本当に欲しいもの




私には欲しいものがあった。みんな持っているのに私だけ持ってないもの。

目には見えないけど、大きくて、暖かくて、羨ましいと思ってても口には出せなくて。

だから私は代わりのもので我慢するしかなかった。

ニセモノだなんて酷いことはいわないけど、私が求めているものよりは少しだけ冷たい。傷付けたらすぐに切れてしまうような薄いもの。





「ずいぶんと早いな」





帰ろうと下駄箱から靴を出していると、隣に並ぶように一護が来て同じように靴を出す。

視線は私に向けずに、ただ帰るために手を動かすのを見て私はにこっと笑って返事をした。





「まあね。ちょっと用事があるから」

「へぇ、今日も行くのか」

「うん、今日はねサトルさんとこ。ご飯連れてってくれるんだって」





"サトルさんお金持ちだから"と笑いながら言うと一護からは"へぇ"と生返事が返ってきた
視線は合わせずに会話する様子に笑えてきた。

"今日は"
普通に言った言葉だけど前とは違う人だということに一護は気付いているのかな?

きっと気付いてないだろうね。いつも聞いてるかわからない、興味ないような態度の君は気付かない。誰も私の気持ちには気付かないからね。母親だって気付かないんだもん、他人が気付くわけないよ。

いつも笑っている私が本当は寂しくて泣いているなんて知らないでしょ?

親から貰えなかった愛情の変わりに年上の人に愛を求めてると知ったら皆はどう思うかな。可哀想だって思う?それとも、幻滅する?一護は、どう思うかな。

そんな暗い気持ちを隠すように明るく振る舞う。





「啓吾は一緒じゃないんだ。てっきり一緒に帰るのかと思ったよ」

「ああ、今日は先に出てきた。後で追いかけて来んだろ」

「知らないよ、泣きながらきても。今頃探してるんじゃない」

「そん時はそん時だ」

「はは、啓吾に言ってやろー」





他愛のない話をしながら校門までの道のりを一緒に歩いた。

一護と2人で帰るのは久しぶりだ。最近は特にいつも誰かが周りにはいて、騒がしかった。楽しかった。






「あ、私こっちだから」

「そっか。じゃあな」

「うん」





にこっと笑いながら手を振ると、一護も右手を上げた。背を向けて歩くと、なんだか寂しくなる。

考えてみれば、隣には必ず啓吾や一護がいた。私が寂しくないように一緒にいてくれたんだ。今頃気が付いた。

ああ、また1人になっちゃった。沈んだ気持ちを紛らわすように上を向いて歩いていると、荒々しい足音が近付いてきて腕を引かれた。





「…うわっ!」




捕まれた腕に驚いて声を上げ振り向けば、気まずそうに視線を泳がせる一護がいて首を傾げる。





「あー…」

「何、どうしたの?」

「今日、俺ん家来いよ」

「え?」

「夕飯なら俺ん家で食えばいいだろ。別に、そいつのとこなんか行かなくても…」

「え、何?どういうこと」

「だから、俺の家で夕飯食えばいいって言ってんだよ!!」





あまりに突然で目を丸くさせた。お誘いにも驚いたし、顔を赤くしてる一護にも驚いた。





「遊子と夏梨も会いたがってるし、親父だってお前なら喜ぶだろ。だから…」

「じゃ、お邪魔しようかな」

「え…?」

「夕飯、食べさせてくれんでしょ?」

「お、おう」





捕まれている手を今度は私が引っ張って、今まで歩いていた道に背を向けた。





「…サトルさんはいいのか?」

「うん。いいんだ」

「そうか」

「うん。一護」

「ん?」

「ありがとね」

「ああ」





私が本当にほしいのは家族からの愛情。友達との友情。恋人からの愛。

薄っぺらい関係じゃなくて、もっと暖かくて、もっと大きなもの。









(お前、ホント年上好きだよな)
(うん。包容力あるし、大人だし、魅力もあるし)
(なるほどな)
(あと、お金もあるし)
(…なるほどな)
(ふふ、嘘だよ)


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