白蘭サンとの同居生活が始まって2日と16時間がたった。
綱吉君も気を使ってくれているのか、部屋でできる仕事しか任せてこない。

ディスクに腰掛けながら、ちらりと白蘭サンを見る。
彼はソファーに腰かけてただぼんやりとしていた。








06:僕だって!









暇を、もて余しているのだろう。
今の彼にはやることが何一つない。
先程まではテレビを見ていたが、もう飽きてしまったのかリモコンはテーブルの隅に放置されている。
本も、この部屋にあるものはすべて読破されてしまった。
買い物にも散歩にも行くわけにはいかない。


静かな空間で、キーボードを叩く音だけが響いた。


「……白蘭サン」

「ん?なあに?」


白蘭が身体を捻って正一を見た。
ほんの少しだけ、瞳に期待の色がやどっている。
白蘭は、自分から「暇だ」とは言ってこなかった。
正一の仕事の邪魔をしないようにと考えているのだろう。
前の白蘭なら、暇だ、かまって、と正一が仕事中でも言ってきたというのに。


「……暇ですか?」

「ううん、大丈夫」


なんだか、調子が狂う。

正一は白蘭の返答に「嘘だ」とも「気を使わないで」とも言えずにいた。
ただ一言、そうですか、と返し、正一は仕事に戻る。
今思えば、学生時代から彼の趣味らしい趣味を知っていただろうか?
いつも彼は何をしていた?
何が楽しいと言っていた?

キーボードを叩く手が止まる。駄目だ、集中できない。


「?」


正一はパソコンを閉じ、立ち上がった。
いきなり立ち上がった正一に白蘭は驚き、振り替える。
正一は一人、何も言わずにクローゼットを開けた。そして服を掻き分けて、下の方から一つの段ボールを引っ張り出した。
埃を払いながら、中身を確認する。


「何してるの?正チャン」


白蘭が不思議そうな顔をして訊いた。正一は、その声にドキリとする。
だって、彼の好きなものと言ったらこれしか思い付かなかった。
自分自身、触れるのは何年ぶりだろう?
ガキくさいと、揶揄されるかもしれない。

でも、暇そうな彼を黙ってみているのは、なんとも居心地が悪いのだ。


「あの…ゲームしませんか?」

「へ?」


正一は、白くて薄い箱と、2つのコントローラーを持って、白蘭に言った。
約10年前に買ったものだが、多分まだ使えるはずだ。
白蘭は已然としてキョトンとした顔をしたままだった。
うっ、と正一が弱気になる。


「い、嫌ならいいんです!ただ、その…急に思い出しただけだし…」

「……やる」

「へ?」


紡ぎ出された言葉に正一は動きを止めた。
白蘭は正一の元へ近づくと、コントローラーを一つ受けとり、面白そうに眺める。


「どんなのがあるの?」

「あ、えっと…スポーツできるのとか…ミニゲームできるのとか…」

「じゃあ身体鈍ってるし、スポーツやろっか!」


白蘭は、ゲーム機の本体を受けとり、テレビの前に置いた。
しかし、接続の仕方がわからないのか、コードを見て首を捻っている。

正一は思わずクスリと笑ってしまった。
そう。白蘭は、そういう男だった。
壮大なことを考えている割りに根底はわりと子供くさい。
そして、ゲームが好き。


「負けないからね!」


なんとかコードを繋ぎ終えた白蘭が、満面の笑みで正一に言った。

正一はコントローラーをぎゅっと握った。
仕事は別にいつでもできるものばかり。
それよりも、彼の暇そうな顔の方が耐えられない。



「…僕だって!」



白蘭に負けないくらいの笑顔を浮かべて正一は言った。







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