Defend him against danger



 ふと階段を上る音が遠くから聞こえてきて、キレネンコは目を開ける。
視界には肩に寄りかかって寝ているプーチンの寝顔。
体は動かさないように顔だけを動かし、あたりを見れば青空が広がっていた。
昼飯を食べたあと、そのまま屋上で眠ったらしい。
なぜかプーチンも一緒に。
冷たい壁に隣のプーチンの体温と温かい日差しがキレネンコにあたる。
その間にも誰かが屋上へと向かっている音が大きくなっていた。
扉が開けられると同時に見えた見知った顔に、キレネンコは反射的にプーチンを胸に抱いていた。

「っは!」

突如起こされたプーチンが変な声をあげるがその言葉も事態の剣呑さにかき消える。

「あっれーキレネンコくんじゃない?」

いかにも不良っぽい腰パンをした男が言う。
その隣は人相の悪い男。
ぎゅっとプーチンを抱く力が強くなった。
どうすればいいんだろうかとプーチンは身じろぐけれど動けない。

「おお? なにソレ、お前にも好きなやつとかいたの?」

ヘラヘラした男がからかうように言う。
好きなやつという言葉にだんだんとキレネンコから殺気が出ていた。
けれどプーチンはその言葉には気づかず、体を縮こませていた。

「おい、前に出てこいよ。……ボリス、ちょっとあのちっこいの。」
「……命令するな。コプチェフ」

ボリスと呼ばれた男が近寄ると同時に、キレネンコはプーチンを抱きしめたまま立ち上がる。
怯えているプーチンにキレネンコは二人には見えない角度で軽く額に口づけた。

「大人しく待ってろよ。」

ぼそりと呟いたキレネンコをプーチンは不安そうに見上げてからきゅっと唇を引き締める。
なんだか泣いてしまいそうだった。
行かないでと言いたい気持ちを押さえ、プーチンはキレネンコの背中に怪我しないでと声を投げかけた。

コプチェフと対峙しているキレネンコはいつもの無表情だ。
だけど明らかな殺意をただよせている。

「おいおい、いいのか? ここで俺を倒しちゃったら、あのちっこいの、お前のこと嫌っちゃうんじゃない? いかにも優等生っぽいもんな!」

その言葉にキレネンコは手を握り締める。
それから静かに舌打ちだけをした。
コプチェフの重い拳がキレネンコの鳩尾にはいる。
けれど呻き声ひとつ上げない。
ただ平然と殴られ続けるキレネンコを見てプーチンの目に涙が溜まった。
なんで、と呟けばボリスがちらりとプーチンを見る。

「汚いなコプチェフ。こいつを使って。」

吐き捨てるように言うその言葉にプーチンは唇を噛みしめた。
(僕が、いるから。足手まといになっている?)
地面に立っているだけでなんの反撃もしないキレネンコをただ見ているだけなんてあまりにもプーチンには酷なことだった。
考えるよりも先に行動に出てしまう。

「おいっ……おまえ!」

ボリスが制止する声も聞かず、キレネンコの前にプーチンは出た。
拳が迫ってくる。
ぎゅっとプーチンは目を瞑った。
ドゴッと鈍い音がする。
けれど痛みがしないことに疑問を感じてプーチンは目を開ける。
その直後に目をキレネンコが腕で覆った。
プーチンには見えないようにして、キレネンコは自分の手でコプチェフの拳を受け止めている。
それからすぐさま裏拳打ちをかました。
コプチェフが勢いで倒れる。
それだけでキレネンコは追い打ちをかけるのはやめた。
第一にプーチンを怖がらせないために。

「コプチェフ、」

後ろからボリスが来て、コプチェフの手を引っ張って立たせる。
悪態をつき、舌打ちをするコプチェフはキレネンコを睨みつけた。

「…うぜえ。前はもっと身の毛立つほどだったてえのによ。そんなぬるいやつだったとはな!」

屋上の扉を乱暴に開け、去っていく二人をキレネンコは最後まで睨み、居なくなったのを気配で確認してからプーチンを解放した。

「大丈夫? キレネンコ…」

フェンスに寄りかかって座るキレネンコの対面でプーチンはタオルで顔を拭いた。
口の端や頬についた血がタオルにしみていく。
泣きながら熱心に拭くプーチンをキレネンコはじっと見てから小さく舌打ちをした。
それを聞いたプーチンはびくっと体を震わす。

「ご、ごめん。痛かった……?」

申し訳なさそうに謝るプーチンにキレネンコは、違うと低い声を出した。

「大人しく待ってろと言った。」
「……あの、だって。キレネンコが僕のせいで傷つくの、嫌だったから…」

プーチンは戸惑ったように視線をおよがせてから、ごめんなさいとまた謝る。
本音をもらせばキレネンコはふっと無表情からかすかに微笑んでみせる。
それからプーチンの唇に口づけた。
舌が器用にプーチンの口内に滑り込んだ。
絡めとられる舌にどうにか応えようとプーチンも必死に舌を動かす。

「ふ、っ……ひれ…ね、こっ……」

そんなプーチンにキレネンコは右手を服の中に入れた。
横腹を撫で、上へとあがっていく。
キレネンコはプーチンの首元に顔を埋め、舌を這わせる。

「…あっ…、や、め……っ…あ…」
「プーチンたち! 授業終わっちゃ…あれ?」

ばんと扉が勢いよく開ける音がしたあと、元気よくコマネチは言いかけて。
目の前の広がるキレネンコがプーチンを押し倒している、いわゆる『お楽しみ中』な場面に遭遇してしまったのを悔やむ。

「あっ……れー…。お邪魔しちゃったかな……ごめん…」
「ばかじゃないの、コマネチ。空気読みなよ。」

後ろからレニングラードがコマネチを責めた。

「あ、き、キレネンコ…! ちょっ、やめっ、あ…」

コマネチたちが見ているにも関わらず、キレネンコは行為を進めようとする。
そもそもキレネンコは誰かが来るのを音でわかっていたのだ。
それをプーチンは全力で逃げ切ってから、階段を駆け下りて行った。

「あとはよろしくー、コマネチー。」

レニングラードが逃げるように屋上から抜け出していく。

「え? え? …っああん!」

コマネチが慌てだすと同時に最高に機嫌の悪そうなキレネンコが拳を振るっていた。
コマネチの顔にクリーンヒットした拳をガシャンとフェンスに叩きつけてから階段を悠々とおりる。

殴られたコマネチは一人、幸そうな顔で屋上のど真ん中に横たわっていた。



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コプボリだったりもしたりしなかったり





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