校舎の中をだいたい探したところで、健二は諦めて部室に戻ろうと踵をかえす。
やはり返ってしまったのだろうかと深く溜め息を吐いた。
助けてもらったのにお礼さえ言えないなんて。
再度溜め息を吐こうとしかけて、健二は目の前に歩いている長身の色黒を見つけた。

「いけ…」
「健二君! ちょっといいかな?」

やっと見つけた佳主馬だというのに夏希に腕を引っ張られる。
遠ざかる佳主馬に健二は何度目かの溜め息を吐いた。


「あの…先輩、人に見られたらヤバいんじゃ……」

夏希と健二が校内で一緒にいれば噂が悪化するのは目に見えている。
適当に入った教室で机がいい仕切りになっているとはいえ見つかったらどうしようかと健二は周りをキョロキョロと警戒してしまう。
夏希は冷静に大丈夫と小さな声で言った。

「だからこうやって隠れて話してるんじゃない。それより佳主馬に聞いた、リンチのこと」
「え……、池沢君に?」

健二の胸がドキリと鳴る。
複雑な顔をした夏希は息を吐いてから、ごめんと呟いた。

「とにかく私たちは付き合ってないんだし、ちゃんと周りには否定して? 私もなるべく健二君に迷惑になりたくないし…」
「迷惑なんて。……こちらこそすみません。僕なんかと変な噂立てられて…」
「……佳主馬に怒られちゃったの。健二君に迷惑かけるなって」

佳主馬という言葉にまたドキリと高鳴る。
健二は自分の胸に疑問を抱きつつ、きゅっと手を握った。
まだ九月の始めということもあり、健二の背中に汗がつたう。

「なんであいつが怒るんだか。でもけっこう健二君の話になると食いつくよ、佳主馬」
「そうなんですか…」

いきなりそんなことを言われても反応に困り、健二は曖昧に相槌をうつ。
じゃあ、と手を振って夏希は周りを確認しながら教室を出て行った。





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