聖闘士星矢 | ナノ

Origin.



――ここは東シベリア
1日中、いや1年中極寒に支配される世界。
ここに居住区を持つ者でさえ、生半端な防備では死に至らしめられる生と死の境目がいつでも見える場所である。
だが、壮大に広がる氷原を薄いコート一枚とマフラーだけを身に着けスキップする1人の人物がいた。

名をナマエ。
聖域にて一時期は聖闘士を目指すも、現在は宝瓶宮の女官として勤めている一応20歳の女性である。
とは言えども、細く小さな身体に童顔の彼女は何処から見ても少女。到底成人済みのようには見えないが。

そんな彼女。見ただけでも凍えそうな格好をしているが、どうやら本人は平気そうである。
とても楽しそうな表情を浮かべて一軒の小屋にも近い家を訪れた。


「か〜みゅっ!!」


バンッと乱暴にドアを開ける動作とは異なり、まさにハートが飛び散りそうな甘い声でナマエは彼の名を呼んだ。
だが――


「……ナマエさん、」
「また来たんですか……。」


そこにいたのは小さな少年が2人。
しかも2人してジト目で彼女を見ている。厄介者が来た、とでも言うような瞳でだ。


「ちょっと何その言い方。相変わらず態度悪いわね小僧どもが。」
「ナマエさんの口の悪さには負けます。」
「なんだってぇ〜……?」
「ところでわが師カミュでしたら現在出ているのでまだ帰ってきませんよ。」
「は?! な、なんで……?!
私、カミュにちゃんと今日来るからね〜ってお手紙出したわよ! 毎日毎日1ヶ月前から出してたわよ!!」


しかも毎日封筒は分かりやすいよう同じだけれど、便箋は別の物! これでもこだわってるのよ!!
ナマエが声を荒げるたびに氷河とアイザックは迷惑そうに顔を顰めた。
そしてそれがぼそっと口に出る。


「1ヶ月前とか迷惑過ぎる。」
「何か言った?!」
「……いえ。」


くわっ! と般若さながらの顔で近づかれ、アイザックは汗を流しながら視線を逸らした。
そのまま、小さな指で彼はとある一点を指す。


「ちなみにその手紙ならカミュは初めの1,2通を読んだだけで後はそのままあそこ行きです。」
「あそこって……あそこ?!」
「はい。」


彼の指を辿れば、あるのは暖炉ただ1つ。
燃え盛る炎から、パチパチと軽快な音楽だけが聴こえてきた。


「し、信じられない……!!」
「さすがカミュです。クールに無駄なくポイッと。」
「ポイッ?! すぐに?!」
「はい。すぐに。」
「なっ…あぁ、…あ……ぁあ……。」


絶望的なことが今まさに目の前で起こったかのように、ナマエはその場に崩れ落ちた。
がっくし、と頭が下がる。


「あぁカミュ……信じられないわカミュ……。」
「? 何が信じられないのだ。」
「!?」
「わが師カミュ!」
「お帰りなさい!」


冷えた空気と共に扉が開かれ、紙袋を両手にしたカミュが小首を傾げて帰宅してきた。
ナマエはバッと顔をあげて彼を見るが、もはや彼の視線は可愛い弟子たちのようで。


「あぁ、ただいま。言いつけどおり表の雪かきをしてくれていたようだな。ありがとう。」
「いえ! カミュこそお疲れ様です!」
「荷物、持ちますね!」
「助かる。」


ぐぬぬ……とナマエは唇を噛みしめながらゆっくりと立ち上がった。
彼女の横を、カミュの荷物を持った氷河とアイザックが通っていく。
その時に顔を引き攣らせながら、彼女の顔色を窺いながら通っていったのは知る由もない。


「ナマエ? で、どうしたのだ。」
「どうした? どうしたってなによカミュ!!
私1ヶ月前からお手紙出してたのに! 今日来るねってお手紙出してたのに!!」
「あぁ。毎日きちんと届いていた。だが予定では明日ではなかったか?」
「へ? ……あ、あー……早く会いたくなって! 来たの!!」


やばっとナマエは一瞬視線を泳がせた。
そういえばそうだ。予定では明日だった。これでは無理やり押しかけたみたいではないか……。
ナマエはあははと表面上に笑みを浮かべて言い直す。


「そうか……、だが良かった。明日のための食材を今日買っておいて正解だったようだな。」
「か、カミュ……! 私の為に、こんなたくさん?」
「あぁ。それに育ちざかりの子もいるからな。なるべく栄養のあるものを与えなければ。」
「カミュ……嬉しいわ、私の為に、そこまでっ!」


自分に都合の良いところだけを聞き取り、ナマエはカミュの優しさに溺れる。
そのまま彼に飛びつけば、逞しい鍛え上げられた体が支えてくれた。


「今夜はなーに?」
「シチューだな。」
「温かくていいわね!」
「子どもたちが作ってくれるそうだ。」
「は?」
「ん?」


カミュの胸元で浮かべていた笑みが、一瞬にして凍りつく。
そんな変化を察してまたしても首を傾げたカミュに、慌ててナマエは再度微笑みを携えて彼を見上げた。


「あ、ううん、なんでもない! きっと美味しいのができあがるわね。」
「そうだな。私たちはゆっくりと座って楽しみに待っているか。」
「! そうね、2人でゆっくり! 待ってましょ!!」


カミュはカミュで、ナマエもまた子どもたちの作る料理を心待ちにしていると勘違いしているために笑みを浮かべ。
ナマエはナマエで、料理中は2人の間に誰一人として障害物がいない! と喜びに笑みを携えていた。
それは両者が知ることのない思いである。

そしてそれを知っているのは、まだ小さき少年たちのみ……。


「ナマエさんのだけ辛くするか?」
「止めておけ、そんなことをしたら俺たちひとたまりもない。」
「……だな。」



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偶にはこんなヒロインもありかと。

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