エレベーターボーイ





日本人はとかく第一印象に囚われ易いものだ。例えば電車の中で痴漢が発生したとして、被害女性の後ろに立っていたのが自分としっとり汗をかいたお世辞にも清潔とは呼べない小太りな男性の二人だとすれば、彼女は間違いなく後者の人間を痴漢だと指差すだろう。そういうことなのだ。
…まぁ、私は女性の尻に一欠けらも興味は無いのだけれど。



エレベーターボーイ



某会社の社長秘書を生業としている私の密かな楽しみは、エレベーターに乗ることである。
エレベーターという小さな密室。密集する肩と肩、そして股間。それはまさしく私にとって最上級の空間。




「……?」

その引き締まった尻にそっと手をあてがう。目の前の善良そうな青年は、まさか自分が痴漢の標的になっているなど思わない。たまたま手が当たっているだけだろうと、十中八九そう解釈する。

いい気になった私は更にぴとりと手を密着させた。あぁ…この感触…凄い…こんなのもう…興奮してしまう……本当はこのジーパンをぺりっと脱がせてきっと今時のオシャレなボクサーパンツに包まれているだろう麗しいその尻そしておにんにんをペロペロちゅっちゅしたい……

「…んふ」

思わず吐息が漏れる。ギクリと一瞬肝が冷えたけれど、どうせあと数十秒しかない至福の時。
私は思う存分に若い青年の尻を堪能し、何食わぬ顔でエレベーターから降りる。


* * *


と、こんな日々がもうかれこれ二年以上続いていたある週末。
今日も私は最寄り駅から十程離れた繁華街を彷徨(うろつ)き、適当な店のエレベーターに乗り込んでいた。

「…っ」

真っ昼間の大型デパートの混み合ったエレベーターにて、それは起こった。
いつものように周りに好みの男性が居ないか吟味していたところ、ふいに前方下半身に不審な感触。
こ、これはまさか……!

「…ンン"ッ」

わざとらしく咳ばらいをしてみても、私の股間に丁度当たっている手はびくともせず。この満員のエレベーターの中で身動きしようもないと言われればそれまでかも知れないけれど、この、この……あまりにも私のペニスの位置にジャストフィットした形で置かれた手は……これはまさしく……!

「…っ」

突然だが私は今日、薄い生地のスラックスを穿いている。これ以上その手が股間を刺激しようものなら、私の膨れ上がったそこは言い逃れられない結末になってしまう。
どうしようかどうすべきか。
いつもと逆の立場に置かれた私の頭は完全に冷静さを失っていた。

「……っ、ふ」

あぁまずい。私はこんな、こんな…見ず知らずの人に触られただけで勃起してしまうはしたない下半身の持ち主だったのか…。あぁしかし気持ちとは裏腹に素直に反応してしまう私のマイリトルボーイ。

と理性の狭間で揺れていると、私の股間に張り付いていた手が露骨な動きをし始めた。私がろくな抵抗を示さないことを悟ったのか、私の形を探るように揉みだしたのだ。そしてその動きはみるみるうちに大胆なものに変わり、立派に膨らんだそこを私はひらすらに撫で回されていた。


――その時。

「…!?」

突然パッと密室内の電気が消えエレベーターの動きが明らかに止まった。こんなタイミングでのまさかの停電。
一気にざわめきだす小さな密室。それに乗じて私の前のチャックがジジジ、と音を立てた。

「…わっ…!」

この方なんと器用な…などどまるで人事のように考えていたら、あっという間に前を開(はだ)けさせていて、気付けば先走りでヌルヌルになったペニスをしっかりと扱かれてしまっていた。

「…ん"…っは…」

まずい、気持ち良過ぎて声が出てしまう。
幸い今は停電中。こんなはしたない格好の私を誰も見てはいない。この吐息も、ざわざわと煩い周りの声に掻き消されている。でもそれも時間の問題だろう。あぁやばい…こんな…いけない事なのに…興奮がおさまらない……!

「…っふ…ん"…っぁ」

思わず腰をぐいっと押して手に擦り付ける。完全に了承の意だと捉えたであろう先方は、更に激しくペニスをコスコス扱いてくれた。

「…うっ」

徐々に迫り上がる射精感にもう限界を感じた私は、腰を引いてポケットからハンカチを取り出したのに。

「だめだよ?」

暗がりでも分かった。
目の前に居た男性がくるりとこちらを向いて、にこやかにそう私に告げたのだ。反射的に手が止まってしまう。
そして、若そうな可愛らしいその声からは想像出来ないテクニックであっという間に私の精子を搾り出されてしまった。

「…っ…くッ」

情けなく溢れ出てしまう白濁を、器用に彼の細い手が受け止めた。


* * *


エレベーターが停電していた約五分間で、私は自分の中に眠っていた新たなセクシュアリティーを目覚めさせることになってしまった。

あの時の彼はエレベーターが停電から回復するや否やすぐに出て行ってしまったけれど、何故だろう……きっとまた、会える気がする。

再びの再開を心待ちにしながら、今日も私はエレベーターを巡る。



---fin---



痴漢魔がまさかの痴漢に遭って困惑し嫌がりながらも最終的には性欲に負けてしまうってバージョンと迷ったのですが案外あっさりと痴漢される方の快楽に溺れてしまう形になりました。もっと変態さを出したかったです(*´Д`)/
匿名様、リクエストありがとうございました!



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