▼こばなし
※おじさんのオケツに休息を。基本、兎虎です。更新には載りません。


2014/11/01 20:24

11月1日。冷え込む朝にあたたかな光がさしこむ。まばらに浮かぶ雲に黄金の朝日が美しく影をつくりだす。遠い意識の中で淡々とした音がなり響き、起きねばならない朝を告げていると脳みそが肉体に信号を送り込む。無意識に近い状態で手を伸ばし、音を切る。音を止ませたことにより安心感を感じ、また夢の世界へとおちていく。しかし、それを許さないとばかりに音が鳴り響く。うめき声をあげながら液晶画面を覗いてみた瞬間、心臓が跳ね上がった。

着信から数分後、玄関を飛び出した虎徹の瞳には見慣れた車と見慣れた金髪の美青年が飛び込んできた。
金髪の美青年はバツが悪そうな顔で言う。

「遠回りして一緒に会社へ行きませんか。」

心地良い朝日の光を浴びながら車に乗り込む6時56分の出来事である。

<終>


ハッピーバースデーバニーちゃん。


2014/10/31 21:10

皆、多忙であった。
10月31日。世の中はハロウィンイベントでなんとなく浮かれている様子だ。ヒーロー達も企業のはからいで様々なオバケに扮している。もちろんヒーローとしての活動なので、ヒーロー着の上から吸血鬼のマントを羽織っていたり、頭に大きな釘を突き刺してフランケンのような格好をしたりしている。ブルーローズ、ドラゴンキッド、ファイヤーエンブレムの女子?三人組は普段のヒーロー着がハロウィン仕様にアレンジされていて、とても可愛らしい姿だ。このハロウィン仕様のヒーロー着は、夜のパトロールという名目でハロウィンイベントのパフォーマンスを盛り上げていた。
ハロウィン仕様のヒーロー達が街に繰り出す!というニュースがテレビで報道されたのはその日の朝であった。最近急激に、冷え込む朝の身体を暖めるために虎徹はホットコーヒーを寝ぼけ眼ですする。時計をふと見るば7時46分をさしていた。虎徹は携帯電話を取り出し、メールボックスを開く。宛先を選択して、いつまで経っても慣れないメールに伝えたい言葉をゆっくり打ち込んでいく。

『バニーちゃんおはよう!
今日、ドライブに行かねえか?』

気持ちが焦って少し素っ気ない文章になってしまったかもしれないと思いながらも虎徹は送信ボタンを押す。心ここにあらずといったように上の空でテレビを眺める。
このメールの待ち時間がつらい。

どれくらい経っただろうか。耳がすぐさま着信音をとらえた。期待と不安で締め付けられる胸を深呼吸でおさえながらメールを開く。

『虎徹さん、おはようございます。
今日は孤児院へ訪問しに行きますので、せっかくのお誘いですがすみません。
けど、誘ってくださってありがとうございました。とても嬉しかったです。』

「……〜〜っだッッ!」
いくらなんでも突然だったか…と落ち込む虎徹。空っぽになってしまった心を埋めるように文字を打ち込み、バーナビーへ送信した。
虎徹はこのまま不貞寝してやろうかと考えた自分に嫌気がさした。
よく晴れた朝日が鬱陶しく感じてしまった。

時計は8時29分を示していた。

<続>


2014/03/10 21:30

たくさんの野菜に歯ごたえのある鶏モモ肉、そして喉越しの良い白滝が小さな鍋の中でひしめき煮だつ。きりたんぽもはいってなんとも趣深いラインナップだ。
「はふ、……ん〜〜!ンぅまい!」
出汁の染み込んだ甘い葱と鶏モモ肉を箸ではさみ、口に頬張る。ほくほくと幸せそうに目尻を垂れる虎徹をみてバーナビーも、小皿に盛りつけた椎茸と白菜をぎこちない箸使いで口にはこぶ。厚い弾力のある椎茸と、しんなりとしながらもシャキッと味のしみこんだ白菜の旨味がくちいっぱいに広がる。
「…!おいしい……、です…!」
「だろ〜。冬といったら鍋!さむ〜い冬の夜には最高のご馳走だぜ。」
こたつに半纏とすっかりオリエンタル文化に感化された姿で鍋を虎徹と共にかこむ。虎徹の家で時間を過ごすと大体オリエンタル文化の習慣を教えられるバーナビーは、今ではすっかりその習慣に溶け込もうとしていた。折紙先輩がご一緒だったらとても興奮されるのだろうなと思いながらも、虎徹とのふたりの時間を大切に過ごす。こうしてオリエンタル文化の過ごし方をしていると虎徹さんはもしや故郷のことが恋しいのではないのかと少しセンチメンタルな気持ちになってしまうバーナビーだが、虎徹の幸せそうな表情をみているとそんな気持ちもどこかへいってしまう。無自覚だがバーナビーは相当虎徹に惚れこんでいるのかもしれない。ひとつひとつが、一瞬一瞬が愛おしいのだ。こうして美味しい料理を食べながら過ごす時間は極上のひとときだ。美味しいと自然と笑顔がこぼれる。その笑顔がもっとも愛おしいのだ。それは虎徹も同じであった。同じ時を過ごしていくごとに彼らは似ていったのかもしれない。いや、もしかしたら最初から似たもの同士だったのかもしれない。ふたりの箸はまだまだとまらない。ゆっくりと煮だつ音を楽しみながら幸福な時間を噛み締めていくのだ。

<終>


2014/02/27 20:52

「うー、さんむっ…。」
シュテルンビルトの冬は寒い。朝は特に身体の芯まで冷えきってしまうような寒さだ。とても身体にしみる。布団の中で身体をさすってみたり、冷えた足をこすりあわせてみたりなんとか体温を高くしようとしてみるが、求めている暖かさには程遠い。
「ほぁー…、あったけぇや…。」
寝返りをうち、布団を深くかぶりなおして、すぐ隣でまだ寝息をたてている背中に抱きついて暖をとる。すこしカサつきのある抱き枕だ。首元の美しい金色に顔をうめて思いきり空気を吸い込む。おちつく香りが鼻腔をくすぐる。ゆっくりとすすむ静寂の中でこう過ごすことがとても落ち着き、心地が良い。まだまだ覚醒は遠い。穏やかな息づかいを鼓膜に響かせながら、身体で感じながら、またまどろんでいくのだ。

<終>


2014/02/25 21:52

今年のシュテルンビルトの冬は異常だった。平年では薄く化粧をする程度にしか降らない雪が今年は厚化粧という表現がかわいらしく思えるくらいえげつなく降り積もった。
「いやー、積もった積もった!」
慌ただしくオフィスになだれこんできた虎徹は身体中についた雪をそこらじゅうに撒き散らしている。
「ってありゃ、バニーちゃんは?」
「まだ来てないよ。」
「ふうん、珍しいこった。」
噂をすればなんとらやこちらも慌ただしく息を切らしながらオフィスに駆け込んで来たのはバーナビーだ。
「お!遅刻ギリギリぃ〜〜!」
「ハァハァ…おはようございます。にしても凄い雪ですね。おかげで交通が普段と違って大変でしたよ。ていうかなんですか、虎徹さんの周りの床ビチョビチョじゃないですか。ちゃんとマットレスで足元吹いてから入室してくださいよね。」
「へいへいへい、ったく、朝から目敏いねぇ〜。」
自分もアラを探してやろうとバーナビーを横目に見やるが流石は几帳面といったところだろうか、雪はきちんとはらわれていてブーツも水が滴るほど濡れてはいなかった。
「なんだかこんなに雪が降ると懐かしいな。地元でも毎年これくらいの雪が降り積もってよく雪かきを手伝わされていたなぁ…。」
「こんなに沢山の雪が毎年ですか?!」
「おー、そうだぞー、俺のところは雪国だったからな。山奥のほうに行けば二メートル超えなんて当たり前なんだぜ!俺なんか小人だ!」
「そしたら僕も小人ですね…。」
虎徹は身振り手振りで雪国の様子を、自分の思い出を語った。大雪の経験が無いといっていいほど体感したことのないバーナビーにとってはとても新鮮で興味深い話があふれていた。ひとつひとつに素直に驚いていく。
「いつもの薄い雪でも運転が億劫になるのにこんなに降られたら運転なんてしたくなくなりますよね。」
「お!じゃあ、雪国で生まれ育った俺がバイク運転しちゃおっかなぁ!」
冗談を一発かましてやったら真面目なバーナビーは一言キッパリと。
「それは駄目です。」

その日の帰り、バーナビーは階段ですっころげ虎徹に大笑いされながら肩をかしてもらった。その右足首はかるい捻挫をしていた。

<終>


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