3

 





「…サンジ君」

「ん…ユウちゃん?」





キッチンに行くとサンジ君は椅子に腰を掛けてタバコをくえていた。私を見て驚いたように椅子から離れて、私に近づく。





「どうしたんだ?こんなところに来て」

「私を蹴って下さい」

「……は?」





私のいきなりな発言にサンジ君はくわえていたタバコを落としそうになっていた。





「えっと、ユウちゃん…?」

「遠慮なしに、顔面でも、お腹でも、頭でもどこでもいいから蹴って」





しばらく混乱していたサンジ君もあまりにも真剣な私の表情を見て落ち着きを取り戻した。そして、困ったように笑う。





「悪いが、それはできない。俺は…」

「知ってる。サンジ君が女の人を蹴らないってことは」





エニエス・ロビーでカリファに負けたサンジ君。それば死んでも女は蹴らない゙という騎士道を貫いたからだ。どんなに危機的状況でも、自分の命がかかっていても、相手が敵でもそれは揺らぐことわない。

それほど強いものだってこと分かってる。でも、だからこそ私を蹴ってほしい。





「ユウちゃん。昨日のことなら俺は全然気にしてないからさ。だから変なことは言わないでくれ」

「昨日のことは全く関係ない。私は自分の言ったことが間違っているとは思ってない」





その言葉にサンジ君は目を見開いた。きっとサンジ君は私が謝罪の意味を込めてこんなことを言っているのだと思ったのだろう。私は未だに驚いているサンジ君を見て言葉を繋ぐ。





「サンジ君は特別な人なんていないって今でも思ってる。どんなに口で言われてもそれは変わらないんだよね」

「そう、だよな…」





悲しそうに顔を歪めるサンジ君に心が痛んだ。嫌われても仕方ない。

今こんなこと言っても遅いかもしれないけど、それでも言わないと。





「サンジ君は女の人に優しい。皆、平等に」

「……」

「でも、私は優しくしてほしくない」





自分で言ってて涙が出そうになった。今泣きたいのは私なんかじゃなくて、サンジ君なのに。





「悪かった。ユウちゃんがそんなふうに思ってたのに、俺は無神経だったな。でも…」





そう言って顔を上げたサンジ君は真剣そのもだった。自分の意志は絶対に曲げないと言っているような顔。





「ユウちゃんを蹴ることは絶対にできねェ」





分かってる。サンジ君は絶対に女の人を蹴らないっていう騎士道を貫くってこと。どんなに女性に甘いサンジ君でもこの頼みは訊かない。

でも、私も引き下がれない。





「ごちゃごちゃ言わないで蹴りなさい!!私は、他の女の人と同じなんて絶対に嫌なの。どんな形でもいいから…」





───特別になりたい





今にも溢れそうな涙を唇を噛み締めて堪えた。

泣くな、泣くな。

泣いたらサンジ君は絶対に蹴ってくれない。誰だって泣いてる奴に攻撃なんてできないんだから。私は唇を噛み締めながらギュッと目を瞑った。





「…馬鹿だな」


「…、っ」


「本当に馬鹿だよ。ユウちゃんは」





その言葉が聞こえた瞬間感じたのは蹴られた衝撃なんかではなく、暖かい温もり。

驚きのあまり目を見開く。そこでやっとサンジ君に抱き締められていることに気付いた。





「は、ちょっと、サンジ君!?」

「俺がユウちゃんを蹴れるわけねェだろ。好きなやつを蹴れる男なんていないさ」

「…え?」





ゆっくり体を離された私は未だに理解出来ずに固まった。

好きなやつって。だってサンジ君にはそんな人…





「からかってるの?私は真剣なのに」

「そんなんじゃない。本気だよ」

「だって、サンジ君は…」

「わかってる。確かに俺はレディーに弱い。だけど、それ以上にユウちゃんに弱いんだよ」





そう言いながら頬をかくサンジ君。





「ユウちゃんがミルクティーが好きだって聞いたから、ナミさん達とは別に用意するようにした。ユウちゃんの嫌いなものはいつも出さないようにもしたんだぜ?」

「…嘘」


「ユウちゃんが嫌な気分にならないように、ユウちゃんが楽しめるように…」





そんなに考えてくれていたなんて知らなかった。

私は何も知らずに普通に生活していて、サンジ君はいつも気を使っていてくれたのに。それが当たり前だと思い込んでしまったいた自分。





「昨日のだって、ナミさんからも言われたことがあったはずなのに、ユウちゃんの口から聞いただけでこんなに悲しくなっちまう」





眉を下げながら笑うサンジ君に胸が傷んだ。





「ごめんなさい…私」


「俺の方こそ。もう少し早く伝えるべきだった。俺にとってユウちゃんは本当に特別な人だって」





ずっと願っていた。"特別"という枠に入ることを。彼女じゃなくてもいい。友達だって、喧嘩仲間だって構わない。

どんな形でもいいからってずっと思っていた。

ねぇ、今心から伝えたい言葉があるの。





「ありがとう」


「ん?何に対して」


「――――はい?」


「いつもミルクティーにしてくれてありがとうってことかい?」





そう言ってニコニコ笑うサンジ君は確信犯。驚いたように目を見開いてから、呆れたように笑う。





「ミルクティーもだけど。私を見ていてくれて、ありがとう。サンジ君の特別にしてくれて…ありがとう」





予想外の発言にサンジ君は目を見開いた。"参ったなぁ"と苦笑いするサンジ君。

照れたように頭をかいている彼を見て小さな笑うといきなり抱き締められた。





─大好きだ─





その言葉は私にとって一番の特別。





end

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