想い

 


++++++





あれは一ヶ月くらい前のこと


河原の近くを歩いていたら見知ったオレンジ色の髪の男の人がいた


そんな彼に私は気がついたら声をかけていたんだ









「あれ、黒崎君?こんなところで何やってんの。しかも何、その格好。コスプレ?」


「うおっ!!福山か・・って、お前俺が見えんのか!?」





黒い服を着て大きな刀を担いでいる黒崎君は私を見てものすごく驚いていた


そんな彼の言動に私も驚いて固まってしまう





「見えるけど・・え、まさか死神だとか言わないよね」


「っ!?」





冗談のつもりだった


黒い格好だったから死神とか悪魔かななんて思っただけで本気でそう思っていたわけじゃない


なのに、黒崎君が"何でわかったんだ"とでもいいそうな顔に私の顔がひきつる





「・・・・・マジで」


「あ、いや・・その・・」





挙動不審になる黒崎君にこれ以上聞いてはいけないと悟る





「いいよ。無理に話さなくても」


「・・え・・?」


「私ね、あんまりそういうの気にしないからさ」





目を丸くして私を見る黒崎君に小さくて笑う





「すごいのが見れたラッキーって思うくらいだからね!だから、黒崎君も気にしないでよ」





"私に見られたってこと"


そう言うと黒崎君は目を見開いて私を見る





「じゃあ、よくわかんないけど頑張ってね」


「福山!!」


「ん?」


「いや、その・・ありがとな」


「どういたしまして。初めてだよね?黒崎君とこうやって話するの」


「ああ、そうだな。教室でも話しねェし」


「うん、なんか嬉しかった」


「え・・・?」


「黒崎君と話ができて」





"じゃあ"と黒崎君に手を振って背を向ける





「待って!!」





またまた呼び止められ振り返る


すると黒崎君は私の目の前まで近付いてきた


その顔があまりにも真剣で私は口を開けなかった





「迷惑かもしんねェけど、ずっと前から好きだったんだ」


「・・・え・・?」


「一目惚れでずっと見てた」





周りが夕日でオレンジに染まっていく


黒崎君の色に





「だから・・好きな奴を巻き込むわけにはいかねェんだ」


「黒崎、君・・・?」


「福山が忘れても、俺のこの気持ちは変わんねェから」


「は、何言って・・」



すべてを言い終わる前に私の前でボンと何かが破裂したような音が聞こえた


そこで私の意識は途切れた






++++++





今まで忘れていたことはこれだったんだ


やっと思い出したのに


私はもうこの世にはいない





「・・・本当に死んだんだ」





白いベッドに寝かされている自分の姿を見て夢ではないのだと思わされた


化け物に襲われたことも、自分の体から血が流れていたことも現実で私は死んだ


夢だったらよかったのに


…ーーーー夢だったら





「意味わかんない。涙も出てこないなんて」





自分が死んだのにやけに冷めている私は今どんな顔をしているのだろう


悲しいとか、苦しいなんて思いは全然なくて泣くことすらできない





でも、私が死んだことは変わらない事実


それでも涙は出ない


今までいろんな人が私の所に来た


もちろん織姫やたつきも来てくれて、ベッドに横たわる私を見て声を上げて泣いてくれていた


その様子を私は静かに見ているだけで声をかけることすらできない


"ごめん"とか"ありがとう"とか伝えたいことはたくさんあるのに、私の声は何一つ届かない


ただ泣き叫ぶ皆の姿を見ているだけ





「・・・福山・・・」


「・・・やっぱり見えるんだね」





ベッドに横たわる自分を見下ろしていると聞こえた声に私は振り返る


思った通りそこには黒崎君がいて、私を見た瞬間悲しみに顔を歪めた





「何で黒崎君がそんな顔すんの」


「・・・・・悪い」


「謝らないでよ。別に黒崎君は何も悪くないじゃん」


「俺が・・俺がもう少し早く駆けつけてれば福山は」





自分自身を責める黒崎君に私は悲しくなかった


黒崎君は悪くないのに


まるで黒崎君が私を殺したかのように申し訳なさそうにしている





「本当に、すまねェ・・・」





謝らないで


黒崎君は何も悪くない


むしろ謝らなくちゃいけないのは私の方





「私の方こそ、ごめん。黒崎君のことずっと忘れてた」





黒崎君と会ったことも


黒崎君と話したことも


黒崎君が告白してくれたことも


今の今まで忘れてた


私は知らないうちに黒崎君をたくさん傷つけていたの





「教室にいても、いつも黒崎君を目で追ってた。話したこともないのに気になってしかたなかったの」





織姫の想い人だから


そう思ってたけど、違ったんだね





「その理由が今わかったよ。私が、まだ黒崎君に返事してないからだって」


「っ!?」





黒崎君を見て笑顔を向けると彼は"何で"って顔をして目を見開いていた


その顔初めてじゃないよ


前にも見てる





「思い出しちゃった。せっかく黒崎君が私を巻き込まないように、消してくれた記憶」


「・・そうか」





やっぱり私の為だったんだ


私を巻き込まない為に黒崎君は自ら辛い道を選んでくれたんだね


私は黒崎君を苦しめることしかしてない


忘れていることすら忘れて


こんな私を好きだって言ってくれた黒崎君に"クラスメート以外には見れない"と傷つけて


馬鹿だ・・馬鹿だよ、私は





「馬鹿だ・・・ホントに。黒崎君の姿を見ただけで、こんなに悲しくなる。死にたくないって・・」





今まで流れなかった涙が黒崎君を見ただけで溢れてくる


黒崎君を傷つけて申し訳なさと、別れの悲しさで


やっと、気付いたのに


黒崎君のこと好きだって





「ねぇ、黒崎君。私死にたくないよ・・黒崎君と一緒にいたいよ・・っ」





その瞬間、黒崎君に抱き締められた


私は黒崎君に必死にしがみつく


溢れる涙を止められない





「いかないでくれ・・やっと、福山と話ができたのに・・」


「黒崎君・・ごめんね。たくさん傷つけて」


「傷ついた覚えはねェよ」


「ありがとう・・黒崎君。私もね、黒崎君のこと好きだよ」





黒崎君から体を離して自分の気持ちを伝えた


最初で最後の告白


涙を流しながら精一杯の笑顔を向ける





「ずりーよ。やっと、返事聞けたと思ったらこんな形だなんて」


「待たせてごめんね」


「・・・いくな」


「ごめんね、もう時間かも」


「福山っ・・・」


「黒崎君・・・さようなら」





さようなら


ありがとう





++++++





「よっ、具合どうだ?」


「絶好調」





ぐう、と親指を立てて彼に向ける


学校帰りのようで制服姿のまま病室に入ってきた黒崎君


上半身だけ起こすと彼は椅子をだして、私のベッドの隣に腰を下ろした





「明日井上とたつきが見舞いに来るってよ」


「ホントに!楽しみだなぁ」


「あんま、はしゃぐなよ。まだ体に戻ったばっかりなんだから」


「そうでした。でも、あの時は本当に死ぬかと思ってたよ」


「ああー、俺も」





本当に死ぬと覚悟していた私の元に朽木さんが血相を変えて来たときはびっくりした


でも、朽木さんが"まだ間に合う"って言って私の魂を体に戻してくれたおかげで今こうして生きてられたわけだし


本当に朽木さんには感謝ですよ





「あ・・・」


「え、何??」





何かを思い出したように声を出す黒崎君


私は彼に視線を向ける





「そういえば、まだしっかり返事もらってねェと思って」


「え、返事って・・・」





何のことかわかった私は言葉を止めた


黒崎君に二度も告白されたのに、私はしっかりとした返事をしていない


霊体になってからなら返事したけど、やっぱりこの体で言うべきだろう





「俺は悠のことが好きだ」


「私も黒崎君のこと好きよ」





そう言うと黒崎君は納得のいかないように眉間に皺をよせた


しっかりと返事したつもりだったんだけど何でだろうと首を傾げる





「黒崎君って・・何か」


「一護」


「え、なっ!!」


「違うの?名前で呼んでってことだよね」


「あ、いや・・違くないけど」





赤くなりながら顔を逸らす一護にくすっと小さくて笑う


照れてるんだ





「・・何だよ」


「照れてて可愛いなって思って」


「あのなァ、お前に可愛いって言われても嬉しかねェっつーの」


「え、ちょっ・・」





どんどん近づいてくる一護の顔に私の体温が上がるのがわかった


一護の顔が視界いっぱいに広がる





「好きだ」


「私の方が一護のこと好きだから」





どちらからともなく唇を重ねる


私はこの気持ちを一生忘れない


一護を好きなこの気持ちだけは・・・絶対に





今更気づいた想い

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