聖闘士星矢 | ナノ

Origin.


彼岸花の幻想


分かっていた。

分かっていたはずだった。
でも、実際には何一つ、分かっていなかったんだ。

覚悟が、足らな過ぎたんだ。


「――……。」


じっと、扉に背中を向けてリビングを見つめる。
白いテーブルには、淡いピンク色のテーブルクロスがかけられている。
おしゃれにあしらわれたレースから見える4つの脚。
その間に、向かい合うように置かれた2脚の椅子。

そこに、自分と彼女は毎日座っていた。

どんなに夜帰りが遅くなろうとも、
どんなに朝早い時間であろうとも、
彼女は常に自分の為に料理を作り、
自分と食事の時間を合わせてくれた。


『ミロ! 今日のは新しく考えた創作料理なんだ!』

『ミロっ、海行きたい、海! そこでデートしよっ!』

『うぁー今日も疲れた…上司厳し過ぎ。でも、頑張らないとだよね!』


いつだって彼女は明るくて。
その明るさがどうしようもなく愛しかった。
辛い時も気遣うことを忘れない優しい心も大好きだった。

それが――…


『……ごめん、ね。情けないね、私。』


彼女が重い病に侵された日から、自分の中で何かが刻まれ始めた。
カチ、カチ…と、静かな病室の中で響く時計の針のように。
自分の中で、何かが鳴り響いていた。


『もう、長くないんだって……。全然ね、体に力入らないの。
料理も作れない。海にも行けない。仕事も何も、できない。』


彼女の睫毛が酷く震えていた。
口元だけ無理やり弧を描かせ、彼女の瞳は影に浸食されたいった。


『ミロと、一緒にいられないよ……。』


瞬きをする度に頬を通る大粒の涙が、シーツを濡らした。
毎日、そんな彼女を見ていた。

辛かった。
酷く胸が痛んだ。

涙を流し、それでも笑おうとする彼女の姿に。
何もできない、自分の不甲斐なさに。


『ミロ、大好き……ずっと、ずっと大好き。
だから……私のことは、……忘れて、幸せになってね。』

『お友だちとも、仲良くやってね…。
お部屋の掃除も、毎日のお食事も、もちろんお仕事だって。
大変なのはわかるけど、サボっちゃダメよ?』

『ミロ、ミロ、…私は幸せ者だよ。毎日ありがとう、本当にありがとう。』


自分の中で刻まれる秒針が、
まるで彼女が息絶えるまでのカウントダウンのように感じていた。


『ミロ…、』


そして、彼女は静かに息を引き取った。


「――……。」


同時に、自分の中の刻が止まった。


「……ナマエ、」


静かに部屋を見つめる。
白いテーブルにひかれた淡いピンクのテーブルクロスは、彼女のお気に入りだ。
これに彼女自身が、レースをあしらった。


『この方がおしゃれでしょ?』


そう言って微笑んだ彼女の表情を、声を、今でも鮮明に覚えている。
いつだってその綺麗な声で自分の名前を呼んでくれていたんだ。


『「――ミロ、」』

「ッ!?」
「……ミロ。」
「あ、あぁ……カミュ、か。」


親しき友が、何とも言えない表情で自分を見つめている。


「なんだ、その顔は。情けないぞ。」
「……その言葉、そのまま返そう。」
「…そう、だな…。」


彼女を失ってから2年が経とうとしている。
まだ、彼女を忘れることができない。


「……夕食の時間だ。」
「分かった、すぐ行こう。」
「そうしてくれ、氷河も待っているのでな。」
「ふ、なおさら待たせては悪いな。」
「そういうことだ。先に、戻っている。」
「あぁ。」


踵を返し、静かに去っていく友の背中を見つめながら、
そこに彼女の背中を捜した。


「いるわけないのにな。」


今年の墓参りを最後に、彼女への想いを思い出とともに断ち切ろう。

何故か急にそう思いついて、ようやく、遅すぎる要らない覚悟を得た。



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今年最初のハナシがコレってどうよ

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