聖闘士星矢 | ナノ

Origin.



とある深夜のことであった。

アイオリアは、遠出の任務帰りに、同僚である黄金聖闘士数名に引きつられ人の少ないバーへと立ち寄っていた。
しかし、アイオリアはあまり気が進まないのか酒を少ししか飲んでいなかった。
その一方で、彼を連れてきたデスマスクやミロは酒をがばがばと飲みほし、しばらくたてば酒が体中にめぐり、テンションが高くなって暴走し始めたのだ。
アイオリアは同伴していた他の仲間に2人を任せ、1人被害を食らわないようにとカウンターに逃げるようにその場を去った。

今夜は、不思議と静かに独りで飲みたい気分だったのかもしれない。
アイオリアはなるべく壁に近いカウンターに向かった。
すると、そこに1人の先客が。視界に入った途端に、はっと目が見開かれる。
流れるような金髪に、色気を帯びた甘い青の瞳の女性が1人でカクテルを口にしていたのだ。


“きれいだ”


それが、ただただ直感的に思ったことだった。
その女性の周りだけが、どこか別の空気に包まれているかのような雰囲気で。
アイオリアが吸い込まれるようにその女性を見つめていると、視線に気づいたのか女性と目が合う。
慌てて逸らそうとすると、その前に女性は艶のある唇を少し上げた。


「お兄さん、そんなとこつっ立ってないで座ったら?」


ほら、と容姿に違わない美しい声が、先ほどまで独りでいたいと思っていたアイオリアを隣へと座らせた。


「何飲む?」
「いや、俺は……。」
「あら、何も飲まないでここに座るのかしら?」


くすくすと上品に笑う女性にアイオリアはまいったな、とまんざらでもない様子で眉を下げた。
「決まらないなら、私のと同じでいいかしら?」とアイオリアに訊ねれば、本人はただ静かに頷いた。


「マスター、ホワイトレディ、もう1つ。」
「はいよ。」


ただ注文するだけのその動作すらも、ひたすらに綺麗だと感じる。


「お兄さん、お名前は? 私はナマエ。」


ナマエ……ナマエというのか。
アイオリアの胸に温かい何かが広がっていった。
たかが名前を知れただけでこんな気持ちになったのは初めてだ。
多少の動揺は受けたものの、アイオリアも自らの名前を名乗った。


「アイオリアだ。」
「アイオリア……素敵な名前ね。」


そしてまた、ナマエは上品に笑う。
と、マスターがはいよと口にしながら、アイオリアの目の前にグラスを置く。
軽く礼を告げれば、それを壊さないように持ち上げ、口付けた。


「ん、……結構強いな。」
「そう? 確かにこれは強いけど……もしかして、ダメだったかしら?」
「いや、たまにはいいものだ。」


それはよかった、とナマエはそれをまた口にした。
こくり、と静かに喉がうなる。
一連の動作に、アイオリアは見惚れていた。
ただの酒を口に含むだけなのに、こんなにも魅了され、惹きつけられるのは何故なのか。
アイオリアは考えていた。


「……そんなに見つめられたら、恥ずかしいわ。」
「あ、あぁ……すまん。」
「ふふ、なんだかアイオリアってば面白いわね。」


ナマエが目を細めて微笑う。
アイオリアはきょとん、と目を丸めそうか? と返した。


「えぇ、真剣な顔しちゃって……何を考えていたのかしら?」
「……君が、……。」
「私が?」


――君がどうしてそんなにも美しいのかを、考えていた。
アイオリアはそんな柄にもない言葉を飲み込んだ。


「君みたいな女性がこんな時間に1人で飲んでいるのは危ないな、と……。」


とっさに浮かんだ言葉がそれだった。
ウソを言っているわけではないが、決して今までそれを考えていたのではない。
言い終わってからアイオリアはしまったと内心焦った。
これではまるで出会ってそうそう説教をたれ始めた男だと思われてしまうではないか!

しかし、そんなアイオリアに対してナマエは嫌な顔一つせず、ただ微笑んでいた。


「心配してくれるの? 優しいのね。」
「あ、いや……その……。」
「ふふっ。」


たじたじになるアイオリアにナマエは楽しそうな表情を浮かべながら、再度カクテルを口にする。


「私、この時間にここで飲むのが好きなの。」


ほら、この時間って人少ないじゃない?


「……俺を誘って、よかったのか?」


あえてこの時間帯、この席を選んだということは、誰にも干渉されずゆっくりと時を過ごしたいということだろう。
アイオリアはそう解釈し、自らを隣へと誘ったナマエに訊ねれば、ナマエは小さく頷いた。


「だって貴方を見たときに思ったの。」


艶のある唇が弧を描く。
アイオリアはとくん、と胸が大きく跳ねたのを感じた。


「貴女と一緒に飲みたいなって。……迷惑、だったかしら?」
「いや、……俺も、……君と飲みたいと思っていた。」


アイオリアが素直な自分の気持ちを言えば、ナマエは良かったと綺麗に笑った。
そして、グラスに少しだけ残った白い液体を飲み干せば、静かに席を立つ。
アイオリアはただナマエを見つめていた。


「もっと話したいんだけど、もう帰らなきゃ。明日早いのよ……残念。」
「また、……会えるか?」


いつ来られるかもわからないのに、ほぼ無意識にその言葉を口にした。
ナマエは小さく目を丸めて驚いた表情を浮かべるも、すぐに微笑んでみせた。


「会えるわよ。その時はもっとゆっくり、大人の時間を楽しみましょう?」
「!」


がたん、とアイオリアの座っている席が音を立てて動いた。
目の前に広がるナマエの整った顔立ちをぼうっと見つめる。
どのくらいそうしていたかは分からないが、すっと額に触れたそれが離れていく。


「またね、アイオリア。」
「っ、ナマエ……!?」


とっさに触れられたそこを抑えながら、アイオリアが声を上げる。
ナマエはそんなアイオリアの様子にくすくすと楽しそうに笑いながらバーを去って行った。


「な……。」


アイオリアはただ呆然と、ナマエの去っていった扉を見つめる。
次第に顔に血が集まるのを感じ、いよいよ自分でも制御が効かない程に全身が沸騰していく。
マスターがくすりと笑ったのも知らず、アイオリアはそのカクテルを飲み干した。


「っはぁ……マスター。」
「何ですかい?」
「これは、何と言っただろうか。」
「それかい? それは――」



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アイオリアー(笑)
大人な演出で魅力的に仕上げたかったんですけど、
意外と難しい……。

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