偽りの人魚姫






嘘と偽りが自分を守る最大の盾だった。





自分を偽り、素性を偽り、感情すら偽る。

楽しくなくても笑ってさえいれば、周りは私が悲しみや怒りを抱いているなんて思いもしない。

そして一度信用したら騙されているなんて疑いもせずに。

今目の前で笑っているのが本当の私だと思い、その笑顔が心からのものだと勝手に思い込む。偽りの笑顔だなんて考えもしない。

笑っていても、心では泣いているのに。





私が私を偽りだしたのはいつからだろうか。ココヤシ村に来るもっともっと前。

人魚姫が薬で泳げぬ人間になったように、私が悪魔の実で泳げぬようになったあの時から。あの時から私は私ではなくなった。

海で泳ぐことができない人魚。なんとも哀れ。誰よりも海が大好きで海を愛しているはずなのに、もう二度と戻ることができず、ただ海を見つめことしかできない。





そんな綺麗な海を愛していた人魚姫は、最期も綺麗に泡になって消えてしまう。人魚姫らしい素敵な最後だ。

でも私はそんな綺麗な最期を迎えるつもりはない。

どんなに時間がかかろうとも、醜いと思われようとも、私は足掻き続ける。夢なんて綺麗な言葉で表すには歪んでいる目的。そのために必要な嘘と偽り。そして、一番の願い。





「お前は一生、海には戻れない」






―――たとえ、あの頃に絶対戻ることができないとしても。





でなければ私は、生きることさえやめてしまう。









(おとぎ話の人魚姫にはなれない)

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