聖闘士星矢 | ナノ

Origin.


想いを囁くチョコレート


「はい、どうぞ。」
「お! さんきゅー!」
「すまないな、ナマエ。」
「ううん、気にしないで。」


まだまだ肌寒いこの季節。何をするにもぶるりと身が震え、執務をやるその気力さえも徐々に奪っていく。
だが、今日はそんな寒さを身体の芯から追い出してくれる温かさが舞い降りてきた。
それは同時に、甘い香りを運んでくる。


「しかし残念だったな、ナマエ。」
「え?」
「こんな日に限ってシャカは遠出なんだろ?」


ソファに身体を預けて休憩をしているミロが、貰ったばかりのカップを手にしてそう言う。
隣に腰を下ろしていたカミュは、口付けていたカップを放し「こらミロ。」と軽く注意をするように名前を紡いだ。
途端、ミロがバツの悪い表情を浮かべながら謝罪を告げる。
それに対してナマエは眉を下げながら首を静かに横に振った。


「悪ィ……。」
「ううん、気にしないで。事実だし。」
「でもせっかくのバレンタインデーなのに、肝心のシャカが居ないんじゃ寂しいだろ。」
「そうだけど……でもシャカだってアテナの聖闘士なんだから。仕方がないじゃない?
それに、あの人ってバレンタインとか全く気にしなさそうだし。」


そう、今日はバレンタインデー。
日本やその周辺国では女性から男性にチョコなどをあげるのが一般的とされている日だ。
このナマエも今こそ聖域にはいるものの、それまでは日本で過ごしていた。
そのため、どうしても女性から何かを男性にあげるという習慣が身に付いていたのだ。


「それにしても、まさか2人から貰えるだなんて思ってなかった!」
「他の奴らからも貰ったんだろ?」
「うん。カードとかお花とか、もちろんチョコも貰えた。」
「こちらではそういう風習だからな。
今では男女という性別を問わず、互いに贈りあうようになってきているが。
ナマエは驚くかもしれないが、時代の進歩というやつなのだろう。」


そうかも。とナマエは小さく呟きながら、ミロとカミュから先ほど貰ったクッキーと小さな花束を見つめる。
休憩にはいった彼らにチョコレートドリンクを渡した時、彼らから贈られたものだ。


「そういえばシャカには何か作ったのか?」
「一応、ね。でもこっちに戻ってくるのは明後日らしいから、とりあえずその日にまた作りなおそうかなって。」


1週間ほど前に任務に就いた愛しい人物の姿を思い浮かべながら、ナマエは薄らを笑みを浮かべる。


「あ、じゃーそのチョコ俺にちょうだい!」
「えー……?」
「ミロ。お前はどうしてそうやって催促をするんだ。」
「だって勿体ないじゃん? どうせシャカには別に作るんだろ?」


だったらちょうだい!
満面の笑みを浮かべたミロに、ナマエはどうしようかなと考える。


「(せっかくだし自分へのご褒美に食べようかなって思ってたんだけど……。)」


自分で作ったものを自分で食べるよりは、こうやって喜んでくれる人に渡した方がいいかな。
ナマエはそう考え、頷こうとした。

――が。


「ほう? 私の物を奪おうとは良い度胸だ。」
「! シャカ!!」
「お前、いつの間に?!」


休憩室の入り口に、聖衣を装着した状態のシャカがいた。
思わぬ人物の登場にナマエはソファから立ち上がり、真っ先に彼のもとへと足を進める。

「シャカ! あなた帰還するのは明後日じゃなかったの?!」
「ふむ、このシャカにとってあの程度造作もないこと。
ところでミロよ、黄金聖闘士でありながら気配に気づかないとは少々油断をし過ぎではないかね?
そういう一瞬の隙が命取りになるのだ。君はもう少し精神力を高め己を鍛え上げ――。」
「はいはい分かった分かった!」
「……ム。」


ミロが苦い顔をしながら手を大げさに振る。
そんな様子にシャカは一瞬眉を寄せるも、すぐにそれは消えた。


「まあ良い。私はこれから教皇のもとへと報告へ行かねばならないからな。」
「え、まだ行ってなかったの?」
「うむ。なにやら甘い香りが漂ってきたから寄ってみたのだが……。」


どうやら、それの香らしいな。
と、シャカの視線はテーブルに置かれたカップへと移された。


「ほら、今日はバレンタインデーだから。」
「……なるほど。では、期待をして私は報告に行くとしよう。」
「えっ?」


ナマエの言葉に小さく頷けば、意味ありげに笑みを携えシャカはそのまま休憩室を後にした。
思わぬ彼の反応にナマエは目を瞬かせる。


「ふ……、シャカも満更ではないらしいな。」
「えっ、……え?!」
「私たちはそろそろ執務へと戻らせてもらおう。」
「ん、そーだな! 良かったじゃん、ナマエ!」


ミロはナマエの肩を叩き、カミュはドリンクのお礼を告げ休憩室を出て執務へと戻りに行った。
ぽつん……とナマエはその場で佇んだまま、暫し頭を働かせる。


「……つまり、シャカも、……チョコいるってこと?」


思わぬ出来事に次第にナマエの顔に笑みが浮かぶ。頬筋が上がり、それを抑えることはできなかった。
報告さえ終えてしまえばその日は休日同然となる。つまりシャカはこの後の予定がないこととなり。


「(一緒にいられる!)」


やった! と1人休憩室で声をあげれば、ナマエは急いでその場を後にする。
彼が戻ってきたときにゆっくりとした時間を過ごせるよう、準備しなくては。
軽い身のこなしで処女宮へと向かいだす。
途中出くわしたアイオロス、アイオリア兄弟に呼び止められたが、ナマエは軽く断りを入れるだけで気にせずに階段を駆け下りていった。



×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -