「それじゃあ、これからお世話になります」



ソファーに腰掛け、笑顔で言う彼。
まるでプロポーズしたあとのようだ。






5:お世話になります









白蘭と再会してから3時間52分13秒。
彼のこの言葉から正一と白蘭の、監視という名の同居生活がはじまった。

彼のことは中学生のときから知っていたが(まぁ何年かは忘れていたが)、まさか同居することになるだなんて思いもしなかった。
というか、今、目の前にいること事態が予想外なのだ。
なのに当の彼はニコニコと正一のだしたさして美味くもないコーヒーをすすっている。
あぁもう胃痛がとまらない。

「どうしたの正チャン」

正一が苦い顔をしているのに気づいたのか、白蘭は首をかしげ問う。
あなたのせいだ、と叫んでしまいたかったが、今の彼には記憶がない。
叫んでもただの八つ当たりだ。

正一はなんでもありません、と小さくため息をついた。


しばらく沈黙がながれる。
そういえば、彼と一緒にいて、こんな沈黙がながれるのははじめてかもしれない。
いつもは、白蘭が止めどなく正一をからかい、それに正一が怒って叫んでいた。
学生時代は、正一の話を白蘭がただ面白そうに聞いていた。
白蘭が聞き上手なものだから、正一も楽しくてあまり話し上手な訳でもなかったのに、スラスラと話ができた。

こう考えると、自分達は正反対だったが、バランスはとれていたのだと思う。

彼といるのは楽しい。
それは今も昔も、変わらない。


正一はふと顔をあげ、白蘭を見た。


すると白蘭は自分のカップに置かれたミルクの蓋をあけているところだった。
それを彼は、カップにそそぐ。しかし、それは自分のではなく正一の。


「……えぇと、何をしてるんですか?」


思わず正一は問う。
白蘭は、ん?と短い返事をした。
ミルクの最後の一滴がコーヒーに飲み込まれていく。


「正チャンお腹痛そうだったから」


白蘭は小さなスプーンでコーヒーをかき混ぜる。
黒に不自然にうかんだ白が黒に飲み込まれ、色を変えた。


「お腹が痛いときは、ブラックじゃないほうがいいんだよ、はい」


満面の笑みで彼は言う。
まったく、状況が理解できているとは思えない。
ただ、変わらない、その白さがひどく心地よかった。

彼と再会してからずっと続いていた胃痛が少しやわらんできた気がする。


「……白蘭サン」

「なぁに?」


小さく正一が名を呼ぶ。
白蘭は嬉しそうに返事をした。



「……これから、お世話になります」


「いえいえ」



正一は白蘭の作ったミルク入りのコーヒーを啜った。
砂糖は入っていないはずなのに、ほんの少しだけ、甘い味がした。









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