第23話
空は薄い群青色になっていて、それはつまりもう日が落ちていることを示していた。
バサリとリュックサックを畳の上に置いてふーっと息を吐けば、どっと疲れが増したような気がした。
「ちょ、もう限界なんだけど」
元々体力がある方ではないけれど、さすがに疲れた。もう足がいうことをきかん。
結局山下から手渡されたあの棒は、魔法使いの杖とかいつぞやの時代の木刀とかではなくて、上り坂を歩く時に地面につきながら歩くことが出来るという我らの為の超お助けアイテムだった。いやしかし疲れた。
もう一度はぁとため息を吐くのを我慢する代わりに、少し遠くに位置どってカバンを置いた横田を見てみたら、この世の終わりかって位に見事などす暗いオーラを放っていた。
「よ、よこた」
ついつい声を掛けてみれば、身じろぎ一つせず「ん」とだけ返ってきた。横田くん相当疲れてらっしゃる。
「お、お疲れ」
たどたどしくそう告げると、今度は無言でこくりと頭が下がった。あー、可愛い。可愛すぎる。自然と顔がにやけてしまう。
…いつもだったら、ふざけ半分でその頭をわしゃわしゃと撫でたり出来るのに。
今そんなことしたら、拍車をかけて嫌われる。嫌われること山の如し。そんなのムリ。だからしない。
はぁ、と小さくため息をついて、仕方ないから山下の荷物の中を漁ってやることにした。
「うわ…きたなっ」
「ちょおーい!勝手に人の持ち物漁っといてそれはないっしょー!」
* * *
マジで霊的な何かがいらっしゃるのではなかろうかというレベルで重い肩のコリをほぐすように、首をパキパキと鳴らす。
これって鳴らすとめっちゃ気持ち良いけどあんまし良くないって聞くよなー……ポキポキ、っと。
首のついでに腰も左右に思い切り捩って、バキバキバキっという個人的には爽快な骨の鳴る音を聞きながら、風呂上がりでびちゃびちゃに濡れた髪の毛をタオルで丁寧に拭いている横田をじっと見ていた。
――瞬間、視線が交わってしまう。
お、という感じで眉を上げた俺とは正反対に、横田は分かりやすく気まずそうにささっと俯いた。
ぽた、ぽた、と髪の先から雫が落ちていた。
なんだろうこれ。この感じ。
どんだけ気まずくなったんだろう。俺達は。
こうやってこの先も微妙にすれ違ったままで、あんまり喋らなくなって、少しずつ距離が出来て、壁が出来て。
たった一度友達同士でちょっとエロいことしちゃったってだけだろ?俺が告白とかしたわけでもないし、気まずくなる理由なんてないじゃねーか。…ま、ちょっと俺は露骨な反応し過ぎちゃったとこあったかも知れないけど。
ただちょっと気恥ずかしくて、でもそんなの一日も経てば元に戻るのが普通じゃね?だって友達だろ?親友なんだよな?
昨日の行く末がこんな末路だなんて俺は嫌だ。納得出来ない。したくない。
きちんと横田と話がしたい。
(23/51)
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