act.62




水沢先輩との遠距離恋愛生活も一週間が経ち、ちょっとしたいざこざも無事に解決して、俺は今最っ高に幸せだ。

…ただ、メールか電話でしかコミュニケーションをとれないのが寂しくって寂しくって、先輩不足に悩まされている。

時折送ってくれる写メは嬉しいけれど、自分の全然知らない土地でニッコリ微笑む先輩の姿を見ていると、なんとも知れない焦りと寂しさをまざまざと感じてしまっていたたまれなくなるのだ。


直接会って、先輩のきらびやかな笑顔をこの目で見て、その温かい体に触れて、あわよくば整った唇にキスもしたい。
あと何日、がまんしなければいけないんだろう。




***




『なぁ中村クンさぁ、毎日ちゃんと抜いてるか?』
「…………えっ…と…」

先輩との電話タイムの折、突然降って湧いた言葉に言い吃る。

今までも下系の話をすることはなかったとはいわないけど、自然と言葉裏に滲ませたりニュアンスを変えたりといったスマートな手法でしか話したことがなかった。

だから先輩の口から聞いた“抜く”なんて俗な言葉が耳に慣れなくて、思わず一瞬で先輩との情事の場面がフラッシュバックしてしまい、早くも腰がずくんと重くなる。

『っな、毎日してんの?』
「えっと…えとえと…………」

自然と前屈みになりながら、椅子から腰をあげてベッドへと移動し壁に背を預けてよりかかった。

『教えてよ』

先輩の声が魔法みたいに耳にスッと溶けて、俺の唇を動かす。

「し、…て…ます……ケド…」

シュルル…と風船が萎むように小さく告げた返答に、そっかと和やかな声が聞こえてきた。嬉しそうな反応に、こっちまで頬が緩んでくる。

『浮気とかすんなよ?』
「すっ、するわけないじゃないですか!それを言うなら先輩こそ…」
『心配か?』
「先輩のことは信じてますけど、周りに居る人間のことまでは俺にはわからないので」
『ん〜…』

正直に気持ちを伝えれば、先輩はなにか思い当たる節でもあるかのような唸り声をだした。

だから、

「先輩のことですから、毎日誰かに言い寄られてることでしょうけど…ね…」

試すように追い撃ちをかけてみる。

事実、毎日とはいわなくても例えばこの一週間、何人に誘われたんですか?と尋ねれば、きっと二ケタの人数くらいは挙がるだろうんだろうってことくらいはわかる。

逆に考えれば、それだけ魅力的な人間が選んだのが自分という事実に浮かれそうにもなるけれど、だからこそ不安の種は尽きないわけで。

『最近、さ』
「なんですか」
『つーか多分、中村クンと付き合ってちょっとしたくらいからかな、前よりもそういうのが増えたんだよ。なんでだろ』

そんなの、先輩から滲み出てるオーラに確実に色がついて、爽やかイケメンだった先輩からどことなく色気の割合が増えたことで皆があてられた結果に決まってる。

気が付いてないのだろうか、明らかに一ヶ月前よりも増した自分の魅力に。

「っも…、どこまで俺を不安にさせたら気が済むんですか」
『え!?違うって、逆逆!今は俺が不安だっつー話をだな…』

先輩、意味わかんないです。

というか先輩、不安って言った?
それってもしかして……

「先輩、今不安に思ってるんですか?誰の何に対して?」
『え?言わせる気か?』
「もちろんです」

小さく紡がれた自分の名前にトクンと胸が高鳴る。
ひとまず先輩の愛情がまだ俺に注がれていることに安心したから、今日のところは食い下がるのはやめておこう。

――そう思っていたのに。


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