逆転ラヴァーズ
「……ーチン、…プーチン、…っはあ……」
「っは!…な、なに!?」
敷布団が引かれて体がベッドから落ちた。
頭がまだはっきりとしていないけどこんなことするのはキレネンコさんだとわかった。
話しかけられることが珍しくて、というよりもキレネンコさんが言葉を発すること事態、稀なのだ。
それでもそのことに驚嘆する間もないぐらいに自分の霞んでいる視界に信じられないものがうつっていた。もう驚愕を通り越して唖然としてしまう。
「あれ…ぼ、僕? ん、鏡か…」
「入れ替わったんだ」
唐突な言葉に、否定しようとしてしまうがキレネンコさんはそういう冗談は言わない。
ベッドから起き上がり、洗面所に急ぐ。
鏡にうつったのはキレネンコさんだった。
両手をあげたりしてみるが紛れもなくキレネンコさんの体が僕の意思と同じことをしている。
「き、き、キレネンコさんになっちゃったの僕!? なんで!」
後ろから僕の体のキレネンコさんが頭を叩く。
……なんだか異様な光景になってそう。
「数分寝むったらこれだった」
「そ、そっかあ……」
いつかは戻るだろ、と無表情なキレネンコさん(体は僕)が冷静に言う。
あれ。でも今、数分寝たって…、裏を返せば数分しか寝てないってこと?
なんで、という疑問はすぐ答えが出る。
僕たちは逃亡の身なのだ。
僕みたいにぐっすり寝るだなんてあまりにも起きて見張ってくれていたキレネンコさんに失礼だ。
ふいにキレネンコさんが頭を撫でてくる。
「俺の体でそんな顔するな」
どういう顔をしているんだろうと気になったがキレネンコさんが許してくれないだろう。
何か言おうとして、結局はごめんなさいと謝った。
とりあえず寝れば戻る可能性もあるとキレネンコさんが言ったのでそのとおりにしているのだけど。
肩が隣合わせで、一緒のベッドで。こんな状況で寝れるわけない。
現在時刻は四時で夜のような朝のような微妙な時間。
この時間帯はあまり追ってもこないだろうという。
けれど薄暗い部屋にキレネンコさんと二人きりだと妙に緊張してしまう。
そわそわしながらも隣を見れば、キレネンコさんがすぐ近くにいる。
そういえば、キレネンコさんの寝ているところを見るのは初めてだと思った。
靴の雑誌を見てる姿とかキレているとことかしか見たことがない。
そう考えるとキレネンコさんのことをあまり知らないんだとなんだか悲しい気持ちに襲われた。
「キレネンコさん…」
返事はない。
寝ているのかと少し上半身を起こす。
目が閉ざされているのをいいことに顔を近づけ唇にキスをした。
離すと同時にキレネンコさんと視線が合う。
起きてたのかと慌てて体を離すけどキレネンコさんがそれを許さなかった。
腕に抱かれ、心地よい体温に触れる。
胸に顔を埋めているからキレネンコさんの表情は見えない。
「……戻ったな」
不意にキレネンコさんがそう言った。
目をパチクリさせ、自分の体を見ればもとの僕の体だと認識する。
「っほんとうだ!」
嬉しくてキレネンコさんの背中に手をまわしぎゅっと抱きしめた。
「さっきのキス」
耳元で言われ、途端に顔が熱くなる。
そういえばキスしたときキレネンコさん起きてたんだっけ。
恥ずかしくて逃げようとすればキレネンコさんの腕に込める力が強くなった。
「あ、あのっ……さっきのはですね、そっその…」
なんとか言い訳しようと口を開くけれど、言葉が続かない。
結局、最後はあーとかうーとかで終わってしまい弁解出来なかった。
キレネンコさんは機嫌が良さそうに僕の額にキスをしてから本当に眠ってしまった。
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ありがちネタすぎて