何度も何度も繰り返し、時間という流れに逆らって生きてきた。時には七年先の時間を越えて大人になり時には七年前の時間を越えて子どもに戻った。大人の姿になっても、その時間を実際過ごした訳ではないから当たり前だけど、全然実感がなかった。それに自分が大人になるなんて、思いもしなかった事実だったから尚更。時間を越えた先に待っていたのは、自分がコキリの人間じゃなかった現実と自分のいる世界が落ちる所まで落ちてしまった未来だけ。

その時の流れが、自分の生きている世界を救う事に繋がるのなら・・・と、何度だって時間を操ってきた。それは自分自身にだけ起きる出来事であって、他の人は誰も僕と同じように時間を遡る事はない。

同じ世界を生きているのに、時間の流れは一定で誰もが平等の時間を生きている。その間に、僕は時間を操作して自分のいた世界を救う事だって出来た。時間を操作していた僕が世界を救ったなど・・・誰も知る事はない。

元から世界が落ちる事はなかったんだと、長い時間旅行をしても世界は自分が戻ってからも平和な世界のままだった。

勿論、世界が混沌に落ちる事自体がなかった事になっているにしろ、自分が影で世界を救った事実に代わりはないのだから辛いとは思わない。それでも、僕の傍からは友達は次々と居なくなっていく。それだけはとても怖くて嫌なんだ。自分が世界を救ったんだって、称えて欲しいんじゃない。世界を救った代償が、どうして自分の大切な人を奪っていくのかそれが辛かった。

僕は変わらず時を操る力を持っている。そして今もなおこの地の時間を操作している。未来へと進むんじゃなく、たった三日前に時間を戻して何事もなかった時へと、何度も何度も時間を戻していく。時間が戻るだけじゃなくてその地に起こる出来事だって、何度も時間を戻す間に出会った人々との出会いも別れも全て、過去どころか「元からなかったもの」にしてしまうのだ。

「・・・もう、いい加減にしてよ!」

僕がオカリナを吹いて時間を元へと戻してすぐに開口一番、隣にいるなまえが怒鳴り声を上げてきた。傍にいたチャットは「毎度毎度この痴話喧嘩は見飽きたワ」と呆れた声を漏らしていたけれど、僕はなまえとは対照的にもの凄い笑顔だったようだ。その証拠に怒鳴ってすぐになまえは僕の顔を見て言葉にはしなくても、いつもと変わらず凄い形相で怒ってそっぽを向いてしまったからだ。

この世界は三日後に崩壊してしまう。ちょうど今僕達のいる上にある月が、三日後には落下してくるから。だから僕は崩壊をさせないように、と何度も時間を元に戻してきていたのだけれど、最近は違う。

「何をそんなに怒る必要があるのさ」

手にしていたオカリナを懐にしまい、白々しく話す僕にまた真っ赤な顔をさせたまま怒り顔の彼女の顔が目の前に現れる。しかし怒られている僕はやっぱり笑顔のままだ。

彼女はこの地に訪れる前に知り合った子で、一緒に旅をしている。そして共にこの地に訪れ、この地を救いたいと一緒に戦ってくれている(失礼だけどひ弱なんだけどね)よってこの地の時間を操作している時は、彼女も一緒に時を遡る。変わらないこの世界の時間を何度も一緒に遡り、変わりゆくこの世界の運命を共有している仲間だ。僕にとっては仲間だけじゃ言葉が足りない「好きな人」なんだけど。

「怒るに決まってるでしょ!」

間近にあるなまえの口から、大声で怒鳴りつけられるけれど僕の表情は変わらない。反省も反応もない僕の顔を見てなまえは怒りを更に募らせ、ああああ!!!と行き場の無い怒りを空にぶつけてじだんだを踏んでいた。

「何でいつもいつもいい所で時間を戻すのよっ!!」

とうとう怒りが最高潮に達してしまった彼女からゲンコツが飛んできたけれど、かなり加減をしてくれているのかポカっと情けない音が僕の肩から聞こえてくる。彼女もまた素直には認めていないけれど僕の事を大切な人だと思ってくれている、と思う。彼女の態度がそう思わせるんだ。

今日彼女がガミガミ怒っているのは、この町にあるミニゲームで記録更新を狙っていた時だった。なまえお得意のボムチュウボーリングで新記録目前の手前に、僕が時間を戻してしまったから彼女はカンカンに怒り出してしまった。ついこの前だって、なまえが僕を置き去りにして町の男の子達と楽しそうに遊んでいたから、ムカついてしまい時間を戻してしまったり、この世界の崩壊を免れようとして時間を戻したよりも、自分が戻したいタイミングで戻し続けていた。それもこれもなまえにとっては最悪のタイミングばっかりで、時間を戻した先ではなまえはいつもガミガミ怒り続けている。最近になって暴力までプラスされ始めたのが、僕はとても面白くてとても嬉しいのだ。

「もう!!リンクは自分が楽しい時には時間を戻さないくせに、どうしてわたしが楽しんでいる時に限って!!」

なまえは懲りもぜずにガミガミ怒り散らしたままで、チャットは煩い声を絶えず漏らしている彼女に嫌気が差してしまったのかどこかへと飛んでいってしまい、僕はチャットの後を視線で追うだけでなまえに対して何も返事は返す事もない。彼女の言う通り、僕が楽しい時間を過ごしている時は時間を戻す事はしない。例えそれが町の女の子と遊んでいる時だって、アンジュさんと楽しくお喋りをしている時だって、ロマニーと一緒にエポナに跨ってなまえを置き去りにした時だってそうだ。彼女は自由に女の子達と遊んでいる僕に対して、自分は楽しく誰かと遊んでいる時に邪魔をしてくる僕の行動が許せないんだと言っているけれど、実際は違うんだろ?

女の子と一緒にいるだけで、ガッカリした顔をさせて。僕と二人でいる時は嬉しそうな顔をさせているのを知らないとでも思ってる?

この町で、時間を戻してもついさっきまで一緒に遊んでいた女の子達は誰も僕と遊んだ記憶も、いいや対面した記憶すら消えている。会ってもまた「はじめまして」から始まるんだ。けどずっと一緒にいる彼女は違う。時間を戻しても、いつもいつも違った表情を僕に向けてくる。怒っても、笑っても、泣いても必ずそこには僕がいる。何時しか互いに意識し始めて、僕が前に言った言葉を覚えているかな。

「なまえが、好き」って、言ったんだ。けどなまえは「また冗談言って困らせようとしてる!」って、そう言った。冗談で済まされたその告白は、忘れられていない。いつだって僕と目が合うだけでその言葉を思い出しているのか、頬を赤く染めているのが可愛くて堪らないんだよ。

いつだったか、アンジュさんとカーフェイの再会の瞬間に「好きな人と最期を迎えるなんて、辛いけど一番幸せなのかもね・・・」って呟いた君。あの時は時を遡るのを躊躇ってしまったんだ。あの場で、僕と一緒に最期を迎えてしまおうかって思ったんだ。

大切な人を、もう失いたくないから。ずっと傍に居られるのなら、もういいんじゃないかって。二人みたいに寄り添って、このまま全部運命に身を任せてしまおうかって、そう思ったんだ。

けど、君のガッカリした顔や、怒った顔、僕が誰かに対してデレデレ(しているフリだけど)しているとヤキモチを焼いている君の姿を見て、ああ今僕は君の記憶の中にどんどん入り込んでいっていると実感すると、もっとそんな君を見たいんだと欲ばっかりが先回りしてしまう。

誰かの記憶に自分があるだけで、誰かの中に自分があるだけで。君だけでも僕を見つめていてくれるのならって。君が怒っている今の姿であれ、表情であれ、僕が今この時間を生きているって実感するだけで幸せ。それが君となら、もっともっと幸せなんだよ。

「ちょっと聞いてるの!?」

僕が君を見つめ続けていると、何も聞いていないと見なされた僕に対してなまえは耳を思いっきり引っ張りだした。痛みはあるものの、僕は彼女の行動に怒りはない。それよりもずっと僕を見てくれているだけで、僕が君の話を無視している事すら記憶に残っているんだとやっぱり嬉しさばかりが増幅して止められない。

「いちいち煩いよ」

嬉しいと心の中で思いながらも、僕は気持ちとは裏腹な態度を取った。耳を引っ張り続けるなまえの手を僕は仕返しにと引っ叩いて思いっきり睨みつけてやった。なまえは驚いた顔をさせて眉をしゅんと下げると、切なげに僕を見つめている。僕の態度が暴力を振るった事に申し訳ない気持ちになったんだと思うけれど、そんな気持ちにさせたくて僕はこんな態度を取ったんじゃないんだ。

「時間を戻さなければ、この世界は終わってしまうんだ。どのタイミングで時間を戻すのも、僕の勝手だと思うけど」

きっとこの場でチャットがいたらややこしい事になっていたと思う。この場にチャットが居なくてよかった。チャットも何だかんだ言いながらなまえの事を気に入っている。こんな自分勝手な発言をした僕に対して今度はチャットにガミガミ怒られるのもあるけれど、悲しんでいるなまえの顔を見て彼女の肩を持つに違いない。そんな発言をしたのは、紛れも無い僕の責任なんだけど。今この瞬間も、チャットにも誰にも邪魔はされたくないんだ。

「そうだけど・・・!」

僕の発言に、何かを言いたげになまえは肩を震わせている。自分の幸せなタイミングで時間を戻されるのが気に入らないと言い続けていた彼女だが、それはこの世界の最期を逃れる為には仕方が無い事なんだと頭では理解しているのに、僕が楽しんでいるのを指を咥えて見続けるのが辛いんだって、その表情からでも手に取るようにわかっちゃう。

「自分が変えたいからってだけのタイミングで時間を戻すって考えは、どうかと思うんだけど」

彼女がそう言うのも無理はない発言をしたのだから、そう言われるのは当たり前だ。あの発言だと自分の都合で時間を操作していますって自首した様なものなのだから。実際その通りなのだが、世界を救う手前だもん、君はそれ以上何も反論できないよね?

「それは自分の悪いタイミングで時間を戻された事が嫌だから言うの?それとも、僕が誰かと楽しんでいるのが気にくわない、それだけの理由で言っているの?」
「正直リンクの言う通り、その理由だってあるけれど!わたしが言いたいのは自分の都合だけで時間を戻して他の人の事を考えているのかって言っているの!町の人の事とか!」

他の人の事を考えてって。ああ笑える。確かに他の人が時間を操作されたとなると、彼女の言う通り僕は酷い事をしているんだって思うんだけど。けどなまえは先に言っちゃったんだもん。僕が言った事も理由があるって最初に。それじゃあその先にそんな事を言ったって、最初の建前があってもそれは自分の事を言っているとしか僕には思えない。

「町の人なんて綺麗事言って、本当は自分の事を言っているんでしょ?だから僕が時間を戻すのが気にくわない。それはどうして?」
「っ・・・!」

僕の言葉に、なまえが黙ってしまった。目をそらして、地面を見つめたまま口をもごもごとさせているけれど、僕の耳にはその言葉は届いていないよ?


素直に言っちゃえばいいのに。

僕が、誰かと楽しんでいる時にわたしだって時間を変えたいんだって、見るのも嫌なんだってさ。嫉妬しているんだって、言ってしまえばいい。

本当は嫌なんだろ?僕が他の子と楽しんでいるのを僕が時間を操作しない事にイラついているんでしょ?

自分の気持ちを他の人の気持ちに例えてまで自分を庇うのか。自分の気持ちにそんなに素直に答えたくないのか。僕にはなまえの深い気持ちまではさすがにわからない。けれどもう、その仕草が全面的に僕が接する他の子に対しての嫉妬でいっぱいなんだって。何度も何度も繰り返し過ぎていく時間の中で沢山見せ付けられてきたんだ。意地悪だってしたくなる。僕の気持ちをさらりとかわしてくれたのが運のつきさ。

何も返事がない彼女を無視して僕が歩き出すと彼女もまた顔を伏せたままついてくる。僕は彼女を無視しているけれど、それはフリだし彼女を置いていくつもりは更々ない。彼女もまた、傲慢な態度をし続けてもいつも僕の後を追ってくる。

もう、お互い依存し合っているんだ。この記憶の残らない世界を一緒に歩んでいる以上記憶が消えるのをお互い恐れているから。その記憶が相手に対して特別な感情があるからこそ、余計そうさせる。僕は彼女が好きだから、離れて彼女の記憶から僕が消えるのが嫌だから離れたくない。彼女もまた、僕と同じ気持ちなのかどんなに酷い事を言われてもずっと離れないでいてくれている。

言葉では素直に言わないくせに、行動はそうなんだって言ってくれているんだ。本当、素直じゃなくて強情でほっとけないしどんどんこの気持ちは加速していくばっかりだ。

君の怒った顔を見ると、嬉しくなる。君の悲しそうなその顔を見ると、ドキドキする。

君のその素直になれなくて何も言い返せなくて辛い表情に、僕はゾクゾクするんだ。

僕が君の記憶の一部になって、君が僕の記憶の一部になっている。どんな瞬間であれ、どんな素顔を見せ合っている瞬間も、互いに過ごした時間が互いの記憶に残っていると実感できる瞬間がたまらなく好き。それが大好きななまえだから、余計に嬉しくて興奮する。今みたいに捨てられた子犬みたいで捨てないでくれと懇願されているようで、自分を必要としている姿なんて、今すぐ振り返って抱きしめてやりたいぐらいに可愛いんだ。

正直になれなくてついには泣き出してしまった君を一瞬も見ずに、僕は歩き続ける。その辛い記憶もまた、僕を忘れられない元になるのならいくらでもこんな演技してやるさ。君が自分の気持ちに正直になって、僕に本気で縋ってくるまでやめるつもりはない。

君の記憶が、もっともっと僕でいっぱいになればいい。

(もっと依存してくれよ)

そうしてもっといっぱいにしたいって、甘えてほしいんだ。








(僕はもう、君と過ごした記憶でいっぱいになっているんだ)
(君も同じになってほしいんだよ)
(君とは一生、離れたくなんてないんだ)

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