反応に対してどうしたらわかってもらえるかなって思案して、あーでもないこうでもないと具体的なたとえ話は飛び出さずして、リンクはうだうだ悩んでいる。そしてわたしは完全に困り果ててしまった。無意識に泣く、なんてのはそんなの考えた事も無い。泣く記憶を辿ってみても、それらしいような展開が思い当たらない。そもそも泣くにしろ、感情は何かに触れて初めてそれが顔に表れるものであって意識していないとすれば、誰もが無表情になるものだと思っていた。だから意識しないで泣く、なんてわたしには考えられずにどんな反応をしていいのか正直に困った顔をさせてしまう。唯一わかるのは、どんな時にそんな気持ちになるのと尋ねるよりもそういう展開があったのかを尋ねるべきだという次のステップを思案するだけだ。

「あの、ね。なまえを見ているとそういう気持ちになる」
「・・・?」
「今もそう」

どんな時に、と尋ねるよりも先に答えを言われてしまった。わたしはその言葉に目を丸くさせる。そもそもわたしが関わっているような問題だったとは思わずに、まさかわたしが関連していると想定していなかったから。固まったわたしを見る、あまり関わった事の無い瞳と視線がぶつかってわたしは丸くさせたままだったがリンクは言った通りに何処か悲しそうな顔をさせている。どうして人の顔を見ただけで泣きそうになるのか、その訳は謎に包まれたままだ。そしてそれが自分が関わっていると聞かされてしまうともしや、過去にわたしはリンクに酷い事をしたトラウマが引き起こしているものなんじゃないかとも考えた。そんなつもりも、そんな素振りをした覚えが無いからこそこの状況にどうしてわたしはほいほい相談に乗ってあげる、なんてあまり関わった事の無い相手にいい顔をしてしまったんだろうかと人がいいように見せかけた偽善者ぶりに、やっちゃったかなと考える。

「・・・わたし、何かしたかな」
「違う!なまえは悪くない!」

何だかこちらまで泣きたくなってきた。どんなにあまり関わりが無くたって誰かを傷つけていたと思うと自分が悪いのかと落ち込み、許してくれないのかと不安から泣きたくなってしまう。だがわたしは悪くないと、リンクは声を荒げて否定した。

「僕が、おかしいんだ」
「でも何か訳があるからそうなるんでしょ、じゃなきゃ・・・」
「なまえは何もしてない、だけど・・・っ、」

だけどそうなるから悩んでいるんだ、本当に悩んでどうしようもなくてどうしたらいいのかわからないと、今にも取り乱してしまいそうになるリンクの手をわたしは咄嗟に掴んでしまった。ここで取り乱されて暴れようものなら、どうしてわたしはこんな思いをしなきゃいけなかったんだ、やっぱり関わるべきじゃなかったんだと思い悩む種になる前に摘み取ってしまおうと行動をしてみたものの、ぴしっ。空気が凍った気がする。馴れ馴れしくしすぎてしまったと、後悔してもわたしの手はしっかりとリンクの手を掴んでしまっていた。ただ脳裏に浮かぶのは、これもまた知らず内にリンクにとって酷い事をしてしまったと記憶されるのだろうかという不安、だけ。

「・・・ごめん、なさい」

言っていてこっちが悲しい。じゃあわたしはどうしたらリンクがわたしに対してそんな気持ちにならなくて済むのだというのだ。いいや、それが重要視するべき問題じゃないんだ、そもそもわたしを見るだけで悲しくなるとなればわたしにはどうする手立ても。そんな気持ちにさせる本人にあるはずもないでしょう。あまり話をしないにしても、そこまで拒絶されているなんて。やはり聞くべきじゃなかった、わたしにも思い当たるものが無いのなら助言なんて出来やしない。

「もっと、して」
「え?」
「なまえが触れて、満たされた気持ちになったんだ。だからもっと、触って」

おかしいんだ、なまえを遠くで見つけるととても切なくなる。誰かと話をしているのも誰かと遊んでいるのも見ていると、何故かとても悲しい気持ちになる。それと同時に、どうして僕と同じようにしてくれないんだろうって、疎外感があってたまらなくなってしまって泣きたくなってしまうんだ。今やっと、なまえが僕と話をしてくれて、僕の話を真剣に聞いてくれているのを見て嬉しくて泣きたくなってしまって。なまえが僕の手に触れてなんだか、やっと何か満たされた気がしたんだよ。なまえに対して、自分の表情が無意識にぐるぐる変わってしまってわからなくなって困惑するの繰り返しで自分がよく、わからないんだ。

「それ、ってさ」

初めて聞く、リンクの言葉はわたしが思ったよりもずっと重度な大問題だった。まさか初めて真剣な話をしよう、そう言ったものが自分に関わるもので。しかもそれも、自分が気付いていない気持ちをさらけ出されているような気がしてわたしもまた、困惑をしてしまう羽目になる。そればっかりは、自分で気付けなきゃいけない、わたしはそれを引き出すべきなのだろか。言われるままに、わたしはリンクの要望に答えてみせた。

「どう?これだったらどう満たされた?」

わたしは大胆に、抱きついてみせる。顔を赤くさせながらも、わたしの背中にしっかりと腕を回す彼は何かに気付いたのだろう。ごくん、素直に思ったであろう感情を吐き出すべく準備を進める。

「なまえが、凄く好きだなぁって・・・そう思ったよ」

甘い言葉が、脳裏をくすぐった。わたしのおかげで、やっと解決出来たと喜んでいるリンクに対してわたしが逆に悩める羽目になるとはきっと思っていないだろう。しかもやってしまったのが、わたしも好意があるから抱きつきましたって意味にも思われるだろう大胆すぎる行動。決してわたしは凄く好き、とリンクと同じまでな気持ちになっていない。だが凄く好きだと言われて嬉しい自分も居る。今度はわたしがちゃんと、自分の気持ちをしっかり考えてリンクに対する気持ちに気付くべき立場になってしまったと頭を抱えながら、まぁ解決して何よりだわ・・・と何の気無しにお答えするしか出来なかった。








数日経ってまともな会話も出来ずに遠くからリンクを見つめると、わたしも何だか泣きたくなってしまった。遠くで見ていると、どうして傍に居ない疎外感。

それが、凄く好きになっているっていう意味だと。まんまとわたしもリンクと同じ状況に陥ってしまったのだ。じゃあどうするか、それはリンクが強請ったようにわたしも、触れてほしいんだと強請るだけだろう。わたしは走ってリンクの元へと駆け寄った。

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