アルバート&八咫
こんなに独占欲まるだしで、人に執着したのは初めてだ。
でも、まぁ…
惹かれたんだからしょうがない
好きなもんは好きなんだ
「あれ?いない…」
八咫は木の上から部屋をのぞきこみ呟いた。
ここは軍舎の2階、西側から2番目、両開きの窓がある部屋。割と広めで、仮眠室までついている、アルバートの執務室。
八咫のいる木からは書類の積み重ねられた机が見える。
あぁ、いつも使ってるペンが置いてある。トイレか、もしくは仮眠でもしてるのか。
八咫は木に腰掛け、机をじっと見つめた。
左側に積み重ねられた書類の方が多い。
アルバートは両利きだけど、文字を書くときは主に右。だから書類も右から左に流れていく。
もう少しで仕事が終わるかも。そしたら少しは長く構ってもらえるだろうか。
そこまで考えて、ふと我にかえる。顔に熱が集まってきた。
構ってもらえるだなんて、なんて嬉しそうな表現だ。
しかも、これじゃあまるで構ってもらってないみたいだ。
アルバートは八咫がくれば仕事そっちのけで相手をする。
それを邪魔するのは、アルバートの部下か、八咫の仕事の邪魔かもという罪悪感。
多分、どちらもこの世から消えてしまえば、アルバートは永遠に八咫を構い続けるだろう。
「あぁ…もう」
熱い顔を抑え、こらえるようにうつむく。
はやく、はやく帰ってきて。
そうだ、もし女の人につかまってたらどうしよう。
アルバートはモテるから、街とかで結構声をかけられているのを見た。
それともいきなりの召集で戦にでていたら?
そんなの嫌だ。自分の知らないところで、危なっかしいことしないで欲しい。
ぐるぐると駆け巡る想像。
あぁ、嫌だ、なんて女々しい。
全部ぜんぶあいつのせいだ。こんなにも、こんなにも…
「八咫君」
こんなにも。
顔をあげればそこには、窓を空け、笑顔を浮かべるアルバートの姿があった。
その顔を見て、また顔が赤くなる。
まったく、帰ってきたことに気づかなかった。
「来てたんだね。ごめんね、待たせた?」
「……、……別に」
怒ったようなふりをしてそっぽを向く。本当はこの赤い顔を隠したかっただけ。
「…どこ行ってたんだよ」
「うん、ちょっとね」
予想外に濁された返事。
そして無意識に聞き返してしまう自分。
「どこ、行ってたの」
木から身をのりだして、アルバートの手首を掴み聞いた。
それにはアルバートも、そして自分も驚きの表情をうかべてしまう。
またもや顔に集まってくる、熱。
「あ、う…いや、違う!なんでもない!!」
慌てて手を離す。
嫉妬なんて、みっともない。
しかし、その手はすぐにアルバートの大きな手に捕まった。
「…小鳥が、あまりにも熱心に木から部屋をのぞいてたものだから」
ぐっと身体を引き寄せられる。バランスを崩さないように、捕まれていない方の手で、窓枠を掴むと、その隙をついて耳元でささやかれた。
「可愛くて隠れて見てただけだよ」
ここでね、と窓のすぐ横の死角の部分を指差すアルバート。
そこまで言われて、部屋の奥にある鏡に気づいた。
つまり、彼はずっとここで、鏡に写った八咫を見ていた。
「……っ変態!!」
「うわぁ、心外だなぁ」
くすくすとからかうように笑うアルバート。
八咫はもう、羞恥で蒸発してしまいそうなくらい真っ赤になっていた。
誰にもとられたくない
ずっと見ていたい
それくらい惹かれてしまったものはしょうがない
おしまい。
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あとがき
接戦をくりひろげ、なんとか2位を獲得したアル八です。
ナイアルに負けそうになった時は、八咫に殺されることも覚悟しました。笑
この二人は悩まずスラスラと書けるので面白いです。
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