今更

 



いつからだろう


幽霊が見えるようになったのは


気が付けば胸に鎖のついた人が周りにいた


それが幽霊だとわかったのはつい最近のことで、でも大して驚きはしなかった


次第に話したり、触ったりできることを知りそれが普通になっていたから


だからね、知ってるよ


黒崎君が黒い服に身を包んで化け物と戦っていることも


朽木さんが本当はおしとやかじゃないことも


全部見えていたから





++++





「悠ちゃん、おはよう!!」





机に座りながら頬杖をついてぼーっとしていると後から元気な声が聞こえた


振り向けばニコニコしている織姫と鞄を肩に掛けているたつきの姿がある


私は二人に向かって小さく手を上げた





「ん、おはよう」


「あんた相変わらず早いね」


「目が覚めるからね。家にいても暇だから早く来ちゃうわけ」





呆れたように私を見てくるたつきは"あんたは年寄りか"なんて言ってくる


その言葉に苦笑いする


"幽霊と話して来るから早起きしてる"なんてことは絶対に言えない


ただでさえ通行人には変な目で見られてる訳だし





「まあ、早起きは三文の得ですし・・ってか織姫どうしたの?何か機嫌いいけど」


「ああ、この子は・・」


「わかる!?」





ずいっと顔を近付けてくる織姫に驚いて目をパチクリさせた


わかるって言われても・・そんなニコニコされてわからない奴っているのか





「えへへ、さっきね黒崎君のことを見つけたの!!」





嬉しそうに笑顔で話す織姫


それほどまでに黒崎君が好きなのだろうな


自分の気持ちを素直に表現できるということを私は悪いと思わない


好きなら好き


嫌いなら嫌い


はっきりしてもらった方が受け取る側としてもありがたいだろうから





「・・・へぇ、それで?」


「それでって、それだけ」


「は・・?」





見つけたって同じクラスなんだから簡単なことだろ


その簡単なことになんでこんなに嬉しそうにできるなんて





「あ、黒崎君!!おはよう」


「お、井上おはよう」





教室に入ってきた黒崎君に顔を赤らめながら挨拶をする織姫と、短く挨拶をするたつき


私は仲が良いわけではないから挨拶はしない


だが、自然と視線はオレンジ色の髪をもつ彼へと向けられていた


たつきと織姫と挨拶を交わして自分の席へ歩いていく黒崎君





「黒崎一護・・・」


「そういえば、悠って一護のこと嫌いなわけ?」


「は?何でそうなんの」





いきなりの質問に横目でたつきを見る


唐突すぎるその問いと、あまりにもマジな顔なたつきに少し身を引いた


すると織姫も驚いて勢いよく私に視線を向ける




「ええ!!悠ちゃん黒崎君のこと嫌いなの!?」


「だから何でそうなんの。ってか織姫声でかい」


「だって悠が一護と話してるとこ見たことないからさ」





黒崎君とはただクラスが同じだけで話したことなんて一度もないから見たことないのは当たり前だ


たまに、日直が被ったりするくらいだし


たつきや織姫みたいに仲が良いわけではないから





「・・別に、話すことないしね」


「まあ、そうだけどね。無理に話することはないし」


「じゃあ、悠ちゃん黒崎君のこと嫌いじゃないんだね!!」


「普通」





口ではそう言ったが正直なところ自分でもよくわからないでいた


話したことなんてないし、話したいこともないはずなのに何故か視線はいつも彼に向いている


背が高くてオレンジ色の髪をしているからかすごく目立ってはいるし、織姫の想い人だから気になるのか


それとも、黒い服で戦っていることが気になっているのか


考えれば考えれほどわからなくなる


頬杖をつきながら黒崎君を見ていると彼がこっちを見ているのに気がつき、そして私と視線がぶつかった


ああ、織姫の声がでかいから聞こえちゃったんだ


"だから言ったのに"と思いつつ、私は何事もなかったように、自然に視線を反らした





++++++





「あれ?おかしいな」





足を止めごそごそと鞄を探すが見つからない


そんな私を不思議に思い、先を歩いていた織姫とたつきが戻ってきた





「悠ちゃん、どうしたの?」


「何かね、携帯置いてきちゃったみたい」


「あんた馬鹿じゃないの!?携帯置いてくるとかあり得ないから」





そんなに言わなくても


忘れもんなんて皆するでしょ





「ちょっと取ってくるから先に帰ってて!」


「え、ちょ・・・」


「いいから、織姫。先に帰ろ」





雲行きが怪しくなってきたと思いながら全力疾走で学校に戻った


学校に着くと先生にバッタリ会う


"ども"と挨拶をしてすれ違おうとしたが・・





ガシッ





「うわっ!?な、なんでしょうか・・?」


「なんでしょうか?じゃないだろ」


「と言いますと・・?」





すれ違えずに、いきなり肩を掴まれた


しかも、かなりの力で


笑顔の先生と掴まれている肩がボキボキと音を鳴らしていて物凄く怖い





「まだ課題が出てないんだけど〜」


「そ、そうでしたか。今度出しますね」


「何言ってんだ。今日中に出せ」


「は、今日中って今からじゃ無理に決まって・・ちょっと!?」





私の話を聞かずに"よろしく"と手を上げて去ってしまった


あーあ、携帯くらいで戻って来るんじゃなかったわ


戻って来たことを物凄く後悔した


重い気持ちのまま教室の自分の机を覗き込めば、目当てのものはすぐに見つかった


机の中にあった携帯を取り出し"よかった"と呟くと同時に課題も見つけてため息をつく


今からやると思うと本当に憂鬱になる


そんなに多くないからすぐに終わるが、気分的に今日はやりたくなかった


なんてタイミングが悪いのだろう





「福山・・・?」





携帯と課題を取り出すと誰もいないはずなのに声をかけられた


振り向けば扉のところに立っている黒崎一護の姿が目に入る





「黒崎君・・どうしたの?」


「いや、忘れ物取りに来たんだけど・・福山は何やってんだよ」


「私も忘れ物取りに来たはずなんだけど、課題が今日提出らしくて」





そう言いながら両手の携帯と課題を見せる


すると黒崎君は"ああ"と言いながら教室に入ってきた


私も早く課題を終わらせるために作業に取りかかる


雲行きが怪しくなっているから尚更早くしなければ


晴れだと思っていたから傘なんて持ってきていないのだ


なんて思っていると机に影が降ってきた





「丁寧にやってんだな」





いつの間にか目の前にいた黒崎君

驚いた私はしばらく固まってしまった


こんなに近くで見たことない黒崎君の姿に心臓が波を打っている気がする





「え・・そんなこと、ないです」


「・・・何で敬語?」


「いや・・黒崎君とこうやって話すの初めてだから」





このクラスになってから随分経つが黒崎君とは一度も話したことがなかった


たつきや織姫などの共通の友達はいるが私が黒崎君と関わることは全くない


会話どころか目が合うことすらなかったのではないかと思うほどだ


私が一方的に視界にいれていたりはするが、視線が合うことはほどんどなかった


だからこそ、初めての会話となる今の状況に緊張してぎこちなくなってしまうのだろう


だが何故か今度は黒崎君が私を見て固まった





「黒崎君・・・?」


「あ、いや、考えて見りゃ福山と話すのは先月の日直ぶりだよな」


「あ、そうだっけ?よく憶えてるね」


「・・・まあな」





黒崎君は少し不機嫌そうな顔をして顔を反らす


自分の言ったことに後悔した


日直とはいえクラスメートのことを忘れるなんて最悪だ


しかも、話すの初めてとか言ってしまったし


黒崎君の機嫌を悪くしてしまったことに、凄く罪悪感を感じた





「ごめ「福山はまだ残ってんのか?」


「あ、うん。もう少しで終わるから」


「そうか、気をつけて帰れよ」





そう言って教室から出て行った


謝ることもできなかった


彼にあんな顔させて


・・・何やってんだ私は


ただでさえ普段は話さないのに・・嫌われたかな


凄く悪いことをしちゃった


そう思いながら課題を終わらせるために手を動かした

課題を終わらせるのに時間は掛からなかった


課題を提出してから外に出ると予想通り雨が降っていて、気分は最悪





「あーあ。すごい雨」





いつから降り始めたのかはわからないが水溜まりの大きさから結構前から降っていたのだろうと予想する


そんなこと考えたところで雨が止むわけではないとはわかっているが、傘を持っていない私はどうすることもできないでいた


何故傘を持って来なかったのかと自分を責めることすらめんどくさく思えてならなかった





「・・待ってても止むわけないよね」





止みそうにない雨を見て、走って帰ることを決心した


多少雨に濡れようが風邪はひかないだろう


後でちゃんと拭けばいいし


そう思い雨の中に飛び出すが


私は雨を甘く見ていたと走り出して、反省した


多少なんていえる量ではなくて、髪の毛から流れた水滴が目に入り開けていられなくなる


冷たい雨が容赦なく私の体を打ち付けた


ああ、雨のバカ野郎!!





「うわっ!?」





校門を出て曲がろうとしたとき誰かに腕を掴まれた


いきなりのことで反応できなかったため、後ろに倒れそうになる





「わ、わりぃ!!まさか、そこまで驚くとは思わなくて」


「く、黒崎君・・・?」





落ち着いてみれば腕を掴んだのは黒崎君だった


そして、今私は黒崎君によって支えられていることに気がつく


慌てて体勢を立て直して黒崎君を見た





「黒崎君が何で・・帰ったはずじゃなかった?」


「帰ろうとしたら雨降ってきたから。福山#傘持って無ェと思ってさ」





"暗いと危ねェし"と呟く彼は私に傘を傾けた


まさか、ずっとここで待っていてくれたの


いつ出てくるかもわからない私のことを


あれから待っていたとしたら少なくとも三十分はここにいたことになる


そんな彼の優しさに頬が緩んだ





「ありがとう」


「おう、送ってくから」





黒崎君と肩を並べて雨の中を歩いた



そんなに仲がいいわけでも、話をしたわけでもないはずの私のために


ここまでしてくれる彼


なんていい人なんだろう


そんな彼を私は傷つけてしまったのだ





「さっきはごめん。初めて話すとか言って」


「ああ、別に気にしてねェよ。福山とは特別仲良かったわけじゃねェし」


「そう、だけど・・・」


「俺が一方的に覚えてたってだけの話だ」





さっきとは違って笑いながら"気にすんな"と言う黒崎君


でも、その笑顔が私には無理矢理作っているようにしか思えなくて胸が痛んだ


優しい彼のことだ、私に気を使ってくれているに違いない





「福山の家こっちだよな」


「あ、待って」


「ん、何だ?」


「こっち曲がってもらってもいいかな?」





家へ帰るための道とは一本手前の道を指差す


黒崎君は首を傾げながらも良いよと言ってその道に進んでくれた





「何でこっち曲がったんだ。真っ直ぐの方が近いだろ」


「約束があるんだ」


「友達と約束してたのか?」





その言葉に首を振る


友達って言ったら友達だけど、多分黒崎君が思っているような友達じゃない


でも、黒崎君も分かるはず





「これ、渡さなくちゃいけないの」





鞄から出したのは白とピンクの可愛らしい花は私とあの子の昨日の約束だから






→まだ、続きます

<<│>>

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -