聖闘士星矢 | ナノ

Origin.


至福の時を噛みしめて


朝陽がその輝きを大地に魅せるよりもずっと前の刻に、サガは目を覚ました。
言葉通り、朝から晩まで働く彼にとってこの時間に起きることはもはや苦ではなく、当然の出来事であった。

とは言え、いつもならばすぐに湯船にゆっくりと浸かり、身支度を整えれば軽い朝食を摂って執務へと向かうのだが、今日は違う。


「ナマエ……。」


すやすやとサガの腕の中で眠りについているナマエ。
瞼を閉じ、口を薄らと開き夢の中を漂う彼女にサガはふっと微笑んだ。
こんなにも幸せだと感じる朝があっただろうか。
サガはナマエの髪を優しく撫で、無防備な額にそっと口づけた。


「…ん、ぅ……。」
「ナマエ?」


ナマエがくすぐったそうに身を捩った。
サガは起こしただろうか、と心配そうにその顔を覗き込むも、ナマエは安らかな表情を保っていた。
それを確認すればほっと息を吐き、自分よりも華奢な肢体を抱きしめる。

今日は執務業は一切休みだ。
とは言っても、自ら願い出たものではなく、無理やり与えられたものではあったのだが。
サガはそんな強引な弟をはじめとする仲間たちに心の中で感謝をした。
この至福の一時がまさかこんな形で与えられようとは。


「……ナマエ。」


昨夜、追い出されるかのように教皇宮を後にして自宮に戻れば、そこには愛しいナマエが夕食の支度をして待っていてくれたのだ。
こんなにも嬉しいことがあるだろうか。

そのまま夕食を共にし、風呂も共にし、床も共にした。
久々の2人の空間に箍が恰も簡単に外れてしまったのだ。随分と無理をさせてしまった。


「私も、もう一眠りしようか……。」


彼女が起きるのは昼ごろだろう。
ならば今日くらいはゆっくりしよう、とサガは再度目を瞑り、体をベッドに沈めた。


「…ガ、……サガ……!」
「っん……。」


体を揺さぶられ、名前を呼ばれる感じがした。


「サガってば。そろそろ起きて?」
「……ナマエ、か?」
「私以外誰がいるっていうの?」


ふふ、ときれいな笑い声が耳に通る。
ゆっくりと瞼を開ければ、ナマエが微笑んでいた。


「おはようサガ。昼食出来上がっているわよ。」
「……あぁ、今行こう。」


そういえば今朝は再度寝たんだった。
サガは先にリビングに行ったナマエの背中を追った。

テーブルの上にはバランスの摂れた鮮やかな昼食が並んでいた。
ゆっくりとこんな昼食を摂るのも久々だと思いながらも、食事を共にした。


「こうやってゆったりするの、久しぶりだね。」
「あぁ、私も今そう思っていたところだ。」
「ほんと?」


なんだか嬉しい、なんて頬を緩ませて微笑むナマエにこちらまで嬉しくなる。
サガはふっと微笑んだ。


「この後はどうしようか?」
「んー……サガはどうしたい?」
「ナマエがしたいことをしたいな。」
「もう……。」


ナマエは照れくさそうに眉を下げれば、じゃあ、と口ごもる。
それに、ん? と優しく問いかければ、軽い上目遣いで――


「サガとこのままゆっくりしたい……な。」
「……いいのか?」


女性というものはショッピングが好きと聞いた。
時間があればデートをしに市街へ行くのだとか。
だから、どこへエスコートしようかなどと考えていた思考は停止した。

そんなことでいいのだろうか。
サガは少し驚きながらも再度問いかける。
だがナマエの答えは変わらず、返事は小さな頷きだった。


「サガと一緒にいたいの。せめて今日だけでもサガを1人占めしたいなぁ……なんて。」
「!」


サガははっと目を開いた。
ナマエは言い終えるや否や、あわあわと落ち着きをなくしたように視線を泳がす。


「あ、ご、ごめんなさい! ……あの、そのっ……!」


遂には、やり場のない羞恥心によって真っ赤に染まった顔を両手で隠す。
その細くしなやかな指を合間から、サガの反応を窺うようにして一瞥する彼女の行動に、愛しさが込み上げてきた。


「……そうだな。今日は2人で、ゆっくりしよう。」
「あ……いい、の?」
「もちろんだ。」


サガがそう言えば、ナマエの表情はぱあっと明るくなる。
普段はお淑やかな女性なのに、こういう時に垣間見える少女らしいところがたまらなく愛おしく想う。


「ナマエ、好きだ……。」
「えっ……?」
「好きだ。……私を待っていてくれて、ありがとう。」
「っや、やだ。どうしたのよ急に!」


そしてまた羞恥に染まるナマエに思わず笑みが零れる。


「いや、……今、言いたくなったんだ。」
「……私も、こうしてサガと一緒にいれるなんて夢みたい。
貴方はとても、……とても遠い人だと思っていたから……。」


元は教皇付きの女官だったナマエ。
あの悪に心奪われる前から知り合いであったからこそ、ナマエには随分と世話をかけた。
長い年月の合間も、ナマエはただ隣にいてくれたのだ。
アテナの加護でこの世に再度生命(いのち)を灯した時には、涙を流してそれを喜んでくれた。

その後、しばし共に過ごしてから古くより秘めていたこの想いを伝えれば、あの時の涙とは別の涙を流して応えてくれた。
出会い初めから想いを通い合わせていたのにも関わらず、こうすれ違っていたのだ。
いや、すれ違っていたのではない。自分がその道を合わせようとしなかったのだ。


「……ナマエ、」
「ん、なあに?」


サガはそっとナマエの頬に手をおいた。
微かにその頬は熱い。


「ナマエ、……。」


こう名前を呼ぶだけでこんな気持ちになれるものだったのか。
初めて知る感情に戸惑いを感じる。だが、それ以上に幸せを感じる。


「ナマエ、ナマエ……。」
「サガ……。」


静かに瞼を閉じるナマエ。
サガは身を近づけ、ナマエの額に自らのを当てて目を瞑った。


「愛してる……ずっと、ずっとだ。」


そしてゆっくりと唇を重ねた。
静かに、ただ重ねるだけのそれも、2人にとっては幸せなものであった。



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…なんか、無性に書きたくなりました。
誕生日間に合わなかったから〜とかじゃありませんよ!(笑)
サガも好き。好き好き大好きです。

後書き長いver. 

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