どこまでも駆けて行くよ



 今年のバレンタインは忘れられない日になった。
それもこれも健二さんにチョコをもらったから。
お返しはどうしようかと考えて、思い付いたのは。

「会いに行くよ。」

電話の向こうで健二さんが慌てている声が聞こえた。

「今から? 時間が…。」

危ないよ、と健二さんは言うけれど俺だってそんな年じゃない。
しかもまだ昼の三時だ。
子ども扱いし過ぎだ。

「もう来た」
「っえ…!?」

少し不貞腐れている声に自分でも充分子どもだな、と思う。
健二さんはこれから来るのかと思っていたらしく、すごく驚いていた。
それでもお構い無しに俺は健二さんに尋ねる。

「家、どこ?」

なんてかっこつけようと聞いてみたけど。
結局、健二さんには駅まで来てもらった。
歩きながら並べる会話は他愛ないけど大切な時間だと思う。
直接会って喋れるのは少ない機会だから。

「佳主馬くん、背伸びた?」

健二さんが神妙な顔つきで聞いてくる。
半年会ってないんだから、それはかわってるけど。

「五センチくらい?」

「えっ! 嘘、もっと伸びたんじゃない?」

それとも僕が縮んだのかなって健二さんは笑う。

「…でも、もっと伸びるよ。健二さん追い越してみせる」

いたずら心が芽生えて、そう言えば健二さんは本気で悩んだ顔をする。
それから、ふっと表情を和らげた。

「仕方ないかな。だって佳主馬くんだもん、すぐに背高くなっちゃうよ。」

…満面の笑顔で言われても、困る。
きっと、顔が真っ赤になってる。

どこ行こうか、と健二さんが問うてきた。
だから迷わず健二さんの部屋って言ったら困った顔をされる。
何もないし…つまんないよ、健二さんが苦笑いを浮かべた。
ちょっと疲れちゃって、どこかでゆっくりしたいんだ。
嘘、だけど健二さんは騙されてくれて。

「はい、どうぞ。」

渡されたココアをお礼を述べてから一口飲む。

「ねえ、健二さん。」
「ん? 何?」

間を開けてから口を開く。

「今日、泊めて?」

明らかに健二さんの表情が凍りついた。
狼狽した様子で、でもと繰り返す。

「泊まるって言ってきたし、お泊りセットも持ってきたから」
「……仕方ないなぁ」

苦笑しながらもいいよと言ってくれるあたり健二さんはやっぱり優しい。
それからふと健二さんが俺を見て、

「来てくれてありがとう。嬉しい」

ふにゃりと笑う。
本当に反則だ。
何もしないという保証ができなくなってしまうじゃないか。





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健二さんのためならどこまでも駆けて行くよ




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