act.43




先輩と付き合うことになって約一週間と少し。
俺みたいな平凡なただの一般人とは違い男女構わず凄まじくモテている俺の恋人は、八月に入ったらすぐに海外へと渡ってしまう。
せっかくの夏休みで、愛を育むには正にうってつけの時期だっていうのにな……あぁ、さみしい。一ヶ月も先輩と会えないとか。寂しいし…なにより、不安だ。

「なーにシケた顔してんの。どした?」

今日は先輩の撮影がある日で元々会う約束はしていなかったのだけど、先輩が気を利かせて俺を誘ってくれた。
夜ちょっと出てこれるか?と電話で聞かれた時はもう踊り出してしまいたいくらい嬉しくて、俺は先輩の仕事が終わってすぐに最寄りの駅まで迎えに行ったのだ。…歩きでだけど。

なんとなく行き先も決めずに並んで夜道を歩いていた矢先、先輩は俺のしょぼくれ具合に気付いたようで歩きながら俺に心配そうな眼差しを向ける。

「あっ……いえ、何でも」

ハッとして慌てて取り繕うような笑顔で両手を軽く振って何でもないことを示唆しようとする俺に、納得いってなさそうな半眼の表情が返ってきた。
先輩はわざとらしく拗ねたように歩みを止め、少しだけ俯く。

「言いたいことあるならちゃんと言って欲しいかな、その……彼氏、としては、さ」
「っ……!!」

恥じらいがちに頬を人差し指で掻きながら、様子を窺うように揺れる瞳とかち合う。
うわ、嬉しい……
先輩がこうして、明確に“彼氏”だと言ってくれた事実に感激する。や、だってこれは相当…嬉しい、だろ。

「す、すみません……ちょっと、あの、寂しいなぁなんて…思ってました」

素直に落ち込んでいた理由を告げる。
俺だって先輩の“彼氏”だ。どんな内容であれ、隠し事はよくない、もんな。

「今一緒にいるのに?」
「一緒にいれて嬉しいです…!ですけど、でも、先輩はもうすぐ遠くに行っちゃうし……やっぱり寂しい」

ぽつりぽつりと正直な気持ちを口に乗せれば、先輩はふわりと眉を下げて笑顔を作り、俺の頭をあやすように撫でてくれる。

「ごめんな。俺も中村クンとこんなことになるって分かってたら最初からチケットとんなかったよ。つかキャンセルしたっていいんだぜ?中村クンが一言『行かないで』って言ってくれればさ」

人好きのする整った顔が、ニタリと楽しそうな悪い顔になる。
先輩、ずるい。俺がそういう我が儘言えないって分かってて、そんな提案を挙げるなんて。

「い、いえ……せっかく家族が集まれる機会なんですから……オーストラリアには、絶対行って下さい」
「ははっ、お前ならそう言うと思った」

ありがとな、と優しく微笑んでから、先輩は俺の手を掴んで辺りをきょろきょろと見渡しだす。
そのまま、小道に入った人通りのほぼ皆無な狭い路地裏に引っ張られた。


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