最初から勝ち目無し



「はじめまして、プーチンです。」

 罪を犯したとは思えない優しくて無垢な笑顔。
キレネンコはプーチンを軽く一瞥した。
それをカンシュコフは横目でひやひやしながら見ていた。
この監獄でプーチンみたいな癒し効果を得ているやつなんていない。
はっきりと言ってしまえば会った瞬間、カンシュコフはプーチンに惚れてしまったのだ。
そのプーチンがあのキレネンコと同室、殺されたらと思うとカンシュコフは身が竦む。

「んじゃ、飯の時間になったらまた来るかんな。」

ずっとここで見張っていたい気持ちを抑え、カンシュコフは次の仕事に向かった。


誰かがバカだよなと言った。
囚人に恋をするほど切ないものはない、わかってて落ちるのかと。
理屈で人を好きになれるほど器用じゃないんだと言い返したもののカンシュコフは自分自身に溜め息を吐いた。
こうして早々に食事を持ってきてしまったり。
まだ時間ではないが気になって仕方ない。

「おい、食事を…、っ!?」

扉を開けて、目に入った光景に思わずカンシュコフは食事の魚を落としそうになった。
プーチンがいるはずのベッドには誰もいない。
まさか、と思いキレネンコを見ればもっと驚くはめになった。

「わー、この靴かっこいいですねー」

いつもならベッドに寝っ転がっているキレネンコが腰掛けている。
プーチンはその腕に抱かれながらキレネンコと一緒に雑誌を読んでいた。

「あ! カンシュコフさん!」

カンシュコフの存在に気付いたプーチンは嬉しそうに食事を取りにきた。
キレネンコはカンシュコフの呆然としているのを見て、鼻にかける。
そのキレネンコのバカにした態度にカンシュコフは泣きたくなるような、絶望に似た感情を抱く。
プーチン自体は殺されていないものの、奪われてしまった。

「あれ……? カンシュコフさんどこに行くんですかー?」

プーチンの言葉を最後まで聞かず、カンシュコフはその場から逃走していた。


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相手はアイツなわけで、最初から勝ち目など無いに等しかったのだ!





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