ナイトレイ&ブラック




このアベル=ブラックという人物は、親というにはあまりにも若い容姿だ。
実際の年齢は見た目の10倍以上だということは頭ではわかっている。
しかし頭ではわかっていたとしても、実際に対峙すると、ジンや八咫と同い年くらいにしか見えない。それに昔の友人にも似すぎているため、どう頑張っても人の親とは思えなかった。


「まぁ、生んだ訳でも孕ませたわけでもないからね」


呆れたような顔をして、アベルは言った。
それにナイトレイは目を丸くする。
きっとナイトレイがぽつりと呟いた「親には見えないよなぁ」という独り言の返答なのだろう。
先程から無言で本を読み続けていたため聞こえていないと思っていた。
しかし、その顔で“孕ませた”なんて言わないでもらいたい。


「生殖を行う生物において、その生物より生じた個体に対し、それを生み出した個体は何に関してでも“親”と呼ばれるんだ」


アベルは本から目を離すことなく言った。


「単細胞生物による分裂での繁殖でも、分裂する前の個体を“親”、分裂後の個体を“子”と呼ぶこともある」


パラッと紙のしなる音がした。
どこか他国の言葉であろうその文字列を解読する術をナイトレイは知らない。
そんな文字達を、アベルは児童書でも読むかのようにパラパラとページを捲っていた。


「血が繋がっていなくても、養子という形で親になれる。親が再婚すれば、その相手もまた親と呼ばれるし、婚約すれば、配偶者の親も自分の親のようなものになる」


淡々と並べられていく親の定義。
普段必要以上に話さないアベルがここまで饒舌になるのは珍しい。
その意味を、ナイトレイはここまできて、やっと理解した。


「あぁ…悪かったな」

「……何故謝る」


アベルがようやく本から視線を離した。
顔は不愉快そうに歪んでいる。


「お前は、立派なあいつらの親だよ」

「……」


ぽんっとナイトレイはアベルの頭に触れた。
アベルはさらに不愉快そうな顔をした。


「お前に言われなくてもね」


頭においた手は、無遠慮に叩き弾かれた。
アベルは再び視線を本に戻す。
髪の毛の間からわずかにのぞくアベルの耳は微かに赤みを帯びていた。
ナイトレイはそんな姿に、思わず笑みが溢れた。


「……あぁ、そうか」


ナイトレイは、ふと、思い出したように言った。
ばつが悪そうなアベルもその声に顔をあげる。


「お前、俺の義理の“親”になるってことなんだよなぁ」

「はぁ?」


呆れたような顔をし、アベルは頬杖をついてナイトレイを見た。


「お前に僕の可愛い息子達はあげないよ。認めない」

「認めさせてやるさ」


ははっ、とナイトレイは短く声をだして笑った。
アベルも声はだしていないが、笑っているようだった。








おわり。


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ナイトレイとアベルを二人きりにするのが好きです。
お互いお喋りではないので、だんまりが続くけれど、慣れてくるとそれが心地よくなってくるみたいな。
本編でもまたじっくり絡ませたい二人です。
リクエストありがとうございました!


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