無知



「……ってことがあったんですよー」

 家に遊びに来ていたコマネチさんに先日の入れ替わっちゃた話をしていた。
もちろんキスのとこは言わないで、もう一回寝たら治ったという設定。

「あー、それ知ってる! あの商店街のお地蔵起こしてあげたでしょう?」
「…うん? 起こしましたけど……」
「それだよ、それ! 原因は。」

びしっと指先を眼前につき出され、こくんと頷く。
起こしたのがいけなかったのかな。

「お地蔵を起こすとそうなっちゃうらしいよー。まあ、キス、で治るらしいけど」

コマネチさんはキスという単語を強調して言う。
自分でも顔が赤くなっていくのがわかった。

「えーと……あ…、…はい……」

正直に認めれば、ニヤニヤとしているコマネチさんが身を乗り出して聞いてくる。

「なになに。キス以上は? いやー、けっこう君の旦那さんむっつりっぽいもんねー」

隣でソファーに寝っ転がって雑誌を読んでいるキレネンコさんに聞えよがしに言うから慌てて否定した。

「しっしてないです! なんですか、その『それ以上』って!」
「え? だからこういうー…」

コマネチさんが立ち上がると肩に手を置いてくる。
反応に遅れてされるがままになっていたけど、急に慌ててコマネチさんは席に戻った。
なんだか異常に慌てていたような(少し気持ちよさそうでもあったけど)。
キレネンコさんをちらりと見れば、すごい形相でコマネチさんを睨んでいる。
思わず自分は何もしていないのに謝ってしまいそうになった。

「いやーあはは…。まあ私は完全ネコだから。今日にでもあの人に教えてもらえばいいと思うよ! んじゃごちそうさま」

一気に紅茶を飲み干すとコマネチさんは家を出て行ってしまった。
何だったのだろうと思ったけど、まあいっかと思い、立ち上がる。
直後、突然に肩を触られて体がびくっと揺れた。

「なっ……キレネンコさん…?」

キレネンコさんの大きな手が肩からゆっくりと首に触れる。
少しくずくったい。
笑い声が口から洩れるとキレネンコさんは眉間に皺をよせ、離れた。
何がしたかったのだろうと聞こうとしてやめる。
その代わり傍まで行き、軽く見上げつつ違う質問をした。

「コマネチさんってヒヨコじゃなくてネコだったんですね?」

さっきよりも難しい顔をしたキレネンコさんが僕を見ていた。
……なんか変なこと言っちゃったかな。
首を傾げつつ、キレネンコさんを見ればいつもの無表情でまたソファに横になって雑誌を読み始めた。
手持無沙汰になり、まだはやいけれど夕飯の準備に取りかかろうとキッチンに向かう。
冷蔵庫を開けるけれどほとんど空っぽ状態。
そういえば昨日、材料を使いすぎて今日買いに行こうと思っていたんだ。

「キレネンコさーん。お買いものに行ってきてもいいでしょうか?」

買い物に行く準備をし、一応念のためにキレネンコさんの了承を得ようと声をかける。
ぱたんと雑誌を閉じたキレネンコさんは立ち上がった。
部屋に行き、すぐ戻ってきたと思ったらジャンパーを着込んでいて。

「もしかして、着いてきてくれるんですか?」

問うけれど返事はない。
無言で外に出ていくキレネンコさんの後を緩む頬を引き締めながら追った。



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長いから切ります
微性的だったり





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