聖闘士星矢 | ナノ
夜の帳は下りていた。
月の光すら入らない部屋の奥で、何度も寝返りをうつ。
それでも心地良い体勢は見つからなくて、むしろ虚無感だけが広がっていった。
窓の外へと視線をやる。
真っ暗とした世界には何一つ光は灯っていない。
いつもなら落ち着く暗闇も、今はただ言いようのない不安しか与えてくれなかった。
「――……っ……。」
理由はない。
ただ、どうしようもなく心が嘆いていた。
目尻がじわりとにじみ、熱き雫が頬を伝ってくる。
それを感じて、さらに目から止めどなく溢れてくる。
怖いのかもしれない。
静寂の中、独りだということが。
けれど普段はこの静寂に心地よさを感じているのだ。
それなのになぜ?
分からない。
分かるのは、今のこの時間が辛いということだけだ。
助けを求めることも、声を張り上げることもできない。
「……っ、……!」
どうすればいいのか分からない。
早くこの時間が過ぎてほしい。ただそう願う。
瞼を強く閉じ、身体を守るように丸め、毛布を深くかぶる。
それでも闇夜は、夢の淵へ落とさせてはくれなかった。
なんて残酷なんだろう。
「ナマエ?」
「ッ!?」
何者も存在しえない闇夜に控えめな声が響く。
反射的に身体は大きく跳ね、被っている毛布が擦れる音が鳴る。
こつ、こつと足音がこちらに近づく。
ナマエは毛布からゆっくりと顔を出した。
「……かみゅ……。」
「あぁ、やはり起きていたのか。」
相手の容姿が正確に見えなくても、声とその影でよく分かる。
「どうして……。」
「ふと目が覚めたら、君の小宇宙が不安定に揺れているのを感じてな。」
「……かみゅ……。」
カミュがベッドの隅に腰を下ろす。
安物らしいスプリング音がギシリとなり、同時に彼の重みを感じる。
言いようのない不安は消えない。けれど、独りじゃないという事実が胸を熱くさせた。
「泣いていたのか……?」
カミュの指がナマエの頬を撫で、そのまま目尻まで涙の雫を拾い上げた。
その動作があまりにも優しくて、あまりにも温かくて。ナマエは更に涙を零す。
カミュが困ったように笑ったのを感じた。
「かみゅ、…かみゅっ……!」
身体を起こし、縋るように思いきり抱き着く。
カミュは何も言わず受け止め、そっとナマエの背中へと腕を回した。
そして、ゆっくりと規則的なテンポで背を撫でる。
「大丈夫だ。私はここにいる。」
「っうん…うん……!」
「大丈夫、……大丈夫だ。」
「…かみゅっ…かみゅ……!」
「あぁ。」
彼の声が鼓膜を震わす。
ただひたすら、彼の名前を時折発しながら、その温もりと背を撫でる唄を感じる。
夜の帳は下りていた。
射し込む光はない。
だが、傍に温もりだけはある。
.
言いようのない不安に駆られたことはありますか?
1人や独りに噎び泣いたことはありますか?
その不安や孤独は紛れもない事実だけど、確かに傍に温もりは在ります。
甘えたい時は誰かに甘えてください。
縋る相手がいない時は温もりを探して。
見つけられない時は、いつでも帰ってきてください。
ここはいつだって貴方を待っています。