彼女になりたいとか、そんな大層なこと望んでない。
ただ、他の子と同じように扱ってほしくない
貴方の特別になりたい。ただ、それだけなの。
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「ナミさ〜ん、今日も一段と綺麗だ!!」
サンジ君は女の人に甘い。
特定の女の人とかじゃなくて、すべての女の人に同じように甘い。
「ロビンちゅわ〜ん、おやつの準備ができましたよ〜!!」
頼んでもいないのにおやつや飲み物を持ってきてくれるし、手伝いも進んでしてくれる。女の人が頼んだことは決して断らなくて、すごく紳士的。
勿論私も女性な訳だから例外ではなく、その対象に入っている。
そう…私はサンジ君にとってたくさんいる女の中の一人。
「はぁ…」
「ため息なんかついていると、せっかくの可愛い顔が台無しだ」
「あ、サンジ君」
甲板で海を眺めていると、後ろから声をかけられた。振り向けばマグカップを片手に持っているサンジ君の姿。
私は呆れたように笑いかける。
「またそんなこと言って。冗談はいらないって」
「手厳しなァ。俺は女性に対して冗談は言わないさ」
ああ、いったい世の笑顔と言葉で何人の女性を口説いてきたのだろう。眩しいくらいのその笑顔はたしかに男前でかっこいい。
だけど、そう思うのと裏腹に悲しくなる。
笑顔で"どうぞ"とミルクティーを渡してくるサンジ君に"ありがとう"と受け取りながらそう思った。
サンジ君は女の人には冗談を言わない。それは全ての女性に共通していることだ。
こうやってミルクティーを持ってきてくれるのだって、可愛いだなんて言うのも私に限ったことじゃないことくらいわかってる。だからこそ余計に胸が痛くなるの。サンジ君にとって私は特別でもなんでもない。
ただの女性。
「ユウちゃん…?」
「え、ああ…このミルクティーすごく美味しい」
「喜んでもらえて光栄ですプリンセス。これはユウちゃんだけのために作ったもんだから」
そう言うサンジ君に私は渇いた笑いを浮かべた。本当に調子がいい。
だけど、こんなにかっこいい男の人にそんな言葉を掛けられたら女は誰だってときめいてしまうものだ。でも、だからって浮かれちゃいけない。私だけが言われてる言葉じゃないってわかっているから。
「またそんなこと言って。早くナミ達のとこにでも行ってきたら」
「何で、ナミさん?」
「私への用事は終わったでしょ」
マグカップをあげて見せながら言えばサンジ君はきょとんとした顔をしてから眉を下げながら笑う。
そんな彼の表情に私は首を傾げた。
「俺はもう少しユウちゃんと話がしたいんだけどな」
「…私と?」
まさかそんなことを言われるとは思っていなかった為、持っていたマグカップを落としそうになる。いつものように飲み物を渡したらナミやロビンのところに行くのだとばかり思っていた。
それがいつものことだと思ってたし、特に気にはしてはなかった。だからいつもと違ったサンジ君の行動に驚きを隠せない。
私はミルクティーを口に運びながらサンジ君を横目で見る。
「珍しいね。サンジ君が私と話したいなんて」
「そうかい?俺はいつも思ってたけどな。ユウちゃんと話がしたいなって」
男性にそんなこと言われて嬉しくない女性がいるか?
いるわけがない。
けど、それを素直に喜べないのはサンジ君の性格を知っているからだ。
「優しいね、サンジ君。でも、その優しさって皆に平等なんでしょ」
そう、平等。一番も、二番もいない
この優しさは他の人と同じなんだ。
「サンジ君には特別な人っている?」
「そりゃ、ユウちゃんは俺にとっちゃ特別な人だけどな」
「嘘。サンジ君には特別な人なんていないでしょ」
「そんなことないさ」
「だって、サンジ君は私もナミもロビンも、女の人は皆同じように好きだもの」
私の言葉に困ったように笑う彼。すごく酷いことを言ってるのは十分わかってる。本当にすごく嫌な女だ、私。
サンジ君は女の人に甘いから、怒らないし、キツく言い返せないのもわかってるのにこんなこと言うなんて。
どんなに強い人でもこんなこと言われたら傷つくはず。サンジ君の好きな女相手に言われたら尚更だ。
私はマグカップの中にあるミルクティーを一気に飲み干すとサンジ君に押し付けた。
「ごめんね、困らせるつもりはなかったんだけど…ミルクティー、美味しかったわ。ありがとう」
言葉を発する暇さえあたえないように、私は早足に部屋へと戻った。
サンジ君は何も悪くなんかない。ただ私が勝手にイラついていただけで、彼はいつも通りにしていただけなのに。そう思うと同時に胸の痛みは増すばかり。
サンジ君はいつも通りに女性に接していた。私だけでなく皆に。
サンジ君にとって私はただの女性で、それ以上でもそれ以下でもない。
きっと私が男だったら、他の人と同じ風に優しくなんかじゃなく、ゾロやルフィみたいに接してくれたかもしれない。今になって女であることがなんだか恨めしく思った。
神様はどうして私を女に生んだのかな。どうして?