残された健二は何をするわけでもなく自分も教室を出ようと立ち上がる。
同時にドアが開く音が聞こえ、慌てて振り返れば会いたかったあの人。
「小磯先輩…?」
「え、…っあ……」
突然の登場に言葉が失う。
佳主馬も驚いたように困惑している健二を見て、不意に顔を伏せた。
「何をしてたんですか、こんなところで」
さっきよりも幾分も低い声に健二の体が跳ねた。
パニックで冷静なことが考えられず、何か怒っているのだろうかという思考は消される。
夏希と会っていたと言ってしまえば、疑いが濃くなってしまう。
「いや……、あはは。教室間違えちゃった」
一年の教室は四階にあり、二年は三階なので苦しい嘘である。
咄嗟に出た嘘があまりにも苦し紛れすぎて健二は自分自身に呆れた。
だけど佳主馬はふーんと適当に頷く。
「なんで、夏希姉といたくせに嘘つくの」
「えっ」
「……本当に夏希姉と付き合ってんだ」
バレバレな嘘だったとは言え、健二は唖然としてしまう。
否定をしようとした時にはもうすでに佳主馬の姿は無く、健二はその背中を追いかけた。
佳主馬には絶対誤解されたくないという本人は自覚していない思いが健二にはあった。